信用金庫Aの喚起

連載シリーズ 【 信用金庫Aの喚起 】 第 4 話 / (全 5 話)

今日は、最近あった不動産取引の話を前提に金融機関の話を書きます。
ちょっと、というか長文ですが、最後まで読んで頂けたら幸いです。
私は、昨年の秋ごろから、ある地主に頼まれて、その地主の持っている借地の契約更新を行っています。その地主は、海外在住のため、私は仲介という立場ではなく、その地主の代理という立場で、いくつかの借地の契約更新に臨むことになりました。
その地主の希望は、「借地としての契約更新として、更新料と新賃料での契約」もしくは、「借地権者が、希望するのであれば、適正価格での底地権の売却」でした。
更新料、借地料、底地権の売却価格の最低価格だけ決定しておいて、その手法を含め、ほぼ全権を委任してもらう様な形で代理人を勤めることとなりました。
最初は、ある借地権者との交渉で、更新料と新地代での契約となりました。そして次は、底地権を買い取ってもらうこととなりました。この時、その底地権を買取る借地権者は、その資金を信用金庫Aに融資を依頼しました。決済当日、私はその借地権者と信用金庫Aで決済したのですが、その信用金庫Aの担当者K課長の準備の悪さに、少なからず辛気臭さを感じました。
平成23年11月1日(火曜日)
さて、その地主さんの3件目の借地の話です。
最初は、その借地人さん(以下、「借地人A」といいます。)は、最初はそのまま借地の更新をするつもりだったのですが、やはり、子供のことを考えて、底地を買取りたいと言ってきました。
実は、私としてはこの土地は、「借地契約の更新にして欲しいなぁ・・・」と思っていた土地でした。それは、この土地が、やや複雑な状況にあったからです。
その土地の状況というのが、図1の様な状態です。
リデベ(再開発)の社長のブログ-現在の状況
この土地には、借地人Aの他に、借地人Aから、更に借りている転借人Bの家がありました。一応、借地人Aと転借人Bの間に転貸借の契約書は存在するのですが、分筆されている訳ではありません。
転借人Bの家は、昭和40年代築の建物ですが、確認申請も検査済証もあることは確認できていました。私の調査では登記も、ちゃんとされていました。
問題は借地人Aの建物です。
図1のオレンジの部分がやはり、昭和40年代の建物なのですが、確認申請も検査済証もありません。さらに、水色の部分を昭和50年に増築していることも解りました。しかも、この増築部分を含め、建物の登記がされていないことも調査済みでした。
もちろん、借地人Aが、自己資金で底地権を買ってくれるのであれば、単純に売却して終わりなのですが、やはり、金融機関から融資を受けて買いたいということでした。しかも、その融資を受ける先は、信用金庫Aにすると言い出しました。
私はその時に、
「この土地を担保に融資を受けるのは難しいと思うのですが・・・」
と借地人Aに言いました。しかし、借地人Aは
「信用金庫AのK課長から、この土地を担保に融資すると言っているから大丈夫です。」
と、言われました。その時の所感は、
『随分に優しい金融機関だこと・・・』
しかし、それを言ったのがK課長だということで、心底のどこかに苦りを感じずには、いられませんでした。そこで私は、信用金庫AのK課長に・・・
「本当に大丈夫なのか?」
(既に前回の取引で、面識もあり、その際の不手際もあって、やや苛立った言い方をしました。)
「ええ、借地人Aさんとは、過去にも取引もありますし、大丈夫です。」
『過去の取引での信頼関係はともかく、土地の状況を理解しているのか?と聞いているのだが・・・』
と思いつつも・・・
「本物件について、解らないことがあれば、なんでも聞いてくれ。また、出して欲しい資料があれば、できる限りの協力をするから、遠慮なく言ってくれ。」
と言いました。
信用金庫Aの課長は、私の決済希望日、つまり融資予定日を平成23年11月末日に対して、
「余裕をもって、同年12月中旬にして欲しい。」
と言ってきました。そこで私は、借地権者Aと同年12月20日で、融資特約付契約を締結しました。
(融資特約付契約:融資がその期日(今回のケースで言うと平成23年12月20日)までに実行されない場合は、契約を解除するという契約)
平成23年11月8日(火曜日)
契約した翌日、K課長から電話が入りました。
「借地人Aさんの建物が登記されていないんです。」
『知ってるよ!で・・・』と思っていると
「そこで借地人Aさんの建物を登記しないと、融資実行できないんです。12月中旬までの余裕を持っていて良かったです。」
「じゃあ、借地人Aの建物登記ができれば、融資実行はされるんですか?」
「はい、大丈夫です。」
「本当ですか?他に問題があるのであれば早目に言ってくださいね。」
借地人Aさんは不動産に関しては、全くの素人です。そこで、私の方で知り合いの家屋調査士を呼んで、借地人Aの建物を登記しました。なんとか、11月末日までに登記が終わりました。
平成23年12月12日
さて、融資予定日まで、あと9日と迫ったときに、私は確認のためにK課長に電話をしました。
「融資実行は大丈夫ですよね?」
「実は・・・」
「何か問題でもあったんですか?」
「転借人Bさんの建物が登記されていないんですよ・・・」
「いや、登記されていますよ。」
「いや、謄本が取れないんです・・・。」
「では、私が謄本を用意すれば、融資実行はされるんですか?」
「もちろん、できますが時間が・・・」
「20日に間に合わないということですか・・・」
「稟議をまわして、社内の決裁を貰う時間を考えると、ちょっと厳しいんです。なんとか、月末まで待っていただけませんか?」
「借地人Aの了解が貰えれば、こちらは構わないが、融資特約の条項が無効になることを理解できていて言っているんだろうな?」
「もちろん、資料が揃えば融資実行はかならずします。」
「しかし、月末ではだめだ。御行は12月30日まで営業しているかもしれないが、法務局は12月28日までしかやっていない。12月28日がリミットだな。しかも、うちの会社が12月28日は大掃除だ。」
「では、12月27日決済でお願いします。」
「じゃあ、今日、法務局に私が行って謄本を取ってきてやる。」
K課長が転借人Bの建物謄本を取れなかった理由は、概ね想像がついていました。
パソコンに頼ったからです。
私も、最近は謄本を取るのは、インターネットで取ります。(もちろん有料です。)
しかし、建物の謄本を取るためには家屋番号が解らないととれません。通常、家屋番号は・・・
東京都港区本麻布一丁目103番5(実在しません。)という地番の上にある場合
東京都港区本麻布一丁目103番地5の1とか、建物が同一敷地内(同一の筆の中にある場合)に複数ある場合は103番地5の2、3・・・・となっていきます。
しかし、これは土地の地番が先に確定していればの場合です。
一つの土地に建物が複数あったとして、その建物が登記されたとします。例えば・・・
港区本麻布1丁目103番5の土地に建物が2つあったとします。その後、しばらく経ってから、その建物に合わせて、土地を分けたとします。
家屋番号は
103番地5の1と103番地5の2となりますが、103番地5の2の家屋番号の土地が103番5から切り離されると、その建物の地番は103番5ではなくなります。
運がよければ(その番号があいていれば)、港区本麻布一丁目103番6になるかもしれませんが、場合によっては港区本麻布一丁目200番になるかもしれません。
こうなってしまうと、インターネットで103番地5から、手当たり次第に家屋番号を入力して調査することになり、現実問題、登記できているかを調べることができなくなります。
この様な場合の調査の方法は簡単です。
法務局に行って、
「ここに建物があって、登記されていることは間違いないんだが、地番と家屋番号が一致しない。おそらく、建物が先で、土地がその後に合分筆されて地番が変っているから、家屋番号を調べてくれ!?」
と言えば、調べてくれます。
案の定、5分で謄本が出てきました。昔は、物件毎に法務局まで行って調べたものですが、インターネットで謄本も取れれば、住宅地図も見ることができます。それに頼りすぎると、こういう問題が発生します。
しかし、私はこの土地の問題の本質が、ここにないことは解っていました。
私は謄本を持って、信用金庫Aに向かい、K課長に
「謄本持ってきたよ。これでいいか?」
「よく、解りましたね?」
「あのなぁ・・・。少しは、想像の翼を拡げて色々な事態を考えれば簡単だと思うのだが・・・」
と言って、前記のことを説明しました。
「さすが、相澤さんは、キャリアが違うというか・・・」
というその先の言い訳を聞くのが面倒だったので、申し訳ないとは思いつつも話の骨を折り、
「これで、27日の融資実行はできるんだろうな?」
「これさえあれば、大丈夫です。」
このK課長の言葉で絶対に、この融資実行は無理だなと思いました。そこで、私は
「もし、御行が融資実行をしなければ、借地人Aは底地権者に対して違約になる。契約書には目を通していると思うが、すでに手付解除の期限も過ぎている。もし、売買が成立しなければ、違約金の上に、この借地権を維持しようとすれば更新料と地代が発生する。その事を理解しているんだろうな。」
「もちろん、解っています。大丈夫です。」
私はこの日の夜、底地権者に電話をしました。
「おそらく、借地権者Aの土地の売買は無理だと思います。詳細を電話で説明するのは難しいです。」
底地権者さんは一言・・・
「御意に任せる。」
12月23日(金曜日)
決済まであと5日と迫った日の夕方でした。
私は別件で、別の不動産会社と打合せが終わって、忘年会に行こうとしていました。
そこにK課長から携帯が鳴りました。
携帯を出るときにそろそろ気がついたか・・・と思いつつ、無視しようとも考えたのですが、結局、その電話に応答してしまいました。
「相澤社長、今、よろしいですか?」
「来週の決済の件ですか?」
無理だと知っていながら、聞きました。
「実は、本店の決裁が取れなくて、もう少し時間を頂けませんか?」
「話の意味が見えない。具体的になぜ、決裁が取れないのかを教えて貰えなければ、応えようがない。」
「本店に融資の稟議を廻し、従前に了解を得ていたのですが、本店から今の状態では決裁できない。と言われまして・・・」
「その今の状態というのを具体的に言って貰えなければ、地主に説明できないだろ。」
「はい・・・。しかし、本件は売主様(地主)には、関係のないことで、借地権者Aと転借人Bの問題ですので、私からは情報を提供できないんです。」
「では、結論だけ聞こう。融資実行をするのかしないのか?するとすれば、いつなのか?」
「申し訳ありませんが、来年1月27日まで待ってもらえませんか?」
「うむ。それは了解したが、解らないことがあれば、無理をしないで聞いてくれ。」
「ありがとうございます。」
さて、この時点でこの融資実行が、何故、私が無理だと思っていてかを書いておこうと思います。
借地人Aの建物の確認申請、検査済証が無いこと、登記がされていなかったことは大した問題ではありません。登記がされていないと、金融機関が抵当権を付けた土地にある建物の所有権が不明なのは困ります。だから、建物の登記をしなければならないのは当然です。これは、借地人Aの建物の所有者が不明だと、この抵当権を侵害する可能性があるからです。しかし、前述の通り、この建物は、すでに築40年、増築部分も築30年ですから、金額的評価としては、無視していいということになります。
さて、転借人Bの建物の登記の有無ですが、これは実際問題、どうでもいい話なのですが、借地権というのは建物の有無がものを言います。その上で転借人Bの建物が本当に転借人Bの建物かを確定する為に謄本が必要になります。(通常、借地権と言うのは利用目的を明確にしています。「建物を建てるため」という理由があるならば、その建物の所有権が明確にならないと、もし、この建物に全く別の権利が存在すると、抵当権を侵害する可能性がでてきます。)
しかし、最大の問題は、この土地の底地権が借地権者Aに移ったときのことです。
この土地は借地人Aが転借人Bに貸している部分が、はっきりとは、わからないことにあります。一筆(権利上、分かれていない土地)に2つの権利が存在します。
この土地全体に抵当権をつけたとします。借地人Aが、返済できなくなれば、抵当権者(信用金庫A)は、抵当権を実行します。つまり、この土地は競売に掛けられることになります。その場合、借地人Aが所有者になっているわけですから、抵当権が実行されれば、借地人Aは退居することになるのですが、転借人Bは抵当権設定の前から、そこに借地している権利があるので、その権利は保障されます。
もし、借地人Aが、抵当権を実行して競売にしようと思っても、転借人B(その時には転借人ではなく、借地人になっています。)に対して、面積はともかく、土地のどこの部分を貸しているのかが明確ではないことになってしまうので、この土地は極めて評価が難しい土地ということになります。
ここで不動産の知識がある人ならば、借地人Aと転借人Bの土地を明確にする為に分筆すれば良いと考えると思います。
まず、この土地を借地人Aと転借人Bの権利が及ぶところに分割します。現在の土地所有者は地主なので、分筆することは地主しかできません。
もしくは、抵当権を行使する時に分筆するという手段もありますが、その場合は土地全体から、借地人Aの権利の及ぶところに抵当権を集約する必要性があります。土地の面積が100坪で、借地人Aと転借人Bの権利が半分なら、借地人Aの権利部分50坪に抵当権を移します。しかし、信用金庫Aは、当初、土地全体に抵当権をつけています。20年返済で19年返済が終わっていて、最後の5%しか借金が残っていないならば、抵当権を借地人Aの50%部分に集約することも可能ですが、1年(5%)しか返済が終わってない時点で、借地人Aが返済不能になった場合、借地権者Aの部分だけでは、信用金庫Aの評価に足らない可能性が出てきます。
しかし、不動産の知識のある方ならば、今回は底地権の売買ですから、評価額の50%以下で取引されていることは想像できると思います。
つまり、信用金庫Aは、本土地全体に抵当権をつけても、転借人Bの権利を阻害しない様にしてこの土地を分筆して、借地人Aの部分だけを競売すれば、現在の価値で不動産価格が推移していることを前提に債権を回収できることになります。
ここで建築に知識のある人であればある疑問にぶつかるはずです。
転借人Bの建物が確認申請も検査済証もあるということです。建築基準法第43条で、建物と言うのは、接道が2m以上なければ建てられないということです。
転借人Bの建物は、建築当時、道路に対して2m以上の接道が確保されていました。
しかし、転借地権の場所が不明確だったために、借地権者Aがその2mの部分に建物を増築してしまっています。この時点で転借人Bの建物は、「既存不適格」ということになります。
では、最終的に抵当権を行使する事態が発生することとなったとします。
予め、分筆しなければ、金融機関Aが融資できないとすれば、現所有者である底地権者が分筆を行います。この場合、底地権者は転借人Bの権利を阻害する様な分筆はできないので、転借人Bの建物が既存不適格にならない様に分筆することとなります。
信用金庫Aが抵当権を行使する場合に分筆する場合でも同じことが言えます。
これが図2の分筆しなければならない状況です。
リデベ(再開発)の社長のブログ-分筆するとすれば

しかし、土地の所有権が底地権者から借地人Aに移っていた後に、転借人B(その時は借地人)が、借地権を売却しようと考えたとします。判例から、その時の所有者が借地権の売却に応じなくても、所有者の権利を著しく毀損そなければ、裁判所が売却を許可します。
しかし、この借地権の売却を阻害するのが、借地権者A(この時には底地権を有している)の建物が、転借人Bの建物を既存不適格にして、更には借地人Aの増築部分が転借人Bの土地に再建築できない状況を、転借人Bの権利が発生してから、その権利を阻害しているということが問題となります。
図2の様な分筆をすると、借地人Aの建物(増築部分)が転借人Bの権利を阻害していることになり、この分筆ができないということになります。
したがって、この土地に抵当権をつけて融資することは、極めてリスクが高いということになります。
故に、私は本物件の底地権の売却は困難であると考えていました。
しかし、信用金庫Aは融資実行をできると言ってきました。
平成24年1月18日(水曜日)
私は、前日の新年会のせいで、午前中は二日酔いというよりも、まだ酔っ払っている様な状況のまま、午前中を過ごしていました。そこに信用金庫AのK課長から携帯に電話が入りました。
「相澤さん、今、電話よろしいですか?」
気分が悪いこともあったのですが、要件は容易に想像がついていたこともあります。
「手短にお願いできますか?」
「では、結論から・・・。今の状況では借地権者Aには融資できません。」
「どういうことですか?」
「権利関係が非常に難しいことになっていまして・・・。それを解消しないと・・・。」
「具体的にどうやったら解消でき、解消できれば融資できるんですか?」
「はい。借地人Aと転借人Bの権利を明確にする為に土地を分筆していただく必要があります。」
「分筆すれば融資できるんですか?」
「できます。」
私は、このK課長が本件の本質に未だに気がついてないことを察しました。
「すいません。今、時間がないので、明日、御行に行って話しを聞きます。明日の午前10時に伺いたいと思いますが・・・」
「わざわざ、来ていただいて宜しいですか?ご迷惑でなければ、支店長と一緒に御社に行きますが?」
「どうせ、通り道ですから、私が御行に行きますよ。」
「すいません・・・」
こんな会話でしたが、ついに支店長の登場か・・・という思いはありました。
平成24年1月19日(木曜日)
私は信用金庫Aに行きました。
すぐにK課長と支店長が来て、他のお客さんには目の届かない応接室に通されました。
金融機関の密室は慣れているので、どうということはありません。
私は、話の結論が見えていることもあったせいか、
「寒いですね。明日は雪になるって天気予報では言ってますよ。」
たぶん、穏やかに話を進めたかったのかと思います。その話に応じて
「そろそろ、お湿りがあった方が良いかもしれません。」
しかし、私はことの重要性に気がついていない彼らに対して
「明日、私があちこちに行かないで済めば、その方がいいですね。」
と応えました。するとK課長が
「相澤さん、実は昨日も御電話で話したように、借地権者Aと転借人Bの部分を分筆していただかないと融資できないんですよ。その理由はですね・・・」
私はその理由を聞く前に怒りを前面に押し出して言いました。
「知ってるよ。だから、言っただろ。解らないことがあるなら聞け。欲しい資料があるならば出来る限り出してやると・・・。分筆しなければ、転借人Bが、御行の抵当権を侵害するからだろ!」
一瞬、会話は止まり、支店長が
「相澤さんは、わかっていたんですか?」
「当たり前だ。金融機関は担保主義だろ。その担保が確保できない状態ならば融資できない。馬鹿でもわかる。」
「そ・・・そうなんです。ですから、分筆を・・・」
「今、分筆するのは底地権者しかできないよな?」
「はい、ですから・・・」
「断る!」
「しかし、分筆しないと融資実行が・・・」
「分筆しても御行は融資しないからだよ。」
「いえいえ、そんなことは・・・」
私は、前記のことを説明しました。そして、支店長は
「そ・・・その状況では、分筆したとしても・・・融資は難しいです。」
「物件を見たか?転借人B建物をの借地権者Aの建物が権利を阻害していることは、一目瞭然だろ」
「見てはいましたが、実際に測ることはできないので・・・」
「L字溝の幅と転借人Bの通行できる幅を見れば、測らなくてもわかるだろ?」
「L字溝って、道路の端にある・・・。それとどう関係が?」
「こんなことを自慢する訳ではないが、L字溝ってのは、JIS規格で60センチ幅になってるんだよ。枚数数えれば比較できるだろ!」
「気がつきませんでした。」
私の怒りというか呆れ度合いは頂点に達していました。
「感情論の話はしたくないが、敢えて言わせて貰う。御行は物事の本質が見えていないから、今回の事態が発生したということが解らないのか!?」
K課長も必死だったと思います。
「今回の物件は調べれば調べるほど、色々出てきまして・・・」
その言葉は私を余計に挑発することになり、私は一気に言いたい事を言いました。
「信用金庫と銀行の違いがなんだかわかるか!?
信用金庫はな、メガバンクと決定的な違いがある。
営業エリアも限定されている。大企業に融資することもできない。
しかしな、地元の人が、信用金庫にお金を預け、そのお金が地元の為に使われる。
それによって、自分たちの住む場所が活性化されると思っているから利用するんだ!
K課長が毎日、地元を歩いている。その姿を見て、借地権者Aも信用金庫Aなら、なんとかしてくれると信じていたんだ。
信用金庫の社会的使命とはなんだ?
メガバンクと同じこと、同じ判断基準でものごとをやるなら、メガバンクの方が我々は安心して仕事ができるんだ。
仮に大して貯金もしない。融資の申込をするわけでもない。それでも地元の中小企業の経営状態を一緒になって考えて、地元を良くするのが信用金庫の社会的使命ではないのか!?
支店ノルマがあるのも解る。
個人としての営業ノルマもあるだろう。
そんなものは、企業として当然のことだ。
それでも、企業としての社会的使命を無くしたら、その企業の存在価値なぞ誰も認めない。
これが企業の本質なんだ。この本質が見えなかったから、この土地の本質も見えないんだ。
融資ノルマばかりを考えて、この不動産に抱える本質を見ることができなかったんだ。
今回、御行が梯子をはずす事は解っていた。だから、底地権者には、従前にそのことを伝えてある。
だから、底地権者は御行には期待していない。
ただ、借地権者Aのことを地主として悪いようにしないで欲しい。御行ができなくても、地主はなんとか借地権者Aのことを考えているんだ。自分もそう考えている。
今回の件は、仕方が無いが、次回以降、同じことをしないでくれというのが地主としての要望だ。」
その時、支店長の精一杯の言葉は・・・
「申し訳ありませんでした。」
でした。
私は、この話を借地権者Aに伝えました。そして、時差を考慮して夜に地主にある提案をしました。
「借地権者Aに出来る限りのお金を払って貰おうと思います。契約金額には足らないと思います。残額を割賦払いでご容赦していただけないでしょうか?勿論、贈与にならない金利はつけます。当然に、地主が債権者となって抵当権もつけます。このまま、借地権者Aに違約を言い渡すことは、あまりに厳しいかと・・・」
不動産の売買で売主が買主に抵当権をつけて、所有権を移転するというのは私も経験はありません。しかし、1970年代には、今で言うパワービルダーである、太平住宅や殖産住宅は、自分たちの分譲住宅を売るために金融機関の替わりに自分たちで融資していたという事例はあります、
「任せる。」
一言でした。私は、地主の了解を得たことで、その事を明日の午前10時に借地権者Aに伝え、決済までの方法を打合せすることとしました。
1月20日(金曜日)
朝9時過ぎに私は自宅を出てバス停までの道を歩いていました。
すると・・・K課長から携帯に電話が入りました。
「相澤さん、借地権者Aさんとこれから打合せされますよね?」
「そうだが・・・」
「その前にちょっとで良いんでお話できませんか?」
普通だったら、信用金庫Aに寄っても、借地権者Aのところに十分に間に合う時間でした。しかし、その日は、東京では初雪で、交通網の混乱が想定されていました。故に少し早目に自宅を出ていました。
「この状況だからなぁ・・・。間に合えば寄るが・・・。とにかく、着いた時点で電話する。」
「お願いします。」
結局、9時半には、信用金庫Aに着くことができました。信用金庫Aから、借地人Aのところまで歩いて5分なので、時間的には余裕がありました。
ところが、支店長もK課長もいません。
窓口の女性に、
「K課長に来る様に言われたんだけど・・・」
というと、その女性は上司と思われる男性に、その男性は慌てて携帯でなにかを話していました。
今までも何回も、信用金庫Aには行っていますが、対応するのはK課長と支店長だけで、他の行員が私のことを特別扱いすることはありませんでした。
しかし、この日は違いました。
私を見るなり、一斉に慌しい雰囲気になり、その空気は一瞬で察することができました。
5分もすると支店長とK課長は、外から帰ってきて、私はいつもの密室に通されました。
一応、今年の初雪だったこともあり天気の話をちょっとして、しかし、時間もないことから私から・・・
「どういう、ご用件ですか?」
というと、K課長が切り出そうとするのを制して、支店長が
「昨日、借地権者Aさんへの融資はできないといいましたが、なんとか私たちにやらさせてもらえないでしょうか?」
「はぁ?物理的に無理でしょ・・・」
「はい、本物件を担保に融資するのは無理です。しかし、いくつか方法を考えまして・・・」
「具体的に・・・って言っても、融資相手は借地権者Aだから、それを借地権者Aに言う前には無理か・・・」
「すいません。そうなんですけど・・・。なんとか決済日を待っていただければ・・・」
「決済日を待つと言っても無期限は無理だし、それ以上になんで、昨日は無理で今日は可能なのか?」
「はい。昨日、相澤さんに信用金庫の使命とはなんだ?と言われたことが心に残りまして、なんとか自分たちで出来ることはないかを考えました。その結果、いくつかの方法を考えました。
私たちは信金です。信金は地元の人に雨が降るときに傘を差し出すのが仕事だと、相澤さんに言われて、今までもそのつもりでいたのですが、実際には気持ちだけで・・・。でも、実行しなくては意味がないと考えました。」
一瞬、戸惑いました。
「わかりました。具体的な決済日を提案してください。」
正直、底地権者も決済日は気にしていません。無期限は無理でも常識的な範囲ないなら良いと考えました。ただ、杓子定規な回答しかできない自分がいました。
それ以上に金融機関が私の感情論によって動いたことに驚きを感じました。
支店に私が入った瞬間に空気が変ったのも、すべての行員が昨日、私が言ったことを知っていたものだと思います。
生意気なことを言ったな・・・と思っています。
しかし、この町がこの信用金庫Aと一緒に少しでも良くなれば・・・
自分の仕事をして良かったと思います。

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