建築コスト(第2話) ~CM編~

連載シリーズ 【 建築コスト(第2話) ~CM編~ 】 第 2 話 / (全 3 話)

さて、前回の続きです。
工事が開始して2ヶ月、順調に進み、1回目の中間検査を受けるました。
※1回目の中間検査:基礎の配筋をした時点で検査官が検査をします。

その報告をするために、桜田先生は、ゼネコンの現場監督である浅川所長(仮名)とともに、山岸さんのお宅に報告に行きました。

桜田先生と浅川所長が、概ね中間検査の報告を終わると、山岸さんが

「いやぁ、基礎の配筋の報告をされても細かいことは解らないから、そこはお任せしますよ。ところで、ちょっと、ご相談があるんですが、いいですか?」

と、その相談は桜田先生ではなく、浅川所長に向けられたものでした。

浅川所長が、言葉を発さず山岸さんの方を向くと、山岸さんは

「洗面台なんですけどね、ちょっと良い物を見つけたので、それに替えたいんですがいいですか?」

浅川所長は、その時は単なる仕様変更だと思いました。そこで、

「どちらのメーカーのものですか?品番がわかれば・・・」
と言いかけたところで山岸さんが

「えっと、どこのメーカーだったかな?なんか、台湾製か韓国製のものだったような・・・。」
浅川所長もさすがに唖然として

「あの、カタログとか、どちらで見られたとかが解れば、こちらで調べますが・・・」

山岸さんは、浅川所長に手で話を制止して、

「その必要はないですよ。実は、ホームセンターで見つけたんです。ですから、うちでホームセンターでまとめて買って、ホームセンターから直接、現場に入れてもらいます。」

その時点で、桜田先生が口を挟みました。

「いやいや、単純にものが現場に入るだけじゃダメなんですよ。その洗面台の給水や排水口の位置が、今の洗面台と位置が違ったりすれば、場合によっては取り付けられない場合もあります。それにその洗面台そのものの大きさが、現在、計画されているものと違えば、入らない場合もあります。ですから、発注する前にカタログなりを取り寄せて、確認しないといけません。」

山岸さんも、産業機械の技術屋さんだけあって、
このことはすぐに理解していただけたようでした。

程なくして、桜田先生のところにカタログが送られてきました。とりあえず、今のものから、山岸さんの希望するものに替えることは設計的には問題は無さそうでした。

そこで、再び、山岸さん、桜田先生、浅川所長で打合せをすることになりました。

まず、浅川所長が切り出しました。

「ところで、その洗面台の取付は、ホームセンターの方でやってくれるんですか?給排水と電気工事は、設備屋と電気屋がやるので同じなんですが、各戸への配置は今の計画では、洗面台のメーカーが行います。」

山岸さんは、どうやらその辺りのことは、まったく考えていなかったようで、

「ちょっと、ホームセンターに電話して聞いてみます。」

と言ってすぐにホームセンターに電話をしていました。

そして、すぐに電話を切ると
「いや、現場に搬入するところまでだそうです。ですから、取付は浅川所長の方でお願いします。」

浅川所長は困った顔をしました。
「大変、言い難いんですけど、取付費が見積もりよりも上がってしまいますが宜しいですか?」

山岸さんの顔が一瞬曇りました。
「どうしてですか?同じような洗面台なのに取付費が変わるんですか?」

「はい、当初の計画では洗面台メーカーの関連会社が取り付ける予定だったので、取付費用が安かったんですが、全く関係ない洗面台を入れるとなると、その会社は使えません。取付だけの手間賃ということになってしまうと、どうしても費用が上がってしまうんです。」

「そうですか・・・。とりあえず、いくら上がるかを教えてください。」

この件については、取付費が上がった分よりも、
洗面台が安くなった方が大きいことが後日わかります。

浅川所長はさらに1枚の紙を手渡しました。。
「それとですね、そのホームセンターに伝えて欲しいのですが、現場への搬入は、この計画でお願いします。」

その紙には、洗面台を何月何日に何個搬入するという計画が書かれていました。それは8回に分けて搬入するという計画でした。それを見た山岸さんは

「結構、細かく搬入するんですね。私はてっきりまとめて付けるものだと思っていました。しかし、解りました。ホームセンターには伝えておきます。」

しかし、後日、第1回目の搬入のときに、なんと52個の洗面台がまとめて現場に持ち込まれました。当然、現場監督と配送業者は大もめになりました。

浅川所長は、慌てて山岸さんにこのことを伝えると、山岸さんはあっさりと・・・
「いやぁ・・・、浅川所長の搬入計画はホームセンターにも伝えたんです。ところが8回に分けると思った以上に送料が掛かるので1回にまとめました。現場で保管してもらえませんか?」

浅川所長は、しばらく絶句して言葉が返せませんでした。それでも、少しずつ説明をします。
「申し訳ないですが、現場に置いておく場所はありません。もちろん、現場事務所にもさすがにこの量を保管する場所はありません。」

山岸さんも困ったらしく

「では、どうすれば良いですかね?」

浅川所長は咄嗟に
「倉庫を借りるか、ホームセンターに引き取らせて、計画通りに配送してもらうしか方法がありません。」

山岸さんはホームセンターに当初の計画通りに配送しなおすように依頼したのですが、一度、配送したものを引き取ってくれることはホームセンターはしませんでした。結局、倉庫を借りることになります。

最初に使う洗面台8個以外の44個分を収納できる倉庫を近くに借りることになりました。近くと言っても、車で20分ほど掛かる場所です。結局は倉庫と現場の往復の運搬費も掛かることになります。(これについてはゼネコンが負担したそうです。)
しかし、倉庫代がバカになりませんでした。

結果的には当初の計画のものの方が安かったということになります。
その後、倉庫代の負担や取付費の追加をゼネコンは山岸さんに請求することになるのですが、当然、最初からその見積を出していたのですが、山岸さんの計画が大きく狂ったこともあり、追加工事の費用について、ちょっと揉めることとなりました。

山岸さんは少しでも、安くしようと思って、自分でゼネコンの見積よりも安いものを探した結果なのですが、これは私に言わせれば、『素人の浅慮』としか言えません。

つまり、現場でどのように物が作られていくのかという手順を知らないから起こったことです。
ですから、CMというのは、それなりの知識を持った人でないと難しいわけです。

しかし、このような事はよくあることです。
他の事例については第3話で書くことにします。

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建築コスト(第1話) ~CM編~

連載シリーズ 【 建築コスト(第1話) ~CM編~ 】 第 1 話 / (全 3 話)

大型の賃貸マンションなどを建築しようとする時に、
当然ながら、建築主は、『如何に安く作るか!』という命題に当ります。

これを考えずに、ゼネコンの言いなりの仕様、近隣の不動産会社の言いなりの仕様、もしくは設計を依頼した設計士の言いなりでマンションを建築すると高いコストについてしまいます。

そこで、一般的にはCM(コンストラクション マネージメント)を取り入れます。

これは、時々、分離発注と勘違いする人がいるのですが、狭義の意味に於いては分離発注もCMの一部と考えてよいでしょう。

さて、分離発注を簡単に説明をしておきます。

あるマンションの見積をゼネコンAとゼネコンBに依頼しました。

ゼネコンA:5億円
ゼネコンB:5億5千万円

各社は上記の見積を出してきました。この時点で、ここまでの価格差があるとゼネコンAに発注しようとします。

しかし、よく見積を比較してみると、各戸に入れる流し台(キッチン)の価格が、

ゼネコンA:10万円/台
ゼネコンB:9万5千円/台

同じ仕様にも関わらず、ゼネコンBの方が安い。だからと言って、ゼネコンBから流し台だけを発注する訳にはいきません。

そこで、キッチンメーカーなどと直接交渉をして、ゼネコンAに流し台を別途にしてもらい、流し台を建築主が支給する方法を分離発注方式といいます。

これを、流し台に限らず、多岐の分野に渡ってやれば、大幅なコストの削減になります。
ハウスメーカーなどでは、極々当然に行われています。

しかし、ハウスメーカーのような組織で、しかもプロ集団が、建築の流れ、物流、倉庫などのを完璧に押えてやるから出来るのであって、素人がやると大変なことになります。

そこで、登場するのがCM会社です。

CMを専門にやっている会社もありますが、別にCMを専門にやっている会社に頼む必要性もなく、普通の設計事務所でCMを得意とするところに依頼するというのでも、一定の効果はあげられます。

設計事務所の中には、過去にゼネコンで現場監督の経験があったり、ハウスメーカーの購買発注関係の仕事をしていた人が独立してやっている場合もあります。

普通の設計事務所、もしくは設計しかやったことのない建築士の見積のチェックというのは、粗雑なチェックになり勝ち(というか、良くわかっていない)が多いですが、現場監督、購買発注、積算の経験がある建築士がいる設計事務所であれば、充分にその効果をあげることができます。

もちろん、建築主にその能力があれば、建築主がそれを行うことも出来なくはないのですが、一戸建ての注文住宅レベルなら別として、3階建て以上で10戸以上あるような共同住宅などで、この能力が無い人がやると大変なことになります。

ある知人が設計した現場で、こんなことがありました。知人は桜田先生(仮名)という、私よりもちょっと早く一級建築士になって、まもなく一級建築士暦20年というベテランです。もともとゼネコンの設計部や工事管理部にいたキャリアもあります。

建築主は山岸さん(仮名)という方で、相続で一定の資産を得て、将来のことを考えて、相続した土地に賃貸マンションを作ることにしました。この建築主の方は、まだ、現役で働いている方です。仕事は、産業機械を開発する会社の技術系の方でした。

桜田先生が設計した、マンションは地上9階だての52戸のマンションです。

簡単な概要ですが、1階はエントランスと管理人室と駐車場。
2階~6階までがワンルーム(約25㎡)で各階8戸の計40戸
7階~9階までが2LDK(約50㎡)で各階4戸の12戸

このマンションで大変な問題が発生しました。

どのような問題が発生したかについては第2話で書くこととします。

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