リストラ ~14話~
私はひたすら、特許や商標登録が取れるかを調査する日々が続いていましたが、やっと、それも終りそうになってきました。
その間に特許を19、実業新案を12、商標登録に至っては44を申請しました。ですから、実質上、3日に1回ぐらいの割合でなんらかのパテントを申請していたことになります。もちろん、実際に3日に1回行ってはいません。申請はある程度をまとめてしています。
そんなこんなで1年が経とうとしていました。
その頃のR会長は、若手の中間管理職を個別に会長室に呼んで面接を行っていました。ある日、人事部経由で、R会長が個人面接を私にも1週間後に行うという、お達しがきました。
R会長の面接の日がやってきました。事前にR会長との面接は一人30分程度だと、既に面接を受けた社員から聞いていました。私の面接は朝9時(始業時間9時)からでした。
私は普段から時間にはルーズな方で、今もそうですが遅刻をよくします。しかし、この日ばかりは30分前に会社に行き、5分前には会長室の隣にあった応接室で待機していました。
「相澤君、最近は忙しいのかな?」
「いえ、なんとか、パテント関係の仕事も目処が立ち、最近は落ち着いています。」
「では今日はゆっくり、話ができるかな?」
この日は会長面接ということもあり、午前中はすべてのスケジュールを空けておきました。しかし、ゆっくりと言っても30分だから・・・という思いもあり、
「はい、会長とお話できる時間をいただけて光栄です。」
と私は言いました。
会長はなにやら書類の入ったファイルを見ながら私に言いました。
「相澤君は総じて、どこの部署からの評価が高いね。」
「はぁ、そうなんですか?」
「そうか、この人事考課は君は見ていないから解らないな」
すいません。以前も書きましたが、自分の事を優秀とは書きたくないのですが話の展開上、そういうことにしておいてください。
「自分は自分の与えられた仕事をこなしているだけです。」
「あはは、相澤君らしいね。以前も君はそう言っていたらしいね。」
私はR会長とまともに話したことはありません。上司と一緒に稟議を持って行ったことや、役員会の席で特許を申請する為の重要性や予算について話た際にR会長から意見を求められたこと等はありましたが、二人で直接話す機会はありませんでした。
私がきょとんとしていると・・・
「相澤君がM部長のところから、去る時に『サラリーマンは「行け」と言われた場所に黙って行くものだと思う』と言ったそうじゃないか!」
それを聞いて、そのことが会長の耳にも届いていたんだと、その時、初めて知り・・・
「生意気なことを言ってすいません。」
「いやいや、生意気だなんて思ってない。最近の若い連中は「設計から営業に行け」と言えば、「じゃあ、辞めます。」だの「入社時との約束が違う」などと騒ぐのもいるが、相澤君の態度は正しい。そういう考えを誰に教わったんだ?」
「誰に教わったという訳でもないんですが、そういうものだと思っていました。強いて言うならば、私は入社直後にどこの部署に行きたいかを人事部に聞かれた際に『第一設計部』と答えました。人事部からは、『希望部署に入れてやる』と内示がありましたが、実際に辞令を見ると『第二設計部』でした。しかし、それは会社が判断することで私がどうこう言う立場にないと思います。もっとも人事部には『うそつき!』と内心、思いました、と同時に『第二設計部』って夜間かな?とも思いましたが・・・」
会長は大きな声で笑いながら・・・
「相澤君ははっきりと物を言うね!面白い。でも、それは人事部が約束できないことを言うのが悪いよな。」
「まぁ、人事部にも、その時の都合があったんだと思います。私が第一設計部でも第二設計部でも会社全体で考えればどうでもいい事だと思います。それにもう、随分前のことですから気にしていません。」
「それにしたって、相澤君にだって、この会社でこんなことをしてみたいと思うことはあるだろ。」
「それはもちろん、いっぱいあります。」
「じゃあ、第二設計部に配属と言われた時には頭に来ただろ。」
私は、会長面接って入社時の配属先の不満を聞いてくれるというか、聞き出すためのものなのかな?それとも、若い中間管理職の不満を聞くためのものかな・・・?それに『自分がなにをやりたいかを聞くのが普通なのに、まだこの話続くの!?』と思いながらも
「正直言うと、頭にきました。実際に当時、まだ現役だった、私の父にもその話をしました。」
「ほぉ、それでお父さんはなんて言ったんだ?」
一呼吸、なんて言われたかを思い出して・・・
「はい、『サラリーマンとはある意味、会社の奴隷だ。しかし、それも自分の選んだ道だ。会社の奴隷が嫌なら、サラリーマンにならないことだな。』と言われました。」
「なるほど、それで相澤君はお父さんになんて言ったんだ?」
「『じゃあ、自営業か、その会社で経営者になれば会社の奴隷にならなくて済む。』と言いました。」
「そうだな、それでお父さんはなんて言ったんだ?」
まるでR会長は私の父がなんて言ったのかを解っているようでした。
「はい、父は『経営者はな、社会の奴隷なんだよ。』といいました。」
「ははは!全くもってその通りだ!」
R会長は私にそれを言ったというよりも、どこか遠くに向かってそれを言っている様に感じました。
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