リストラ ~12話~

連載シリーズ 【 リストラ ~12話~ 】 第 12 話 / (全 16 話)

H建設はもとも、木造の分譲住宅と注文住宅を両軸に仕事をしていました。販売用地の仕入れ、企画、設計、施工、販売も一括で行い、そのどれかを外注することは極めて稀な会社でした。リフォームもやらないことはなかったのですが、実際には、H建設の家を買ってくれたお客さんから頼まれたからやると言った程度で、本格的に業としていることはありませんでした。


また、それとは別に一部、木造のアパートや鉄筋コンクリート造のマンションを作る能力もありました。ただ、施工するだけではなく、その施工を依頼された方から頼まれて、賃貸管理などもやっていました。

しかし、いずれも頼まれたからやっているという感じで、本格的に業としてそれをやろうとは考えていませんでした。



それは、創業者の意向が強かったからです。

H建設の創業者はもともと戦後すぐにH建設を立ち上げました。

創業の理由は・・・



「自分は陸軍の工兵だった。工兵と言っても、軍の営舎や陣を作る部隊だった。そこで、建物を作ることを学んだ。そして、敗戦になり、東京に帰還してみると、焼け野原でみんな家を失っていた。自分には家を作る能力がある。だから、空襲で家を失った人に家を作ってあげようと思った。」

これがH建設の創業理由です。

ですから、H建設は、分譲住宅を行う為に土地を仕入れることはありましたが、不動産投資や不動産投機を行うことは決してしませんでした。ですから、バブル崩壊により、景気が悪化して売上げが減ることはありましたが、下手な不動産投資などは行っていなかった為に、それによって会社が赤字になったことはありませんでした。



また、R社長も創業者の意向を尊重して、決して不動産投資などは行いませんでした。

さらにH建設は、ある意味、物凄く御人好しの会社でした。自分達で編み出した工法は、特許を取らずに全て公開し、また、住宅金融公庫(現在の『住宅金融支援機構』)の基準などにも、H建設の工法を積極的に提案し、採用されていました。これにより、独自で工法の開発などができない、小さな工務店でも、公庫基準に従えば、ある一定の品質、技術を保てる家ができました。

ところが、独自の開発をしても、それを独占しない為に大きな利益をあげることがなかなか出来ません。

それでも創業者を筆頭に



「自分達は、自分達の作った家に笑って暮らしてくれることが幸せだ。」



という会社でした。

ですから、家を作ることだけしか出来ない会社だったのですが、なぜか『新規事業部』という部署ができあがりました。しかし、第9話でも書いた様に新規事業部という部署は殆どのメンバーが使えなさそうなメンバーでした。

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