金貸し屋嫌い 最終回
平成16年頃になると、Jリートなどの話も有名になり、NHKなどで、不動産ファンドやノンリコースローンの特集が組まれるなどを始めます。また、SPCを作ってノンリコースローンさえ、曳ければ比較的容易に資金力の無い、不動産会社でも不動産投資が出来るようになりました。
それによって、この頃になると、今まで殆ど聞いたことも無かった様な新興不動産会社やアセットマネージメントを行う会社、また、今まで、謄本を見ても決して出てくることのなかった、外資系金融機関や不動産投資専門のノンバンクなどが出てきます。
※新興不動産
アーバンコーポレーション、プロパスト、アイ・ディー・ユー、CRE、ゼファー、ジョイントコーポレーション、ランド、原弘産、エスグランド・・・などなど、上げればキリが無いのですが、この頃までは聞いたこともない会社ばかりでした。この会社の中には10年で三井不動産を超えるなどと豪語していた会社もあります。また、この会社の担当者に至っては「他人の金で金儲けをするのは楽しい・・・」などと言い出す始末でした。
※アセットマネージメント会社
この頃になると、
「僕の仕事はアセットマネージャーなんだよ・・・」
という人が増えてきます。そのまま訳せば『資産管理をする会社』『資産管理をする人』なんですけど、基本的には不動産資産管理の専門家ですが、どうやってお金を用意するとか、物件の売買をして、手数料で儲ける人達です。従って、物件が動かなければ仕事にならないので無理矢理でも物件を動かそうとします。その為、過剰な地価上昇に一役、買った会社です。
※外資系金融機関
外資系金融機関で一番、荒っぽいことをしていたのは言わずとしれた『リーマン・ブラザーズ』ですが、個人的な感想としては『メリルリンチ』も大差ありませんでした。その他にもゴールドマンサックス、クレディ・スイス、ドイチェ、カリヨンなどなどが積極的に融資します。本当は自分達で直接投資したかったのか、中には休眠不動産会社を反社会的勢力に買収させて、その会社に融資して不動産を買わせるなどかなり、悪質なこともありました。
話がそれそうなので、本題に戻ります。
その頃、私の勤めていた会社(戸建の注文住宅や分譲住宅の会社)だったのですが、収益不動産に力を入れて行くようになります。私もその部署に移動になりました。
そして、ある会社の本社ビルが売却になっているという情報が手に入りました。
その会社は老舗の呉服屋A社です。もともとは東京の会社ではなかったのですが、バブルの頃に東京に本社ビルを作り移転してきたそうです。
実際に、A社の社長にお会いしました。
東京に移転してきた経緯は・・・
当時のメインバンクから、東京に本社を移転しないかという誘いがあった。たしかにお客さんも首都圏の方が多く、東京進出は憧れでもあった。土地代の融資を含め、土地はその銀行があてがい、ゼネコンもその銀行が用意してくれるということだったそうです。その話に乗って、東京に本社ビルを作ることになったそうです。
私は物件の調査を始めました。
その土地はバブルの時に転売を繰り返され、わずか、2年の間に4倍の値段になっていました。その銀行も抵当権融資をどんどん追加していきます。最後の出口として、実需の人を探したことが容易にうかがえます。
また、そのゼネコンも当時、その銀行に多額の負債を抱えている中規模のゼネコンでした。たしかに立派な本社ビルですが、当時の施行費(見積と領収書を見せてもらいました)が、なんと、施行床面積辺り450万円/坪です。どう高く見積もったとしても、普通の価格の3倍以上です。つまり、その銀行とゼネコンは組んで、その利益で負債の返済に充てさせたわけです。
しかし、呉服の需要が低迷するなか、その本社ビルの負債の金利がその会社に重く圧し掛かっていました。
そこで本社ビルを売却することになったわけです。
希望売却価格は5億5千万円でした。(抵当権は12億円付いていましたがいくらかは元本返済がされていたと思います。)
私がはじいた価格は4億6千万円、会社の稟議を取った価格は4億7千万円でした。
私はA社の社長と、その抵当権者である銀行の担当者と打合せを行いました。
その場で銀行の担当者は言いました。
「相澤さん、いい線ですね。実は当行としても4億6千万円なら抵当権解除の了解を取っています。正式な回答は決済が必要ですが、大丈夫だと思います。」
A社の社長も胸をなで降ろしていました。
契約は2週間後となりました。
そして、契約日、前日です。
こちらは、契約書のリーガルチェックも全て終わり、さぁ、明日は朝から契約だから、今日は早く帰ろうと思っていた矢先でした。
銀行の担当者から電話です。
「相澤さん・・・言いにくいのですが、契約を延期していただけませんか?」
「なんでよ!?」
「支店長がその価格では抵当権を解除できないと・・・言い出しまして・・・」
「何を今更、言ってるのよ!こっちはキャッシュも用意してるんだぞ!今更、上になんて言うんだ?それにそっちだって、稟議取ってるんじゃないの!?」
「口頭ベースでの了解は取っていました。最終稟議の段階で蹴飛ばされまして・・・スイマセン・・・僕の力では・・・」
契約日です。
私は上司に一応、その旨を伝え、その銀行の支店に向かうことになりました。
そして、担当者では話にならないので支店長と話すことになりました。
「どういうことなんですか?」
「いや、このアップトレンドのご時勢でしょ。なにも弊行がそこまで損切りしてまで売却することはない。という判断になりましてね・・・」
「じゃあ、あといくら出せば・・・」
「4億8千万なら・・・考えても良いんですが・・・」
「あのねぇ、うちだって、ちゃんと調査しているんですよ。
御行が、14年前にこの土地の最終出口でA社に売りつけ抵当権を回収している。
また、御行に対して債務超過にあったゼネコンに明らかに高い価格で本社ビルを建設させているじゃないですか!しかも、そのゼネコンはその後、倒産している。
しかも、今日は契約日ですよ?契約日になって、あと2千万上積みしろとは、とてもメガバンクと言われる御行のやり方とは思えません。」
「なんて言われても結構ですが、昔の話は弊行が合併する前の話ですから、私も解らないです。とにかく、あと2千万円上積みして、頂けませんかね?なんだったら、弊行が御社に対して融資しても構いませんよ。まぁ、御社だからなんですけどね。」
「あのなぁ、ウシジマくん、それがあんた達のやり方ですか?」
「私はウシジマではありませんが・・・」
「よく、社会勉強するんだな。うちはあと2千万円の上積みもしないし、この物件の購入の話は降ろさせてもらいますよ!」
※ウシジマくん・・・その頃から、スピリッツで連載の始まった「闇金ウシジマくん」という漫画の主人公。詳しくは・・・↓を・・・
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「大丈夫なんですか?御上司に判断を仰がなくても・・・」
「ナメルナ・・・。うちはね、私が本件については全権を委ねられてるんだよ。私の言うことが会社の総意だと思ってもらえれば結構です。」
※その会社では、稟議内の金額であれば、全権委任をされた担当者はその場で判断してよいことになっていました。
と言って帰ってきました。
その銀行は私の勤める会社の準メインバンクでもありました。その話は私が話した支店長から本店経由でうちの会社が付き合っている支店に伝わり、私が会社に戻った時には私の会社の上層部にも伝わっていました。
帰ると同時に社長室呼び出しです。社長に謝らなければ・・・。
「申し訳有りませんでした。」
「いや、相手は足元を見たつもりなんだろう。その場で断った相澤の判断は正しい。」
「ありがとうございます。」
「しかしだ・・・。相澤は相手の支店長のことを『闇金』呼ばわりしたそうだな・・・。」
『げっ・・・、もう解っちゃったの・・・』
と言いたいのを押さえて・・・
「も・・・申し訳ありません。つい、頭にきちゃいまして・・・」
「始末書書いてね。自己記録更新だな。」
※創業50年以上の上場会社でしたが、始末書の枚数がトップでした。しかも、もう退社された2位の方にダブルスコアーをつけて・・・。
「はい・・・。」
「あと、相澤の始末書はいつも同じ文面だけど、フォーマットを使わないで、今回は手書きね!」
「は・・・い・・・」
と始末書を書くハメになりました。別に始末書は書いても特にそれ以上の罰則がないので、痛くは無いのですが社内に公表されるので、からかわれることになります。
しかし、その後、その銀行は抵当権解除の額をどんどん釣上げていくことになります。同じ物件が平成19年の初めに7億5千万円で情報が回っていました。買うつもりはなかったのですが登記情報を取り寄せると、所有者はA社のままでした。
そして、今でもA社が所有者のままです。
今でも、A社はその金利に苦しんでいます。
だから、私は金貸しが嫌いです。
長々と読んで頂いて、なんなんですが・・・ついでに
まずは1本、お電話ください。些細な疑問にも答えます。プロ、アマ、一般の方、すべて歓迎。