【賃貸住宅】契約書と重要事項説明書【後編】
さて、前回の続きです。
この契約はそもそも、おかしな話がありました。
今回の借主Y⇔仲介会社H⇔管理会社(貸主代理)E⇔貸主T
という関係です。ここまではよくあることで、なにもおかしな点はなかったのですが・・・
私に相談してきたのは借主のYさんです。Yさんは木曜日に相談してきました。この木曜日を6月11日としましょう。Yさんの話によると・・・
「『仲介会社Hが13日の土曜日に重要事項説明をします。そこで、前家賃、敷金、礼金、仲介手数料等を12日に銀行に振り込んでください。そして、20日の土曜日に管理会社(貸主代理)Eが重要事項説明をして、20日に契約して鍵を渡します。』といわれてます。」
と言うのです。まず、
『仲介手数料というのは契約が行われないと、受け取ることができません。』
これは賃貸だけではなく、売買でも当然ですが同じです。しかも、重説よりも前に貰うということは、重説を読んで、「こんな条件じゃやだ!」とか「実はこの部屋の前居住者は自殺した。」などということが発覚したら、手数料を返せということになります。特に賃貸の場合は、契約日当日までは重要事項説明を受けないなどということが多いから、前日より前にお金を振り込むと面倒なことになります。
また、なぜか重要事項説明が2回・・・。
これだけでも十分に怪しい物件だったことは間違いありませんでしたが・・・。
さて、まだYさんも管理会社Eとは会っていないというので、仲介会社Hと話すことになりました。仲介会社Hには私はYさんの知り合いで不動産関連の仕事をしている者ということになっています。仲介会社Hは大手で日本全国に支店を持っている会社で、今回の担当者はまだ若い業界経験の浅そうな30前後の人です。
私が前回の話の通り、おかしな部分を説明すると・・・
「そうなんですよ~。とりあえず、管理会社Eから送られてきた契約書と重説をYさんに送ったんです。」
「いや、送ったって、御社だってこの契約じゃ、まずいだろ」
「ええ、とにかく指摘された部分を管理会社に言ってみます。」
「明日までにお金を振り込むっていうのもおかしいぞ。」
「はい、その件も・・・」
と、しばらくすると仲介会社Hから電話が掛かってきました。
「え~っとですね~。まず重説の(2)の細々とした内容
なんですが、そのままにしてくれって言うんですよ」
「いやいや、東京ルール違反だろ」
「それも言ったらですね。『東京ルールは原状回復の範囲を書面で説明することであって、それに付随するガイドラインはあくまでガイドラインだから法的拘束力はない』と言うんですよ。」
※ガイドラインそのものに法的拘束力がないのは事実です。
「しかし、そのガイドラインは今までの判例をまとめて、わかりやすくしたものだから、訴訟になれば負けるのは管理会社と貸主だろ。それにこの特約内容じゃ消費者契約法10条で特約そのものが無効になるぞ」
「そ・・・そうなんですけど・・・。やれるもんなら、やってみろって感じで受け付けないんですよ。」
『なんて強気な・・・。この契約はダメかな・・・』
と思いつつも・・・
「では、契約書8条4項
の件は?」
「同じような感じです。これも東京ルールの話をしたんですが、『うちは退居したら次の人のために必ずクロスと床は貼りかえるんだよ』と言われまして・・・」
「話にならないなぁ・・・、じゃあ特約の(5)の前居住者の残置物の件は?」
「それがですね、『今回は残置物は無い』っていうんですよ。」
「じゃあ、この項目は削除しろって言ったか?」
「言いました。そうしたら、『これはフォーマットだから直せない。』って言うんですよ。」
「あのなぁ・・・、これじゃあ、エアコンが残置物としか読みようがないだろ。そして、エアコンの故障による交換は借主負担になっちゃうだろ!」
「っていうか、それが狙いなんだと思います。」
「だろうなぁ・・・。しかし、フォーマットっていうことは、みんな、このフォーマットで
今までやってきたのか?」
「今までずっと、このフォーマットでやってきて問題ないと・・・」
「ほう・・・、じゃあ、賃借人が残して『言った』は恥ずかしいからせめてそこだけでも治せ。と言っておいて」
「あはは・・・じゃあ、その件は管理会社S不動産に言っておきます。」
「ん?管理会社はEだろ?」
「あああ、この会社、前はSって言う名前だったんですよ。社名変更をしたのか、会社を分けたのかは解りませんが・・・」
「え?じゃあ、S不動産って○○町にあるS不動産か?」
「よく、ご存知ですね~」
「なるほど・・・、君の話せる相手じゃないよ。この契約は破談にしよう。Yさんには私からよく言っておくよ」
やっと、思い出しました。
最初に管理会社Eという名前をどこかで聞いたことがあるとは思っていましたが、S不動産の名前を聞いて・・・。
このS不動産というのは業界の中では広域指定暴力団S会のフロント企業で有名な会社です。トラブルも絶えません。
その旨をYさんに話して、Yさんは別の物件を探すことになりました。契約書だけではなく、相手のことも良く調べないといけないな・・・と思いました。
その後、仲介会社Hの担当者はYさんに余程、悪いことをしたと思ったのか、つきっきりで面倒をみて、なんとか満足のいく部屋を見つけてあげました。
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安い仲介手数料でもがんばるから・・・
【賃貸住宅】契約書と重要事項説明書【中編】
最近、うちに相談のあった賃貸の契約です。
「この契約内容で契約していいでしょうか?」
ということで、契約書と重要事項説明書を送って頂きました。
ざくっと見ると・・・
① 東京ルールに完全に違反している。
② 契約書で矛盾している点が何点かある・・・
ということでNGをだしました。
(しかし、この管理会社、どっかで聞いたことがあるんだよなぁ・・・)
と、思ったのですがこの時点では思い出せませんでした。
※名前はぼかしてあります。
その契約書がこれです。(抜粋)
一番、上の画像が契約書の原状回復義務に関する条項
二番目が重要事項説明書の特記事項
三番目が重要事項の建物の設備状況です。
そして、これの何がおかしいかと言うと・・・
まず、みなさんは『東京ルール』という言葉をご存知ですか?正式には『賃貸住宅紛争防止条例』という名称の東京都の条例です。
これは退居時の借主と貸主の原状回復によるトラブル(敷金の返還額による問題)を解消することを目的として作られた条例です。東京に於いては、ちゃんと条例化されているのですが、内容は各判例をまとめただけで特別に新しい内容ではありませんでした。
唯一、新しい内容はその原状回復と善管注意の義務範囲を契約時に書面で説明しなければならないということです。そして、借主から了解した旨の捺印をもらうということです。
東京ルールについては・・・賃貸住宅紛争防止条例/東京都都市整備局
判例については・・・敷金返還と原状回復特約に関する判例集
簡単に言うと、
『通常の生活をしていて損耗したものは貸主の負担で修復しなければならない』
ということです。これは前述の通り、東京ルールでなくても判例があるので実際には全国共通です。
では、この契約書のおかしな部分は・・・
この契約書(一番上の画像)の4及び重説の特記(2番目の画像)の(4)を見てもらうと
『本契約の原状回復に係る壁紙(クロス等)や床材(カーペット・CF・フローリング等)の修繕や交換については乙に於いて負担するものとします。又、乙の故意・過失や通常の使用方法に反する使用など、乙の帰すべき事由により、修繕の必要が生じた場合は、乙がその費用を全額負担することになります。』(以下略)
と書かれています。
この内容では壁や床が日焼けで変色して交換しても、借主の負担になってしまいます。壁や床の日焼けは当然ですが普通に生活していて、どんなに注意しても日焼けしてしまいます。絶対に日が入らない様な生活をすれば別ですが、それは通常の生活とはいえません。
また、重説の特記(2番目の画像)の(2)を見ると・・・
『本契約の修繕について乙は、畳表の取替えまたは裏返し・障子紙・ふすま紙の取替え、電球・蛍光灯及びヒューズの取替え、エアコンのリモコン本体の故障・紛失、ガスコンロの目詰まり、照明カバー及び照明スイッチ及びコンセント、インターホン、ドアチェーン、ドアスコープ・窓鍵・備付鏡・コンセント・アンテナジャックの故障、エアコンダクトの外側の蓋、エアコンドレインの目詰まり・はがれ又は亀裂の修理、洗濯機パンの亀裂・破損及びエルボーの目詰まり、交換・ハンドシャワーノズルの取替え、シャワーカーテンの取替え、浴槽内止水栓のチェーン破損時の取替え、入浴剤による浴槽の変色の補修、トイレ便座のがたつき及び亀裂、トイレットペーパー等器具の取替え、シャワートイレの故障、トイレタンク内のボールタップ等々については借主の負担とすることを乙は承諾する。』
これを見たときははっきり言って驚きました。これじゃあ、石膏ボードの内側にある物は全て借主の負担ということと同じです。もちろん、故意に壊せば借主の負担ですが通常の使用で壊れれば貸主の負担です。
そして、極めつけが契約書(1番上の画像)の6と重説(2番目の画像)の(5)を見ると
『本契約に係わる従前の賃借人が残して言った設備(エアコン・電灯等)における修繕や交換については甲は一切の責任を負わないものとし、乙の善管注意義務に係らず修繕や交換に関する費用は乙の負担とする。』(以下略)
※赤字の誤字は記載通りです。
とあって
重説の建物の設備状況(3番目の画像)を見ると
『エアコン 有 1基』
とあります。ということは、このエアコンは所有者が設置したものではなく、前居住者の残置物ということでしょうか・・・。それに、『エアコン・電灯等』ではなく、この条文を入れるならば、前居住者の残置物が何なのかを明確にしておかないと、対処のしようがありません。
さて、この辺りのことを管理会社と交渉することになります。
貴方の契約書もこんな感じかもしれないけど・・・
【賃貸住宅】契約書と重要事項説明書【前編】
賃貸住宅の契約というのは不動産の仕事の中でもっとも多くの人が携わっていると思います。
東京23区の駅の周りを見渡すと、テレビのCMで見たことのある有名な仲介会社や聞いたこともないけど、昔からこの場所にあるんだろうなぁ・・・と思うような仲介会社が乱立しています。
我々から見ると仲介手数料は安いのですが、なにせ量があるので商売としては成立します。
そんな仲介会社を介して、実際に私も賃貸住宅を借りたことがありますが・・・。
その契約のときのやりとりです。
仲介会社:「ネットで探せる○○○ル」のテレビCMで有名な緑の看板の会社。
担当者:N店長(30代後半)
その店長は私とは随分前からの知り合いで、この会社に入る前はハウスメーカーの営業だったと聞いています。
重説と契約書は前日にメールで送ってもらっているので、目を通してありました。
「おいおい、重説やるなら主任者証を出してやらなきゃいかんだろ。っていうか、私に言われてから、出す時点でアウトだぞ。」
「あっ・・・スイマセン・・・Wさ~ん、ちょっと来て・・・」
『Wさんに主任者証持ってこさせるんだ。っつうか、常に携帯しとけよ!』
と言いたいのを抑えて、黙っていると、Wさんが別の部屋からやってきました。
ぱっと見た感じは20代前半ですがちょっと冴えない風貌の女の子です。
「お待たせしました。では、さっそく重要事項説明をさせていただきます。」
「ん?ちょっと待った。Nさん、なんで、自分で重説やらないの?」
「スイマセン・・・私、宅建持ってないんですよ。」
『お前、何年この仕事やってるんだよ!』
と言いたかったのですが、必死に抑えて、Wさんの重説が始まります。
普通に棒読みです。
『意味解ってるのかなぁ・・・』
と、思って、ぼ~っと聞いていると・・・Wさんが・・・
「タイシュのひょうじ、かっこ、ほんしょにてタイシュをいか、こうといい、シャクシュをいか、おつという」
「ん?なんて言った?」
と驚いている私の前で・・・
「おい、W、これは『タイシュ』じゃなくて『かしぬし』、こっちは『シャクシュ』じゃなくて『かりぬし』って読むんだよ。」
「す・・・すいません・・・店長」
「相澤さん、スイマセン。この子、去年、宅建受かったばかりで2ヶ月前からアルバイトで来てもらってるんですよ。」
「じゃあ、他の主任者にやらせれば?」
「あっ、うちの店、この子しか主任者いないんですよ」
「いつから?」
「2ヶ月前から・・・」
「おい、じゃあ、2ヶ月前からWさんが重説やってるなら、これくらい読めるだろ!」
「あ、私、重要事項説明書、読むの今日が始めてなんですよ~。やっと、デビューしたって感じです。」
「おいおい、Nさん。この店では2ヶ月間の間で客は俺だけか?」
「・・・・」
立派な業法違反です。(っていうか、隣で別の人が契約してました。)
次回は実際の契約書と重要事項説明書を出して、こんな契約はNGというものを紹介します。
重説は笑顔で読むから・・・
一級建築士の話【後編】
当社に設計の依頼がありました。
場所は名古屋です。物件は以前の記事に書いた店舗併用住宅です。
おそらく、工事費が高くても5000万円程度でしょうから、設計費を600万円以上請求すると話がこんがらがることになると思います。(せっかく、紹介してもらった人の顔を潰すことになる。)ところが設計監理までやると、最低でも名古屋を20往復ぐらいしないといけません。交通費だけでも50万円かかります。と・・・赤字必至です。そこで、知っている名古屋の設計事務所に回して、紹介料を貰おうかなぁ・・・と考えました。
しかし、名古屋でこの規模の設計を依頼されてくれる人を知らないので、東京に本社のある組織設計事務所の名古屋支店に値段を聞いてみました。工事費が6000万円程度なら20%の1200万円と言われました。
① やりたくないのか?
② 忙しいのか?
③ 世間を知らないのか?
④ 単なるボッタクリなのか?
のどれだろうと考えてしまいました。
さて、前回は偽装ネタだったので今回はちょっとマジメに・・・
一級建築士の年収ってみなさんはご存知でしょうか?
年収の前に一級建築士ってどうやったらなれるのかをちょっと説明します。
まず、受験資格ですが・・・
① 大学において建築の専門分野の学科を卒業し、実務(建築業務)を2年
② 短大もしくは専門学校で建築の専門分野を卒業し、実務(建築業務)を4年(3年の場合もあり)
③ 2級建築士を取得後、実務4年(建築業務)
※建築の専門分野を卒業しないで2級建築士を受験する場合は2級建築士の受験資格が実務7年
④ 大学院において建築の専門分野の学科を卒業
この様に建築の専門分野の学校を卒業してないと実務経験だけで最低でも11年以上が必要となります。
そして、試験ですが・・・
今年から試験内容が変わりますので、去年までの話を書くと
1次試験・・・学科4科目(計画・法規・構造・施工) 1年に1回
2次試験・・・製図実技 1次試験合格者のみ1年に1回(1次試験合格者は2次試験に落ちても翌年に限り、2次試験から受験可能)
その、合格率は・・・
去年の実例でみると
1次試験 15.1%
2次試験 41.7%
総合すると合格率8.1%です。
12~13人に1人が受かるという試験ですが、受験資格を見ればわかる通り、建築を学んできた人たちだけで受ける試験ですから、結構、大変です。10年以上連続して受験しているという人もゴロゴロいます。もっとも、合格者の大半は初受験から3~4回目ぐらいまでで取得している人が多いようです。
これだけ、取得するのが難しい資格だから、さぞかし、年収も良いだろうと思っている人も多いと思います。
ところが・・・
一級建築士の平均年齢46歳、平均年収は約640万円です。また、デスクワークの様に感じるかもしれませんが、図面を実際にCADで書いたり、現場監理という仕事は歳を取るとキツい仕事です。
これを多いと考えるか、少ないと考えるかはいろいろな意見はあると思いますが、一級建築士と宅地建物取引主任の両方を持っている私からみると、どっちがお金になるかと聞かれれば間違いなく、宅地建物取引主任と応えます。(稼ぐお金は資格では決まりませんが・・・)
さらに、今年から一級建築士の制度が変わって、取得してもすぐには設計事務所として独立開業ができなかったり、構造建築士や設備建築士などの制度が加わったりと一級建築士の環境はより厳しいものとなっています。また、新築需要が低迷しているなどから、経済的にも厳しくなっています。
それでも若い頃にはかなり憧れた資格でしたし、合格したときにはどの試験に合格したことよりも嬉しかったことを覚えています。
取得後10年以上経っていますが、未だに苦労の元が取れてないような気がします。
一級建築士は貧乏だから、せめて・・・
一級建築士の話【前編】
一級建築士と聞いて、みなさんのイメージはどんな感じでしょうか?
「先生」と言うと普通は教師や師範などのものを教えてくれる人のことを言うと思うのですが、そうでなくても「先生」と呼ばれる職業があります。例えば、『医師』なんかは普通に「先生」と言っているので私はあまり違和感はありません。
しかし、国会討論などを見ていて、代議士同士が
「○○先生は・・・」
などと、言っているとバカみたいです。
一級建築士も何故か「先生」と呼ばれる仕事の一つです。
私も一級建築士になってから、「先生」と呼ばれることが時々あるのですが、最初の頃はかなり違和感を感じました。
もう、10年以上前の話ですが『協奏曲』というドラマがありました。
詳しくはこちらを見てください。・・・『TBS Drama Archive』
主人公を木村拓也が演じていたこともあり、かなり人気のあったドラマで、私もまだ20代でした。
その頃、お客さんとクラブ(正確に言うとキャバクラ)に行ったとき・・・
お客さん「相澤さんは若いけど、一級建築士なんだよ~。」
女の子「えええ~、キムタクと一緒なんですか~?カッコイイ~」
とチヤホヤされました。
(歳がバレるし・・・)
※ドラマの中のキムタクは設計をやりますが、一級建築士ではなかったはずです。
3年ほど前の話ですが、やはり、お客さん(いつものN氏・・・N氏について詳しくはこちら
)とクラブ(正確に言うとキャバクラ)に行ったとき・・・
N氏「相澤さんは一級建築士なんだよ~」
女の子「えええ~、じゃあ、相澤さんもカツラなんですか~???」
私「はぁ?」
女の子「だって~、東スポに『姉歯建築士、髪まで偽装』って書いてありましたよ~」
私「一級建築士は全員、ハゲかい!ぼくも白髪は染めてるけど・・・」
(それよりも、女の子がどこで東スポを読むんだよ!)
と、今や「先生」と呼ばれる職業でもなくなりつつあると思います。また、ある不動産業者の大先輩に
「デベロッパーは、ある意味、見下して『先生』と呼ぶんだよな~。そう言って、安い設計費で仕事をしてもらう意味もあるかな・・・」
と言っていました。
私は両方の立場を経験していますがちょっと、悲しい話でした。
次回は一級建築士の年収などを書いてみます。
耐震偽装はしないから・・・
【ハウスメーカー】タマホーム
私の頭の中では積水ハウスとダイワハウスがハウスメーカーの両雄というイメージでいたのですが、ここ、2,3年よく「タマホーム」という会社を目にします。それで調べてみたら、戸建住宅だけで言えば、もう積水ハウスを抜く勢いというから凄いです。(みのもんたのCMや野球をみられる方なら東京ドームのバックネット下のテレビで一番映るところに広告を出している会社です。)
坪25.8万という売り込みですが、これはタマホームが特別に安いわけじゃないです。一昔前にも、アイフルホームなんかもそれくらいの値段でやってました。
住宅の価格というのは当然面積が大きくなれば高くなるし、小さくなれば安くなります。しかし、これを面積当りの値段にすると小さい方が高くなります。
原理は簡単です。どの家にもキッチン、お風呂、玄関は1個あります。最近の家は洗面台と便器は2台ずつでしょうか・・・。ハウスメーカーといえども、キッチンはキッチンメーカーから買ってきます。お風呂や洗面台や便器はTOTOやINAXなどの住設機器メーカーから買ってきます。玄関はトステムやYKKapなどのサッシメーカーから買って来ます。つまり、ここの値段はどの家でも固定というわけです。
その固定費が120万円としましょう。
40坪の家ならば固定費の部分は坪3万円になります。
30坪の家ならば固定費の部分は坪4万円になります。
20坪の家ならば固定費の部分は坪6万円になります。
その他にも営業マンなどの経費も小さい家でも大きい家でも変わりませんから、この固定費に含まれます。
フロア材や天井材に壁紙や外壁は建物が大きくなれば大きくなったり二増えるのでその部分の面積あたりの単価は変わりません。
私はタマホームで家を買ったことはないので解りませんが、ある一定の面積以下になったら急激に単価はあがってくるはずです。しかし、これは上記の理屈で仕方がないことです。
これを住宅業界では『面積差額』だとか『坪数差』と言います。
私はハウスメーカーで積算の仕事をしていたのでよく解りますが、それにしても普通に考えると坪25.8万というのはかなり安いんですが・・・実はこれにはちょっと、ずるい話があります。
ずるい話の前に一般論の説明をします。
建設業界や不動産業界で建物全体の面積を表すときに3つの面積があります
施工床面積・・・施工する部分の全ての面積でマンションの場合は外部階段や外部廊下など容積率の対象にならないところまでの全ての面積です。
建築床面積・・・確認申請の際に必要となる容積率の対象部分の面積で外部階段などは含みません。
専有床面積・・・マンションなどの場合、人の住む部分(商売の対象になる部分)の面積です。
ゼネコンなどの施工会社は容積率に含まれようが含まれなかろうが施工をするわけですから、施工床面積で話をしたがります。設計者はとにかく建築基準法に定められた床面積を算出しなければならないので建築床面積で話をしたがります。デベロッパー(不動産会社)は商売の対象になる部分しか興味がありませんから専有床面積で話をしたがります。時々、単価の話で三者が噛みあわないということがあります。
しかし、ハウスメーカーで安さを売りにしている会社はこのいずれでも無いんです。
おそらく、タマホームもそうだと思います。
例えば床も貼らない吹き抜けも面積にカウントしてるでしょうし、天井も無いし、壁も手すりの高さまでしかないベランダも床面積にいれてしまいます。上記の施工床面積よりも床面積を増やしてしまうわけです。
しかし、これはタマホームだけではなく、アイフルホームなどが昔からやっていた常套手段です。また、メーターモジュールにして希釈していくというのも常套手段です。
私はこれを随分昔から見てきたので、別にインチキくさいとも今は思いませんが、安さの秘密はこんな感じで別に本当は大して安くはありません。時々、建てているところを見かけますが、
「この施工精度ならこの値段でも当然かなぁ・・・」
などと、ハウスメーカー経験者は失笑しています。しかし、値段を取るか質を取るかは消費者の自由です。
ただ、一番心配なのはこの急成長ぶりです。
今年に入って支店を12店舗・・・。どう考えても、急成長過ぎます。一般管理費の増加が気になります。
上場してないので、そのキャッシュフローは解りませんがアーバンエステートの様にならないことを祈ります。
家の値段が高くても・・・
【違法建築】~『時効』ですよ!~
さて、前回はちょっと、まじめなことも考えているということをアピールしてみたんですが、読者のみなさんの期待に沿えてなさそうなので、今日も2回目の更新をしてみます。
みなさんは違法建築と聞いてどんな物を想像しますか?
まぁ、最近は姉歯建築士やヒューザーで有名になった、耐震偽装を思いつく方が多いかと思います。
しかし、この世の中には違法建築物だらけなんです。
統計は取っていませんが経験則的に見ると
1位 違法増築
2位 検査済み証無取得
3位 用途違反(飲食店をやってはいけない場所でやっている・・・等)
などが多いでしょうか・・・
特に、違法増築はそこら中にあります。ちょっと、古い街中の雑居ビルの屋上を見てみてください。屋上にそのビルとはどう見てもにつかわしくない建物が乗っていることがありませんか?その殆どが違法建築です。
※防火地域以外の場所では10㎡未満の増築は一定条件下で無許可で出来ます。
不動産売買の仕事をしているとこの違法建築によく当ります。住宅情報館の質問にも多く寄せられています。
今回はそんな違法建築の話です。
まだ、景気が良かった6年ぐらい前、大手不動産仲介会社N氏から電話です。
(N氏についてはこちら
を参照してください。)
この頃のN氏はそこそこ経験を積んでかなり色々なことが解るようになっています。もちろん、この時には宅地建物取引主任になっていました。
「相澤さん、品川区に良い物件があるんですよ~。」
間髪いれずに
「山手線○○駅徒歩5分の6階建ての賃貸マンションなんですけど、総戸数は1DKが46戸2LDKが6戸、空室は3戸です。現況利回りはNETで14%、満室なら15%を超えます。家賃は周辺相場と比較してもかなり安いです。だから、家賃の下落リスクは低いです。」
※当時はまだ利回り5%以下での収益物件の取引なんてほとんどありません。東京都心部で5%以下の利回りで収益不動産が取引されるようになるのにはここから2年ぐらいの時間がかかります。
物件を入手した後に景気が悪くなったりして家賃が下がると物件の価値が下がります。N氏はそれを言いたいわけです。
「個人の方が所有で昭和57年築です。」
ここでN氏のテンションが下がったのは建物が古かったからでしょう。
「ん?昭和57年か~。微妙に旧耐震だったりする?」
(※旧耐震・・・新耐震基準は昭和56年6月1日に施行されたものです。昭和56年6月1日以降に確認申請が取得されている物件(もちろん、その確認申請に基づいて完了検査が行われていること)については、新耐震基準を満たしていることになります。)
今回の物件は完成が昭和57年ということは、確認申請が昭和56年6月1日より前の可能性があります。
「う~ん。謄本には昭和57年11月新築と書いてあるので大丈夫じゃないっすか?」
「そっか~。6階建てなら施工に1年は掛からないだろうから、新耐震かな・・・」
「ですよね~。最近、僕もいろんなことがわかる様になってきたんっすよ!」
「一応、検済のコピー取り寄せてくれる?」
「あっ、そこなんですけどね、この建物、検済を取得してないんですよ!」
「げっ・・・」
「確認はあるんですけどねぇ・・・」
(※確認・・・確認申請済証のこと。建物は原則として確認申請をしないと建てられません。ただし、一定条件下では必要がありません。詳しくはこちら・・・『建築確認申請』Wikipedia
)
(※検済・・・検査済証のこと。確認申請に基づいて、ちゃんと建物が建てられているかを行政機関(最近では民間の建築検査機関でも行われています。)が竣工時に検査し、その検査内容に問題がなければ発行される証書です。)
「図面はある?」
「ありますよ!メールしまっしょっか?」
「うん。とりあえず、物件概要と図面をメールして。」
N氏は仕事が速いです。N氏が知識をカバーしてここまで来たのはこのスピードです。
物件概要と図面のPDFが1分で来ました・・・速いです。
こうなることをちゃんと考えて電話しながら、メールを用意していたに違いありません。
さて、PDFを開いてみると・・・
物件概要に地図、公図、謄本、それに設計事務所の書いた図面、建築確認申請(受領印付き)があります。
物件概要はN氏が電話で言った通りのことが書いてありました。謄本を確認すると物件概要と相違ありません。というわけで早速、図面の確認をすると・・・N氏の決定的なミスに気が付きました。
すぐにN氏に電話します。
「お~い、6階の図面が添付されてないぞ!」
「いや、6階の図面がないんですよ。」
「なんで!!!」
「確認見ました?」
(ん?)
建築確認申請というファイルを開くと・・・
『5階建てで申請してるっ・・・・』
「あのさぁ、これ、新耐震も旧耐震もないじゃん!普通に違法建築だろ!」
「あっ、でも昭和57年築ですから、もう築20年以上ですよね。」
「だから、なんだよ」
「時効ですよ、じ・こ・う!」
「へ?」
「だって、殺人だって15年で時効ですよ!違法建築も20年経てば時効でしょ。」
※当時は殺人事件の場合の時効は15年でした。
(絶句・・・)
この後、私がN氏に向かって時効について、長々と説教したのは言うまでもありません。
※違法建築に時効はありません。時効というのは犯罪の証拠が時間とともに立証が難しくなるから存在するのですが、違法建築は建物が無くならない限り、その立証はできますから・・・。
【住宅】これからの住宅市場を考える。
今日は土曜日なので、ちょっと、まじめな考察を書いてみます。
(先週の土曜日に何を書いてたかを突っ込まないでください。)
一昨年ぐらいまでの景気はどこに行ったのか?というぐらい落ち込んだ景気ですが、これは住宅市場や不動産市場、建設市場に限った話ではありません。住宅も景気が良くなれば、また売れるようになってくることは間違いないのですが、もう少し、マクロ的に考えてみようと思います。
私は自分のサイト
のプロフィールにもあるように、あるハウスメーカーで商品開発をしていたことがあります。
もう、10年近く前の話になります。商品開発は必ず市場調査をしたりするのですが、私たちが開発する商品は今年売れる商品の開発ではありません。女性の水着が常に来年以降のもののデザイン開発をしているのと一緒です。住宅の新商品のサイクルは水着の様に毎年毎年変わるものではないので、そのスパンはかなり長いものとなります。
当時(ちょうど2000年頃)、日本の住宅市場は賃貸住宅、マンション、分譲住宅、注文住宅を合わせて110万戸+αぐらいを生産していました。最近は姉歯問題などもあって100万戸を割っているのが現状です。当時の私が姉歯建築士が登場することは、まったく予期できなかったのですが、2010年頃には100万戸割れというのは予想していました。ちなみに2030年には50~70万戸(約半減)と予想していました。
実はこれ、景気のアップダウンはまったく無視して算出しています。
簡単に言うと、住宅取得世帯数と住宅寿命からはじき出した数字なんです。この数字を見たときに、「当然だろうなぁ」と思われる方も多いと思いますが・・・大変なことなんです。
現在、100万戸を割ったわけなんですが、これによって、どれだけの建設会社が倒産しているのでしょう。
実際には住宅市場だけの問題ではありません。公共事業の圧縮、リーマンショックによる金融機関からの融資制限など複数の要因が重なっているのは事実です。しかし、住宅市場の占める建設業界の割合というのはとてつもなく大きいことは間違いがありません。
しかも、このエコブームです。エコブームじゃなくても二酸化炭素排出制限のある中で近い将来に、
『築○○年未満の建物を解体、再開発する場合は知事の許可を取らなくてはならない。知事は相当の理由が無い限りは許可してはならない』
などという法律ができるかもしれません。(できる様な気がします。)出来た方が自然だし、そのものには反対はしません。
不動産業界も再開発があまり行われなくなれば、大きな利益を上げることはできません。当然です。建築業界と不動産業界というのは表裏一体です。
行政も200年住宅などと意気込んでいますが、建築基準法で200年住宅にすることを強制するか、200年住宅にすることで上がった分のコストに対して、融資などの優遇制度が上回らない限り、なかなか上手くいかないでしょう。太陽光発電が伸び悩んだのと同じ結果になる様な気がします。国や識者と言われる人たちの理想は消費者の財布の中身をちゃんと考えてないことが殆どです。
ここで、業界として考えなければならないことは、中古住宅市場です。
既に私がブログで書かなくても中古市場の重要性に関してはGoogleで『中古住宅』で検索してもらえればいくらでも出てきます。中古住宅とリフォーム市場。ここに活路を求めることになるのでしょう。
しかし、ゼネコンもハウスメーカーも物凄く古い体質の会社が多いのが実態です。これだけ、公共事業依存度が高く、その上、未だに賄賂と談合を繰り返す業界です。企業統合もできない。方針転換もできない。下請けに押し付けることでしか利益を上げられない体質。今日の借金を返す為に受注を続ける。そして、体力勝負の上にバタバタと倒れていくのでしょう。恐竜が滅びる様に・・・。
そして、不動産業界も再開発ではない市場に行かないといけません。この体質をどこかで改めないと同じようにバタバタと倒れることになります。
仮に前述の様に中古住宅やリフォームに活路を求めたとしても今までの様な売上げを上げることができる市場ではなくなります。やはり、相当数の出遅れ組みが消えていくことにはなるのでしょう。
10年も前に考えていたことですが改めて考え直して行こうと思っています。
こんな、内容だけど、
「洗面所の電気が点かないのよ!」
私は不動産屋でもありますが、そもそもは建築屋です。しかも、住宅の専門家です。
というわけで、今日は住宅の仕事をしていた時の話です。
住宅業界というのはそもそもクレーム産業です。建物というのは自動車やパソコンの様に工場で画一されたものを大量生産をしているわけではありません。個々の部品は工場生産でも、それを組み立てるのは現場で作ります。
故にどうしても、クレームが発生します。その代表が雨漏りです。『8時だョ!全員集合』(古っ!)のコントの様な大雨の日に、家中に洗面器や鍋を置いてしずくを受けるという雨漏りはありませんが、ちょっと壁紙にシミができるという様な雨漏りは日常茶飯事です。
経験的に言うと15軒に1軒ぐらいの割合でありました。まじめにやっていても、クレームというのはなかなかなくなりません。だから、その対応を丁寧にすることが大事です。
今回は雨漏りではなく、電燈の話です。
私の席の電話が鳴りました。出ると、アフターメンテナンス部のクレーム担当Sです。
「おう、相澤か?あのさぁ、A団地って設計したの相澤だろ?相澤の設計したA団地3号棟の方から、洗面所のダウンライトの電気が点かないというクレームなんだけど、思い当たる節はある?」
A団地はたしかに私が3年ほど前に設計した団地です。しかし、その方が入居されてから、もう2年以上は経っていました。
「う~ん、ちょっと図面を見てから折り返すよ。」
と応えて電話を切り、図面を引き出してきました。その頃の私は年間に何十棟も設計してますから、3年も前に設計した建物の配線系統まではまったく覚えていません。
図面を見ると、トイレや浴室と系統は一緒です。
(あれ?洗面所だけなのかぁ?そもそも洗面台に付いてる電燈は点くのかな?)
などと、考えていると、またSから電話です。
「相澤さぁ、まだ解らないの?A団地3号棟の方から、なんとかしてくれって何度も電話があるんだよね!この方、結構ヒステリックなんだよ!」
「あのさぁ・・・洗面所のダウンライト以外に点かない場所はないのかなぁ?」
「いや、洗面所のダウンライトだけだって言ってるぞ」
私はひらめきました。
「あのさぁ、電球1個を持ってA団地の3号棟にいってくれる?」
「へ?どこが悪いの」
「たぶん、電球を換えれば直ると思う。」
Sも解ったみたいでした。
「球切れか・・・?」
Sが行くとやっぱりそうでした。
A団地3号棟の方はSに向かって言ったそうです。
「おたくはたった2年で切れる電球を使っているのっ!」
(まだ、LED電球が登場する10年も前の話です。)
中にはこういうお客さんもいます。
『Dr.Junの住宅情報館』
ただいま帰りました。
と、なんの事?と思われる方が殆どだと思います。
私は『Dr.Junの住宅情報館』というサイトを運営していたものです。
http://www33.ocn.ne.jp/~dr_jun_house/
もう、ホームページの更新は2005年1月を最後に
行っていませんでした。
お休みのお知らせもせずに、ただ仕事が忙しくて
更新を行っていませんでした。
そのうちに、パソコンを変えたら、FTPパスワードを失念して、
更新しようにもできなくなってしまいました。
結局、プロバイダーに電話して新しいパスワードを
発行してもらうことにしました。
まもなく、新しいパスワードが発行されるので
ホームページをリニューアルして
再出発をしようと思っています。
もし、以前に『Dr.Junの住宅情報館』を見てくださった方は
「今まで何してた!」
と思われることと存じます。
それにつきましては、後日、あらためてお話していきます。
それでは今後ともよろしくお願いいたします。