公正証書の効力 ~立退きの場合~
ここで、公正証書の効力を書きますが、私は不動産や建築の専門家です。
不動産業界で公正証書を使うとすれば、『事業用定期借地契約』の時ぐらいで、あまり、公正証書を使うことはありません。
※ 専ら事業の用に供する建物を所有する目的で設定される借地権で、契約の更新がなく、契約上の存続期間が経過すれば確定的に終了するものです。この契約は、公正証書によってすることが要件とされています。
では、何故ここで公正証書の効力について書いているかと言うと・・・
公正証書によって、『立退き』(賃借人の退去)の約束が確約されると勘違いしている人が多いからです。土地売買の確約に公正証書を使ったという話は聞いたことがありません。しかし、賃借人の退去の約束を公正証書にしたという話は何度も聞いたことがあります。
「相澤さん、やっと、〇〇町のアパートの人から退去の確約とれましたよ!」
「よかったねぇ。そろそろ、手伝ってあげないと辛いかな・・・。と思っていたけど自分でできたんだ。」
「はい!ちゃんと、公正証書にもしました。」
「なにを?」
「えっ。何をって、〇月〇日までに退去するという約束を公正証書にしたんですよ。」
「もしかして、賃借人を公証人役場に連れて行って、公正証書にしたの?」
「もちろんですよ。」
「公証人から、その公正証書に立退きの効力が無いことの説明無かった?」
「・・・。効力ないんですか?法務部にもチェックしてもらったので内容は完璧かと・・・」
「やっぱり、俺が行った方が良かったかな・・・」
この類のやり取りは何度もしたことがあります。
公正証書の効力は、前述の『事業用定期借地契約』と『任意後見人契約』を除けば、
『金銭債権の強制執行権』
だけです。もちろん、債務者に支払い能力や財産がある場合に限ります。
つまり、退去の約束を公正証書にして、賃借人がその約束の期日までに退去をしなかったとしても、その賃借人をその公正証書で退去させる強制執行権にはなりません。退去の約束をさせる場合には『和解調書』(『即決和解』とよく言われるもの)を裁判所で作ってもらう必要性があります。
もちろん、全く効力が無いかというと、そうでもありません。公正証書というのは、裁判の時に重要な証拠になります。
例えば、賃貸人と賃借人が合意解約を締結し、それを書面にしたとして、その書類に実印で捺印し、印鑑証明を添付したとしても、賃借人がなんらかの形で賃貸人に脅されたと言い出せば、話はややこしいことになります。しかし、公正証書の場合は、公証人という第三者が、内容を読み返し、賃貸人と賃借人にその内容を説明します。その上で、公正証書に押印するので、退去の約束をしたという、ほぼ完璧な証拠になります。
しかし、賃貸人にとって、賃借人に立退きを迫るときというのは、概ね早く出て行ってもらいたい場合が殆どであり、できれば裁判を省略して、裁判費用も掛けたくないはずです。公正証書は重要な証拠になるので裁判には勝てる可能性が極めて高いですが、裁判を経由しないと公正証書の約束を実行できないという場合があるわけです。
また、公正証書を締結しているということで賃借人に精神的圧力を与えることができるという効果もあります。
他にも、金銭に関わらない契約内容の部分、例えば
『本業務が完了するまでは、私は貴方に誠意をもって協力します。』
などという部分を公正証書にしている事例を見たことがありますが、公正証書の意味を理解していないで、上記の通り、後の裁判の際の証拠作りをしたかったのかとしか思えません。もし、公正証書の趣旨を理解していて、この類の約束を公正証書にして証拠作りをしようとしているということは、余程、相手を信用していないということですが、裏を返せば、証拠作りをしないと相手が約束を守ってくれない、つまり、相手に信用されていない人のやることとも言えます。
以前、『立退きの際には内容証明を送ってはいけない』という記事を書きましたが、『立退きの際には公正証書は効力を発揮しない』ということも、よく覚えておいてください。
※ 内容証明を送ってはいけない記事はこちらから・・・【立退き】内容証明
公正証書は、『金銭債権の強制執行権』があると書きましたが、これもただ単純に公正証書を作るだけでは不可です。『強制執行認諾約款』を公正証書内に明文化しておく必要があります。『強制執行認諾約款』とは、債権者が
「支払いを怠った場合には、強制執行をされても異議を申し立てません。」
という主旨の内容です。これが無いと、公正証書が在っても、裁判を経由しないと強制執行はできないということです。
前述の和解調書は個人でもできますが、基本的には弁護士を必要とします。リデベでは、弁護士費用も含めてトータルでご相談に乗ります。
特にお急ぎの場合には、すぐにリデベにご相談ください。
まずは1本、お電話ください。些細な疑問にも答えます。プロ、アマ、一般の方、すべて歓迎。