【開発】L字溝 第3話
さて、前回、L字溝の話を書いてるのに、一度もL字溝の話が出てこなかったという、お叱りを頂きましたので、今回はちょっとだけ、L字溝の話を書きます。
随分前ですが、ある不動産(駐車場)を見にいきました。その不動産が売りに出ているという噂だけで見にいっているので、物件概要はありません。謄本だけは取り寄せているので地積は解っているのですが、地積測量図などはありません。その頃の仕事は設計です。その土地に
「どんな分譲住宅が設計できるかを検討してくれ」
というのが依頼内容でした。
私に依頼した営業のK氏と一緒に土地を見に行き・・・
「あのさぁ、地積測量図ないの?」
「ないんだよなぁ・・・」
「じゃあ、ロングテープで計ろうか・・・」
※ロングテープとは30m以上ある巻尺のことです。
「あ、ダメなんだよ。所有者から、土地に入るなと言われてるんだよ」
「そっか・・・。じゃあ、ちょっと適当なプランになるよ。」
と言って私がその不動産のL字溝と囲まれてる万年塀を数えだしました。
※万年塀はこちらです。
「それは仕方がないとして・・・なに、やってるの・・・」
「土地の寸法を計ってるんだよ」
「どうやって?」
「L字溝は600㎜、万年塀は1810㎜だから枚数数えれば大体わかるでしょ。4辺の長さが解れば後は地積から概ねの敷地形状は解るでしょ。」
「へ~」
「ブロック塀の場合は3個で概ね1mだから覚えておくと得だよ」
ということがありました。
敷地測量図がないとボリュームプランが作れない・・・わけじゃありません。
さて、本題になります。
前回の話で平面計画を立てましたが、今度は高さ関係です。
今回の物件の特徴は道路幅員が最低の4mしかないということです。つまり道路斜線が厳しいということにあります。ですから道路からなるべく、建物を離さないと建物の高さが稼げません。
しかし、前回の話の通り、なるべく建蔽率をいっぱいいっぱいに使って2階建てで容積率を消化しなければならないという矛盾点にぶつかります。
※ここで道路斜線について解説します。
道路斜線とは都市計画区域内において、道路の日照を確保する為にある法律です。もし、4m道路の両側に30階建て(高さ100mぐらい)の建物が、道路境界線いっぱいに建っていたら、道路は真っ暗になってしまいますし、異様な圧迫感を感じるでしょう。それを避ける為の法律です。
下の絵を見てください。
(サムネイルになっているのでクッリクして拡大して見て下さい。)
道路斜線とは道路の幅員と道路敷地境界線から建物を離した距離Aの2倍の高さに係数を掛けたところまで建物の高さを作れるという法律です。
その係数は
住居系の場合で1.25(上の図で赤い点線の部分)
住居系以外の場合で1.5(上の図で青い点線の部分)
となります。
つまり、住居系地域以外だと黄色の部分だけ建物が高く作れます。
※容積率の範囲内ですが・・・。
もし道路幅員が6mで道路から建物を1m離して、そこが住居地域であれば
(6m+1m×2)×1.25=10m
となり、10mまでは建物が建てられます。
※実際には斜線なりに上がっていけば、それ以上の高さの建物が建築可能です。
ここで、もし、道路からみて、土地の方が高ければ、その分、建物の高さは低くしなければなりません。
このことを踏まえて次回は、本物件で高さ関係の計画を立てます。
今回も計画概要に到達できなかったけど・・・
住宅用地の需給バランスと値段
最近、こんな話がよくでます。
「大至急、住宅用地を探してくれ・・・」
ほとんど、毎日聞くのですが・・・目ぼしい物件が無いのが原状です。
マンション用地でも戸建用地でもそうなのですが、最近はめっきり物件が減っています。土地そのものが無いわけではなく、単純に価格バランスが崩れているのが現状です。新築住宅の価格は一時、アウトレットマンションなどが出回り、マンション価格が値崩れをした為、普通の値段のマンションは売れ行きが芳しくありません。そこで業者が求める値段が恐ろしく安くなっているんです。
例えば、東京の城西地区で2年前は、200万円/坪で土地30坪、建物30坪で8500万円ぐらいで売れていた物件が最近は概ね7000万円前後まで価格が下がっています。
もともと、建物の工事費の値段と言うのは、急激に上がったり下がったりするものではありません。とすると単純に土地の値段で調整するしかありません。とすると、この土地の場合、2年前は6000万円だったものが4500万円になったということで、売値が約25%下落していることになります。そして、土地の原価を考えると、分譲住宅業者の仕入れ値は、造成費(固定費)や税金、利益などを差引いて、5100万だったものが3750万ぐらいになります。つまり、業者の土地仕入れ値は26.5%も下落しているのです。これでは余程、お金に困っていないかぎり地主さんは売りません。
ある上場している、関東エリア中心の分譲住宅を専門的にやる会社のIRを見ると125億円の評価損を計上しました。この会社は注文住宅や法人からの受注を除くと600棟ぐらいを販売しているので、1棟当り2000万円ぐらいの評価損を計上したことになります。この125億円のうち、どの程度が住宅用地の評価損かは解りませんし、1年分の棚卸し資産の評価損とも限らないのですが、相当な価格下落であることは間違いありません。
※2000万円/棟の下落はちょっと考えにくいですし、高値の時に将来の棚卸し資産を買い込んだことも考えにくいことから、収益不動産などの棚卸し資産があったものと考えられます。そうでなければ、余程、経営センスが無いか、用地仕入れが下手だったかのどちらかになります。両方の可能性もありますが・・・
通常の考え方で行けば、供給不足になれば値段は上がるのですが、住宅を買う側の所得が上がってこないと需要自体が回復しないので、しばらくの間は非常にパイの小さい需給バランスが保たれることになるのではないかと思います。
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【開発】L字溝 第2話
さて、皆さんは、どんな計画を立てましたか?
では、ここで建築基準法と今回の敷地条件から基本的な考え方を書きます。
① まず、一番大事なことは土地の値段が高いということが前提条件になるので、建築費を抑える為に建物を小さくするというのはナンセンスです。容積は最大限に消化することを考えます。
② 東側の42条2項道路(前回のオレンジの部分)が3.8mしかないので10cmのセットバックが必要です。
※基本的に建築基準法の道路とは4m以上(地域によっては6m以上)の道路のことを言います。しかし、この法律が定められる前から道路そのものはありました。当然、その中には4m未満のものもあります。その中で一定条件を満たした道路を2項道路(建築基準法42条2項に定められている為、そう呼びます。)と言います。2項道路は当然ですが4m未満です。その場合、その2項道路に面する場合、道路の中心線から2mの場所までを道路として提供しなければなりません。
今回の私道は42条2項道路で幅員が3.8mですから、
2m-(3.8m÷2)=10cmとなり、
道路中心線から2mセットバックすると10cmは道路として提供しなければなりません。
③ 本物件の都市計画上の最大容積率は400%です。しかし、②によって、本物件は4mの公道と私道に接道している土地となります。そして、本物件は住居系の地域(第二種住居地域)にあることから、法定容積率は160%となります。
※都市計画上の容積率とは別に法定容積率は接道する道路幅員によって変化します。道路幅員が12m以上の場合は法定容積率は都市計画で定める最大容積率となります。本物件が12m以上の道路に接道していれば400%の容積を使っていいことになります。しかし、本物件は道路幅員が12m未満しかありません。その場合は・・・
道路幅員×A×100と都市計画上の最大容積率を比較して大きい方が法定容積率となります。(Aは住居系の場合は0.4、住居系以外の場所は0.6)
本物件は4m×0.4×100=160<都市計画上の最大容積率400%となるので160%が最大容積率となります。つまり、土地面積の1.6倍の床面積の建物を作ります。
④ さて、次は建蔽率の考え方です。本物件は、都市計画上の建蔽率は60%です。
この時点では
160%÷60%=2+α
となるので3層の建物を計画しないといけません。
⑤ しかし、この物件は角地です。2方向の道路に囲まれた土地の場合10%の建蔽率の緩和を受けられます。
60%+10%=70%
⑥ さらに、本物件は防火地域上にあることから、計画建物を耐火建築物にすることにより、さらに10%の建蔽率の緩和を受けられます。
70%+10%=80%
⑦ したがって、
160%÷80%=2
となり、上手くやれば2階建ての建物で済むわけです。前回の記事どおり、商業ビルの場合は路面階から近いほど収益があがるので、2階建ての計画を立てます。
そこで、私が考えた平面計画はこんな感じです。
(サムネイルになっているので拡大して見て下さい。)
(普通・・・)
ここまでは、一級建築士を取得している方や、不動産業の経験の長い方はできると思います。
さて、次回は高さ関係について、考えます。
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L字溝までの道のりは長いけど・・・
【開発】L字溝 第1話
「『L字溝』って、聞いたことがありますか?」
聞いたことがなくても、外を歩いたことのある人なら絶対に見たことがあるはずです。
これがL字溝です。道路の脇の水が流れるところです。
『だから、なんだ?』
と思われる方もいるかもしれませんが、最終的にはL字溝になるまでに物凄く苦労したことがあるので、その事を書こうと思います。(←意味不明)
今回はかなりの建築的専門知識を要します(大学の建築学科レベルではちょっと無理かもしれません。)ので、それについての解説も書きます。一級建築士試験を受ける方が読んでも役立ちます。(試験まであと3週間だから、今から新しいことを勉強するぐらいなら、これを読んで息抜きしてください。)
また、経緯から書くので、ハリー・ポッター並に長くなりますので何回かに分けて書きます。覚悟して最後まで読んでください。(一級建築士の学科までに終るか・・・自信なし)
もう、5年程前の話になりますが、私は都内S区のある場所に目をつけていました。そこは、都市計画上は住居系の地域(第二種住居地域)ですが、少しずつ商業地化している場所でした。その頃は、まだ、その周辺の土地の値段もそんなに上がっていませんでした。しかし、周辺の家賃は1階で既に4万円/坪に届こうとしています。一番高いときには6万円/坪までいきました。これだけ下がった不動産市場の現在から見ても、不動産価格はおおよそ2/3ぐらいでした。
私が注目していた土地の形状はこんな感じです。
(サムネイルになっているので拡大して見て下さい。)
売買の対象地は水色の部分とオレンジ色の部分です。水色の部分の面積は約60坪でオレンジ色の部分は私道(42条2項道路)でその部分を含めると、概ね80坪程度の土地です。東側の私道も水色の部分の所有者と一緒の持ち主でした。また、土地の断面を見ると、こんな感じです。
対象土地部分を南北(X-X’)と隣接地を南北(Y-Y‘)に切った断面
(サムネイルになっているので拡大して見て下さい。)
私道路部分を南北に切った断面
(サムネイルになっているので拡大して見て下さい。)
と、こんな土地です。
「なんか、一級建築士試験の参考書みたい・・・」
という意見もありますが・・・。
さて、この土地に商業建築を計画します。
(去年、一級建築士の学科試験に合格して、今年は二次試験だけで良いという方は計画してみてください。都市計画で定められる建ペイ率60%、容積率400% ちなみに防火地域です。当然ですが、値段の高い土地ですから、土地は有効に使ってください。不動産屋さん的には当たり前ですが商業ビルというのは一般的には路面階(低層階ほど)が一番売上げが上がります。つまり、無理やり、建物を高くする必要はありません。規模は一級建築士二次試験よりも全然小さいですが、難易度はこちらの方が上かもしれません。)
次回はその計画概要です。
ちゃんとL字溝オチになるから・・・