リストラ ~第3話~

連載シリーズ 【 リストラ ~第3話~ 】 第 3 話 / (全 16 話)

会社組織だけではないのでしょうが、組織の中で正論を唱えても、正しい事はなかなかできません。

かつて、私が勤めていたH建設の役員会議の席である役員(K取締役)が言いました。

「相澤の言っている事は正論だとは思うが理想論でしかない。」

「今、私の言っていることを『正論』とおっしゃいましたか?」

「そうだ。正論だと言った。」

「では、K取締役も私の言っていることは『正しい』とは認識してくださってるんでしょうか?」

「そんなことは一言も言っていない。」

「では、聞きますが、正論とはどういう意味ですか?」

「・・・。とにかくだ、今回の相澤の意見は却下する。」

これは私が新しい工法を提案した時の話ですが、結局、その案は却下されてしまいました。

その案が採用されるのにはその後、5年の月日が掛かりました。K取締役がある問題で退任されたことによって、私の意見に反対する人がいなくなったからです。


と、この様に書くと、私の意見をK取締役が意図的に反対している様に感じるのですが、実際にはそうではなく、K取締役は本来あるべき住宅の情緒を大切にしたかったのです。しかし、私は生産の効率性と構造の安定を求めたことによる意見の対立だったので、単に論点が噛みあわなかったのですが、最大の問題は私が

『自分の意見は完璧だ』

と信じていたことにありました。今、考えれば、その案そのものは正しかった事は間違いないのですが、事前に根回しをしないで、役員会に臨み、役員会の席で役員と対立してしまったことにあります。

よく、会社の上司や、年輩の人を見て、

『なんで、ロクに働いてない、あんなのに高い給料払っているんだよ。』

みたいな事をいう若い人がいます。私もそうだった様に思います。

しかし、それを言う若い人はその上司や年輩の方が若い時にどんな風に仕事をしていたかを知らないはずです。そして、それを言った自分が将来、どうなっているかを断言できないはずです。

つまり、自分より先輩の方には自分の意見を言った後でも前でも必ず、先輩の意見に耳を傾けて、馬鹿にしないで真面目に一考するべきです。

上司を煽てて、なんとか了解を取ることが根回しではありません。

上司の言っていることをよく咀嚼して、自分の意見と協調させていくことが根回しなんだと考えています。

リストラの続きです。


私は技術部門から営業企画部に異動になりました。

しかし、営業企画部はそもそも、営業部門の中ではエリートコースですから、他人の評価は左遷ではなく栄転という評価でした。しかし、当時の私は技術畑一本で、住宅の生産性の向上や品質の向上をやっていきていて、不動産や営業のことは全くわかりませんでした。


どれくらい、解っていなかったかと言うと、異動になって、営業企画部の仕事について1週間程研修を受けることになりました。私の研修をすることになったのはO課長です。O課長はH建設きってのキャリアウーマンでした。


「相澤君は計算が得意だから大丈夫だと思うんだけど、この団地の収支計画を作ってみてくれる?」


「わかりました。」


研修ですから、既にO課長が収支計画を作っているものを試しに作るだけです。ほどなくして出来上がりました。


「あれ、少し計算があわないわね。何がおかしいのかしら・・・」


私の収支計算の方が少し、原価が高く出ていました。


「あの~。O課長の収支計算は消費税が一部、抜けているからだと思います。」


「え?私、間違ってた?」


「土地に消費税が掛かっていません。」


「相澤君・・・。土地って、非課税なのよ・・・汗


「えっ!そうなんですか・・・ガーン


「あはは・・・。相澤君でも知らないことあるんだね!」


と、こんな感じでした。


営業企画部のS部長もやはり、もともとは技術系の課長でしたが、I常務によって営業企画部の部長に抜擢されました。私はもともと、S部長ともよく話す仲ではあったのですが、M部長の配下にいた私を欲しがるとはとても考えられなかったので疑問には思っていました。


異動になって3ヶ月が経って忘年会がありました。


忘年会の後に、二次会、三次会と行われ、大分人数が少なくなった頃にS部長が


「相澤、もう一軒付き合わないか?」


と言い出しました。

特に断る理由もなかったのですが、もう、終電も終った頃で、ほとんどのお店も開いてなく、結局、屋台のおでん屋に座りました。


とりあえず、かなり飲んではいたのですが熱燗を注文し、出てきた熱燗を私がS部長にお酌しようとすると、


「ああ、まずは俺に注がせろ」


「ありがとうございます。」


S部長は私に注ぐと自分は手酌で注いでしまいました。


「まずはお疲れ。」


「お疲れ様です。」


「どうだ、営業企画部は?少しは慣れたか?」

「はい、O課長にも良くしてもらっていて、大分、慣れてきました。」


「そうか、O課長も相澤は飲み込みが速いし、良くやってると言っていた。」


「いえいえ、いつもご迷惑掛けてると思っています。」


「ところで、相澤はなんでうちの部署に来たか知ってるか?」


「はぁ・・・」


私がシドロモドロしていると・・・

「M部長にはなんと言われたんだ?」


「えっとですね・・・・S部長断ってのお願いと聞きましたが・・・」


「そうか、M部長らしいなぁ・・・」

「えっ、違うんですか?」


「いや、相澤がうちの部署に来ることになった時には俺も嬉しかったさ。I常務も喜んでたよ。しかし、M部長が相澤を手放すなんて思わなかったからな・・・。あのな、M部長から俺に相澤を貰ってくれと言ってきたんだよ。」


「そ・・・そうなんですか・・・しょぼん


「相澤,勘違いするなよ、M部長はお前のことをいらなかったわけじゃない。お前の将来を考えてのことだったんだよ。」


その時、私はまだよく意味が解りませんでした。相当、酔っていたからかもしれませんが・・・。




次回に続きます。


さて、明日からまた忙しいけど・・・





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