違法建築物を不動産業者は説明しなくてよいのか?(売買編)

先日、当社のところにこのような相談が舞い込みました。

「契約して、手付金を払った物件ですが、契約後に、『検査済証』が無いことが解りました。これは違法建築だと思うので契約を白紙解除(※2)したいのですが、相手は手付解除(※1)でしか応じないと言って、手付金を返してもらえません。手付金を放棄するしかないでしょうか?因みに仲介業者はいませんが、売主そのものが、不動産業者(法人)です。」

※1手付解除…支払っている手付金を放棄して、契約を解除すること

※2白紙解除…契約そのものが無かったことにすること。当然、手付金は返還されます。

この情報だけだと実は非常に難しい話です。

この情報だけだと、検査済証が無いことを、売主が知っていたかが争点になると考えられます。(宅地建物取引業法47条)

と言うわけで、契約書、重要事項説明書、クライアントが役所で取得した建築計画概要(どのような確認申請をしたか)、台帳証明(完了検査を取得しているかどうか)を送って貰いました。

さらに、当社の方で、土地、建物の登記情報を取得しました。

登記情報では、敷地面積は150㎡、建物は1階が87.5㎡、2階が88㎡、3階が91.5㎡とあります。また、建物が登記されたのは昭和62年です。

本物件の場所は、建蔽率60%、容積率200%の都市計画法上の第一種住居専用地域エリアです。道路幅員は4.5mです。

そこで、気が付いたことがありました。

1.契約書と重要事項説明書に書かれていること

1)「本物件は『既存不適格』である。」と書かれていること

2)「建蔽率と容積率がオーバーしているが、これは既存不適格によるものであるため、再建築の際には、同等の建物は建てることができない。」と書かれていること・

3)「建蔽率(1.0%)オーバー、建物は(4.0%)オーバー。」と書かれていること。

と書かれています。

2.台帳証明と建築計画概要をみると

1)台帳証明を見る限り、やはり完了検査を受けていません。つまり検査済証はありません。

2)建築計画概要をみると、敷地面積は165㎡、建築面積92.8㎡、延べ床面積は269.4㎡とあります。

まず、『既存不適格』とは、その建物が建てられた時(厳密には確認申請を取得した時)の法律には、合致している建物であるが、その後、建築基準法及び関連法規、条例等が変わってしまったために、現行法に抵触してしまっている建物のことを言います。

この建物は、完了検査を受領していないので、すでに建築基準法に抵触しているので、既存不適格ではありません。

では、既存不適格によって、建蔽率や容積率がオーバーしているかどうかです。

ここで問題となるのは、昭和62年以降に建築基準法によって建蔽率や容積率が変わった点は2つあります。

・マンションなどの共同住宅の共有部分の容積率参入の緩和

・道路幅員による、容積率の規制

この2点です。つまり、容積率は、規制が厳しくなることもあります。しかし、建築基準法で建蔽率が厳しくなると言うのは、聞いたことがありません。

考えられるのは、都市計画法や地域条例の変更により、規制が厳しくなった場合です。

しかし、都市計画法で建蔽率が緩和されるケース(住宅系地域から、駅や幹線道路の拡張などで商業系地域に変わる)ことは考えられますが規制されるケースは稀です。唯一、考えられるとすれば、都市計画区域外から、都市計画区域に変更になったケースです。

そこで、本物件の所在するA市役所の建築指導課に問い合わせてみました。

案の定、都市計画法の変更も条例による建蔽率の規制も昭和62年以降はありませんでした。

ここで、電話でA市役所の建築指導課の担当に、なぜ、このような質問をするのかを聞かれました。理由を説明すると、面白い返事が返ってきました。

「たしかに、この物件は完了検査を受領していませんね。しかし、それは手続き上の不手際があっただけで、違法建築とまでは、言い切れません。」

実は、この類の回答は、多くの役所の若い担当が同じことを言います。そこで、私は聞き返しました。

「違法建築だとか、違法建築物という言葉は、建築基準法に定められている用語ではないが、どういう定義で、その言葉を使っているのでしょうか?私は、その建物が同法に抵触している建物かとどうかが、違法建築であると認識していますがちがいますか?」

その担当は

「その認識で間違いないと思います。」

と回答しました。私は

「では、本物件について、同法7条1項から5項に抵触しています。また、同法第99条に第7条に関する罰則規定もあります。これをもってもこの建物は違法建築ではないと言えますか?」

若い担当は、建築基準法第7条を電話の向こうでぶつぶつと唱え始めました。そして・・・

「い・・・違法建築で間違いありません。しかし、既存不適格でないとまでは言い切れないかと・・・」

もう、これ以上、この担当をいじめても仕方がないので、ここら辺で辞めておきました。しかし、これで本物件の所在するA市役所も本物件が、建築基準法に抵触する建物であることは認めたことになります。(もちらん、担当者の名前も会話の内容も録音されています。)

しかし、これだけでは売主である宅建業者が、完了検査を受けていない違法建築物であったかを知っていたかどうかは解りません。

実際問題、宅建業者であれば、その建物が完了検査を受けているかどうかを調べるぐらいのことは当然にやらなければならないのですが、宅地建物取引業法第35条(重要事項説明)には、違法建築の記載事項が明記されていません。最近では、どの役所でも、それを調べることを勧めていることから、訴訟に持ち込めば、同法35条の記載事項に明記されていなくても

『売主が目的を達成できない』(民法570条)

に該当してアウトとなることは想像できるのですが、訴訟に持ち込まなければならない煩わしさがあります。そこで、決定的なミステイクを探すこととしたのですが、ありました。

まず、この契約の契約書と重要事項説明書には、『既存不適格』と書かれていることです。

前述の通り、『既存不適格』とは、新築時には合法であったが、その後の法改正などによって、現行法に合致しなくなった建物のことです。

しかし、この建物は完了検査を受けていないことから、自動的に『建築基準法に抵触した建物』であり、『既存不適格』ではありません。

また、建蔽率と容積率がそれぞれオーバーしていると書かれていることも問題です。この売主である不動産業者は、登記情報の敷地面積と登記情報の建築面積から、建築面積と延べ床面積を算定して、建蔽率と容積率を判断しました。

しかし、登記情報の敷地面積が確認申請時の敷地面積と合致しているとは限りません。建築基準法に於いての敷地面積は、建物を建築する部分の敷地面積を言います。それは、建物が建っている地番の敷地面積ではありません。隣の地番の敷地と合わせて建てても問題はありませんし、登記情報の敷地面積が古い情報で、新たに測量した結果を使っても構いません。また、新たに測量した結果を登記するかどうかは、その時点の土地所有者が法務局に地籍公正をしたかどうかによります。

また、建物の大きさについても同じことが言えます。今回の登記情報による建物の延べ床面積は合計すると267㎡です。しかし、確認申請時に出されている延床面積は269.4㎡です。

よく勘違いされている人がいるのですが、確認申請の延べ床面積というのは、建築基準法で定められた面積です。建築基準法の所管は国土交通省です。登記情報に出ている面積は土地家屋調査士法に定められる面積です。土地家屋調査士法の所管は法務省です。

例えば、建築基準法では1/2未満しか外気に接していない外部階段は容積率対象面積になりますが、土地家屋調査士法では、外部階段は一律面積から省かれます。

ちょっと、変な感じがしますが、建築基準法とは、建物の安全性から、1/2以上の解放が無ければ、外部階段としての要件(火災時の換気、竪穴区画としての問題)を満たしていないと考えられます。しかし、土地家屋調査士法は財産権を測定しているので、外部階段は面積に含まないのです。

建蔽率や容積率というのは、都市計画法によって定められ、建築基準法によって遵守しなければならないものですから、登記情報の面積によって、建蔽率や容積率がオーバーしているということは出来ません。

この建物の場合、確認申請は合格していますが、完了検査を受領していないので、確認申請通りに建物が建てられているかどうかの判断ができません。つまり、建築基準法で言うところの建築面積や延べ床面積は不明であり、建蔽率や容積率がオーバーしているということは不明ということになります。

この2点より、売主である不動産業者は、契約書と重要事項説明書に虚偽の記載をしたことになります。

(業務に関する禁止事項)

第四十七条  宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をしてはならない。

  宅地若しくは建物の売買、交換若しくは賃借の契約の締結について勧誘をするに際し、又はその契約の申込みの撤回若しくは解除若しくは宅地建物取引業に関する取引により生じた債権の行使を妨げるため、次のいずれかに該当する事項について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為

つまり、知らなかったことは書けないにしても、虚偽記載をするということは

「不実のことを告げる行為」

に該当します。

結果的には、このことを中心に当社から弁護士に依頼して、売主にこの内容証明を送ってもらいました。

それまで、

「絶対に手付解除だ」と言っていた、売主はすぐに白紙解除に応じて、手付金を全額返済しました。

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