連帯保証人が亡くなった場合~家賃滞納対策~
先日、このような質問がありました。
Q.「賃借人が家賃を7ヶ月滞納しているが、自己破産宣告をするようなのですが、家賃の回収はできるでしょうか?」
弊社「連帯保証人はいらっしゃいますか?」
Q.「契約時にはいたんですけど、既に亡くなっていまして・・・」
弊社「賃借人と連帯保証人は、どのような関係ですか?」
Q.「親子です。」
弊社「連帯保証人の家族構成はどうなっているか、解りますか?」
Q.「奥様がご健在で、賃借人の他に子供が2人います。」
弊社「では、一般的に考えれば5/6は回収できますね。」
という、やりとりでした。
簡単な話ですが連帯保証債務も法定相続されます。つまり、この場合、連帯保証人が亡くなった時点で、法定相続により、妻帯者が健在なら、妻帯者が50%を相続します。そして、残りの50%を子供たちが相続することになります。
ただし、子供のうちの一人は自己破産宣告をするということは、ここからは回収不可能です。つまり、賃借人からは回収できないので1/6は諦めなければなりません。したがって、5/6だけが回収できるということになるわけです。
最大の問題は、連帯保証人の相続人の連絡先がすべて解るかということになります。
通常の賃貸借契約の場合、連帯保証人の保証能力が喪失した場合、別の連帯保証人を付けなければならないとなっていることが多いと考えられます。
このことから、相続人の連絡先を賃借人から聞き出せば良いだけの話です。賃借人から、してみれば、家賃を滞納して、自己破産をして、その請求が親兄弟に行くというのは、恥ずかしいことかもしれません。故に、それを言いたがらないかもしれませんが、それならば賃借人本人が返すしかありません。貸主としてみれば、当然の権利を行使しているわけですから、そこは強引にでも聞き出すべきでしょう。
また、目に見える財産、金銭、有価証券、不動産や、借用書のある借金(金融機関の借金)などというものに関しては、相続人は理解していることが多いのですが、連帯保証債務というものについての相続を理解していない人が多いのが一般的です。そのため、請求しても
「なんで、自分が兄弟の家賃滞納を支払わなければならないんだ!」
と、拒絶してくる場合が多いです。
そこで、民法896条を説明した上で、連帯保証人としての地位を相続している旨を説明して請求することをお勧めします。
第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
もっとも、このような事態に陥って、お困りの場合、なかなか契約当事者でない人(連帯保証人の相続人)との交渉は難しいかもしれません。
その場合は、弊社に一度、お電話でご相談ください。
公正証書の効力 ~立退きの場合~
ここで、公正証書の効力を書きますが、私は不動産や建築の専門家です。
不動産業界で公正証書を使うとすれば、『事業用定期借地契約』の時ぐらいで、あまり、公正証書を使うことはありません。
※ 専ら事業の用に供する建物を所有する目的で設定される借地権で、契約の更新がなく、契約上の存続期間が経過すれば確定的に終了するものです。この契約は、公正証書によってすることが要件とされています。
では、何故ここで公正証書の効力について書いているかと言うと・・・
公正証書によって、『立退き』(賃借人の退去)の約束が確約されると勘違いしている人が多いからです。土地売買の確約に公正証書を使ったという話は聞いたことがありません。しかし、賃借人の退去の約束を公正証書にしたという話は何度も聞いたことがあります。
「相澤さん、やっと、〇〇町のアパートの人から退去の確約とれましたよ!」
「よかったねぇ。そろそろ、手伝ってあげないと辛いかな・・・。と思っていたけど自分でできたんだ。」
「はい!ちゃんと、公正証書にもしました。」
「なにを?」
「えっ。何をって、〇月〇日までに退去するという約束を公正証書にしたんですよ。」
「もしかして、賃借人を公証人役場に連れて行って、公正証書にしたの?」
「もちろんですよ。」
「公証人から、その公正証書に立退きの効力が無いことの説明無かった?」
「・・・。効力ないんですか?法務部にもチェックしてもらったので内容は完璧かと・・・」
「やっぱり、俺が行った方が良かったかな・・・」
この類のやり取りは何度もしたことがあります。
公正証書の効力は、前述の『事業用定期借地契約』と『任意後見人契約』を除けば、
『金銭債権の強制執行権』
だけです。もちろん、債務者に支払い能力や財産がある場合に限ります。
つまり、退去の約束を公正証書にして、賃借人がその約束の期日までに退去をしなかったとしても、その賃借人をその公正証書で退去させる強制執行権にはなりません。退去の約束をさせる場合には『和解調書』(『即決和解』とよく言われるもの)を裁判所で作ってもらう必要性があります。
もちろん、全く効力が無いかというと、そうでもありません。公正証書というのは、裁判の時に重要な証拠になります。
例えば、賃貸人と賃借人が合意解約を締結し、それを書面にしたとして、その書類に実印で捺印し、印鑑証明を添付したとしても、賃借人がなんらかの形で賃貸人に脅されたと言い出せば、話はややこしいことになります。しかし、公正証書の場合は、公証人という第三者が、内容を読み返し、賃貸人と賃借人にその内容を説明します。その上で、公正証書に押印するので、退去の約束をしたという、ほぼ完璧な証拠になります。
しかし、賃貸人にとって、賃借人に立退きを迫るときというのは、概ね早く出て行ってもらいたい場合が殆どであり、できれば裁判を省略して、裁判費用も掛けたくないはずです。公正証書は重要な証拠になるので裁判には勝てる可能性が極めて高いですが、裁判を経由しないと公正証書の約束を実行できないという場合があるわけです。
また、公正証書を締結しているということで賃借人に精神的圧力を与えることができるという効果もあります。
他にも、金銭に関わらない契約内容の部分、例えば
『本業務が完了するまでは、私は貴方に誠意をもって協力します。』
などという部分を公正証書にしている事例を見たことがありますが、公正証書の意味を理解していないで、上記の通り、後の裁判の際の証拠作りをしたかったのかとしか思えません。もし、公正証書の趣旨を理解していて、この類の約束を公正証書にして証拠作りをしようとしているということは、余程、相手を信用していないということですが、裏を返せば、証拠作りをしないと相手が約束を守ってくれない、つまり、相手に信用されていない人のやることとも言えます。
以前、『立退きの際には内容証明を送ってはいけない』という記事を書きましたが、『立退きの際には公正証書は効力を発揮しない』ということも、よく覚えておいてください。
※ 内容証明を送ってはいけない記事はこちらから・・・【立退き】内容証明
公正証書は、『金銭債権の強制執行権』があると書きましたが、これもただ単純に公正証書を作るだけでは不可です。『強制執行認諾約款』を公正証書内に明文化しておく必要があります。『強制執行認諾約款』とは、債権者が
「支払いを怠った場合には、強制執行をされても異議を申し立てません。」
という主旨の内容です。これが無いと、公正証書が在っても、裁判を経由しないと強制執行はできないということです。
前述の和解調書は個人でもできますが、基本的には弁護士を必要とします。リデベでは、弁護士費用も含めてトータルでご相談に乗ります。
特にお急ぎの場合には、すぐにリデベにご相談ください。
【立退き】内容証明
久々に、『立退き・地上げ』のテーマで・・・。
最近、立退きが絡んでいる不動産売買の仕事をやっています。私自身が立退きを請け負っている訳ではなく、その売主さん(法人)自身がやると言うので見守ることにしました。本当は激しく不安だったので、私が請け負いたかったのですが、その売主さん、立退きの委託手数料が無い・・・、というか、そんな手数料払わなくても自分でできると言うので、私は相談役に徹することにしました。
そろそろ、テナントにアポイントを取る時期になってきたので、売主の部長に電話をしました。
「そろそろ、テナントにはアポイント取りましたか?」
「いや~、まだ連絡来ないんですよ!」
『ん?連絡が来ない?そりゃ、立退きするのに、賃借人から連絡は来ないだろ・・・。それとも、なんらかの連絡をしたけど不在だったとか・・・???』
「それって、アポイントを取る為に、なんか連絡をしたってことですか?」
「内容証明だしました!」
「えええええええええええ?何でですか?」
「弁護士に言われたので・・・」
これだから、立退きや地上げを弁護士入れてやろうとすると、ややこしいことになるんです。
ここで、内容証明をご存知無い方に、内容証明について説明します。
※ご存知の方は飛ばしてください。
まずは原則論です。
内容証明とは郵便事業株式会社(所謂、郵便局です。)が、『○年○月○日に誰から誰あてに、どのような内容の文書が差し出されたかを差出人が作成した謄本』によって証明するものです。
ですから、別にトラブルじゃなくても
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平成22年2月12日
東京都○○区▲▲▲町1丁目1番1号
松浦亜弥様
東京都××区△△町2丁目2番2号
不動産と建築の相澤印鑑
通知書
私は、今日から、貴女のファンになることを宣言します。
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※1 松浦亜弥様、勝手に事例に使って申し訳有りません。
※2 差出人は本名じゃないとダメです。
※3 実際に松浦亜弥に上記内容で内容証明を送っても無視されると思います。
※4 受け取って貰えないかもしれません。
※5 横20文字、縦26行など書式が決まっています。
※6 この手の内容で度が過ぎるとストーカー規制法に引っかかるかもしれません。
※7 内容証明に絵文字は使ません。(英語も固有名詞だけです。)
とこんな内容でもO.Kです。
もし、この内容証明を松浦亜弥さんが受け取ると、松浦亜弥さんは、私が松浦亜弥さんのファンであることを宣言したことを
「知らない、聞いてない」
とは言えなくなります。そして、それを郵便事業株式会社が証明してくれる訳です。
もちろん、こんなことに使う人はいません。(いないと思います。)
では、どんなことに使うかというと・・・
・ 借金や売り掛け金などの債権回収
・ 債務不履行による契約の解除、もしくはクーリングオフなど
・ 代金支払い済みの商品の納入の催告
・ 養育費などの支払催告
などなど・・・主に、相手側が債務不履行状態にある時に、それを催促するのに使います。
さて、内容証明についての説明はこれくらいにして、
上記の様に内容証明は主に債務を実行してくれない相手に、それを法的に証明する状態で催告する訳ですから、相手に対して、極論を言えば、
『催促に応じない場合は出るところに出て話をつけよう!』
と宣言している様なものです。出るところとは法廷です。
つまり、相手にケンカを売っている様なものです。
弁護士はこれをやりたがります。
そりゃ、裁判になった方が収入が増えますから・・・。
もちろん、内容証明を見た相手がビックリして、催促に応じてくれれば良いのですが、応じない場合は法廷闘争になっちゃいます。
立退きや地上げの場合、当然ですが、スピード勝負です。
もし、法廷闘争になれば、調停に持ち込むだけでも半年、1年は軽く掛かります。そんなに気長にやる訳にはいかないことが殆どですし、裁判費用だってバカになりません。
また、相手が家賃未納などの債務不履行や重大な契約違反の場合の立退きを除けば、賃貸人は不利な条件ですから法廷闘争に持ち込んでも、満足な結果が得られるとは限りません。
ですから、立退きの場合は内容証明はあまり使わないのが普通です。
ヤクザ屋さんが脅しや暴力に訴えて、立退きをやる場合は別ですが、一般的には賃借人に頭を下げて、相手の気分を害さないように、やんわりと立退きをやるのが普通です。ちなみに脅しや暴力で無理な立退きをやると逮捕されます。
もちろん、私も内容証明は100じゃ効かないぐらい書いていますが、その時は訴訟覚悟でやっています。
ちなみに、今回の売主さんは、内容証明を受け取った賃借人に
「内容証明送ったけど、お話し合いで解決しましょう」
と、相手を怒らしてから、頭を下げるという、良くわからない手法を取っています。
纏まると、いいんですが・・・
【立退き交渉】10年ぶりの再会
現在、しがかり中の案件で立退きが絡んでいる案件があり、本日はその打合せを電話で午前中にしていました。
その会話の中で昔の立退き交渉のことを思い出しました。
平成17年ごろの話です。
私はあるマンションの立退きをやっていたのですが、そのマンションは8割の賃借人が法人です。場所も渋谷のど真ん中ですから、法人が多く入っているのは仕方がないのですが、それにしても間取りが普通の居住用だったので、事務所としての使い勝手はそんなに良くなかったと思います。
さて、そのある法人との交渉です。
法人は、自称IT系の事業を行っているということです。商業謄本も『ITの○○を行う。』等のことが書いてありました。帝国データを取り寄せようとしたのですが、会社が小さすぎてデータが無いとのことでした。
私は立ち退き交渉に原則的には弁護士に出ていただくことはありません。同業者の方なら解ると思いますが、弁護士を入れると時間が掛かるからです。基本的に弁護士は成功報酬の他に実働した労働単価を請求してきます。裁判になれば、その裁判1回につき、いくらと言うような請求をしてくる弁護士がいます。弁護士が入って裁判になれば時間も掛かり、得をするのは弁護士だけということが多々あります。
しかし、3年前のスルガコーポレーションの一件以来、立退き交渉を弁護士以外がやると、弁護士法72条違反になるという懸念が発生しました。それ以来、立退きに関しては弁護士に依頼すると言う法人が多くなり、立退き交渉に時間が掛かるようになりました。
しかし、訴訟に至れば、権利事件ですから必然に弁護士が必要となりますが、双方が合意出来る様な内容であれば事件性があるとは言い切れませんから、 弁護士法72条に抵触するとはいえません。スルガコーポレーションの場合は反社会的勢力との絡みがあって、別件逮捕的なことがありました。
ところが、その立退きの時に、私は弁護士を入れざる得ない状況が発生しました。
相手が弁護士を介してでないと話さないと言ってきたのです。私が直接、その弁護士と話すこともできたのですが、相手が弁護士を出してくる場合はこちらも弁護士を用意した方がいいことが多いです。ただし、私は弁護士を用意したとしても、私も一緒に行くことが多いです。
その時、私は交渉先の弁護士の事務所に私が依頼した弁護士とともに行きました。
そして、その弁護士事務所に行くなりお互いの弁護士が・・・
「あっ・・・」
と言うと、相手の弁護士が
「お久しぶりです。」
私は、相手の弁護士に会うのは2週間ぶりだったのですが、
『ついこないだ、会ったばかりのような・・・』
と思いつつも
「お久しぶりです。」
と答えると・・・私の依頼した弁護士が・・・
「よお、久しぶり!何年ぶりかなぁ・・・。10年ぐらい経つか? 」
どうも私ではなかったようです。(心の中では「Roots飲んでGo」みたいな気まずさでした。)
弁護士同士が随分前に同じ弁護士事務所の先輩後輩だったようです。
立退き交渉は駆け引きも何も無く、1週間で万事終りました。
こういう偶然があると、立退き交渉はあっと言う間に終ります。
今回もこういう風に済めばいいなぁと思いました。
立退き・地上げ交渉のコンサルを承っております。まずはご連絡ください。
空から降ってきたもの
立退きや、地上げをやっていると、様々な人に会います。基本的には「会って良かった。」「自分の人生の糧になった」ということは殆ど有りません。なにせ、こっちからは、「そこから、出て行ってください。」「あなたのその土地を売ってください。」という話を持ちかけるわけですから、自分の為になる話を聞けるということは殆どありません。(稀にはありますが・・・)もっとも、為になる説教を拝聴しに行っているわけではないので、仕事が成立すれば、別の意味で十分に自分の為にはなっています。
むしろ、会いたくない人という方が多いかもしれません。しかし、そこは仕事なので・・・。
立退きの仕事を何軒かこなして、少しは、この仕事に慣れてきた頃でした。
私はあるマンションの立退きをしていました。そのマンションは7階建てです。4階部分までは1階と同じ大きさで建っているのですが、5階からは斜線なりに後退しているので、7階からは6階、6階からは5階、5階からは4階のベランダ(ルーフバルコニー)が覗き込める様な構造になっていました。
すでに、立退きは殆ど終わり、6階の一部屋と7階の一部屋を残すのみでした。
もっともここからが大変なのです。
賃貸マンションや賃貸アパートの場合、最初に下記の様なお手紙を居住者に出します。
本建物は老朽化の為に建直すことになりました。大変、ご迷惑をお掛けしますが、平成○○年○月○日までに退居して頂くようご協力お願いします。
尚、お預かりしています敷金につきましては、今回は本建物取り壊しの為、満額お返しいたします。
この場合、管理会社名義か家主名義で行います。
と、このお手紙の時点で結構な人が退去に同意してくれます。理由は四つあります。
・ 借家法を理解していないので、家主に出て行けと言われた時点で断れない。
・ 『建物老朽化』は住んでいる人にとっても心理的に不安になります。
・ 建物を傷つけて、「明らかに敷金が返ってこない」、もしくは「預け入れ敷金以外にも取られるかな?」と思っている居住者にとってみればラッキーな話です。
・ また、ワンルームなどで多いのですが、そもそも、長期間住もうと考えていない居住者もいます。
この様な人は立ち退き費用すら殆ど掛からずに出て行ってくれます。
学生や低所得者が多い共同住宅では意外にあっさりと終ることが多いです。(借家法を知らないか、知っていても戦う術を知らない為。)
しかし、最後の方まで残っている方と言うのは、それなりに交渉が私からみれば苦戦しているから残っている方です。立退きというのは100戸のマンションの99戸が出て行ってくれても、最後の1戸が退居してくれなければなんの意味もありません。だから、最後が踏ん張りどころなんです。
というわけで、あと2戸だからと言って気は抜けません。
私は6階の一室の方(Nさん)と立退きの交渉をしていました。
Nさんは某一部上場企業の法務部の課長さんです。独身ですが、家賃25万の2LDKに住めるだけの財力はあります。知識もありました。
それ故に最初は苦戦したのですが、やはり知識のある方なので、時間を掛けて交渉することでやっと着地点が見えたころでした。Nさんは、仕事でいつも遅いので、打ち合わせはいつも夜になってしまいます。その日はNさんの部屋で打ち合わせになりました。
あらかた、その日の打合せが終わった頃に、上の階からドタドタと走るような、そして、なにやら大声が聞こえました。
もっとも、かなり堅牢なマンションでその足音も声も気にはなりませんでしたが・・・
「7階の方はなんか騒いでいるみたいですね。」
「そうなんですよ。以前から、奥さんのヒステリックな叫び声とか聞こえるんですよね。」
「では、Nさんがここにお住まいの間、ご迷惑お掛けしました。」
「もっとも、私も殆ど寝に帰っているみたいなもんで、あまり気にしていませんでした。」
と、話をしていたその時でした。
Nさんのバルコニーに何かが落下するのが窓越しに見えました。。
Nさんが干していた、シーツ?ごと、バルコニーの床に何かが落ちました。
Nさんと私は顔を見合わせて、バルコニーに向かいました。
その時、私はぞっとしました。何故なら、シーツに包まった物体が動いているんです。
もう、頭の中では上の階の人が暴れて、バルコニーに落ちたと思いました。
Nさんt私は恐る恐るですが急いでそのシーツを剥がすと・・・
なんと、中から出てきたのは犬です。
しかも、グレート・ビレニーズです。(超大型犬で重さは40㎏以上ある大きな犬です。)シーツに一度、引っかかったせいか、どこも怪我はしてなさそうです。しかし、さすがに犬も興奮していて、物凄い顔で睨まれました。
『な・・・なんで、犬が空から・・・』
一応、管理者で大家でもある私は慌てて、7階に行きました。
「あ・・・あの、お宅様では犬を飼っていますか?」
「だから、なによ!」
奥様は相当、ヒステリックになっています。
「いえ・・・6階の御宅に犬が落ちてきまして・・・」
「言う事聞かないから、ベランダから投げたのよ!」
『グリーンピースに言いつけてやる!』
と言いたいのを必死に押さえて・・・
「いえ、まず、6階の方にご迷惑なになりますので、犬と言わず、物を投げるのは・・・」
「うるさいわねぇ、管理会社の人でしょ。いつも、マンションをうろうろしているから知ってるわよ!」
『そりゃ、立退き交渉で毎日来ているよ。』
と、言い出しそうだったんですが
名刺を出して・・・
「管理会社でもありますが、所有者でもあります。」
と、言ったところで相手も少し、バツが悪くなった様です。
「ごめんなさいね。もう、投げないわよ!」
「いえ、それはそうなんですけど・・・」
「何か、まだ用事があるの」
「はい、当マンションはペットの飼育は禁止しております。賃貸借契約書にそれは明記させて頂いておるはずです。」
「じゃあ・・・、捨てて来いって言うの?」
「いえ、そういう意味ではありません。」
「解ったわよ!他に用事がないなら帰ってください」
「解りました。」
と言うよう、ビックリする様な人でした。
もっとも、この契約違反を理由に私がその方に立退きを迫ったのは言うまででもありません。しかし、犬の大きさには、相当、驚きました。
と、またもやどうでもいい話ですが・。。
【立退き】ラシントンパレス
新宿2丁目と聞くと皆さんはどんなことを思い出しますか?一般的には・・・
『ゲイの街』
と答える方が多いと思います。私も以前はそう思っていましたが、今では、私が立ち退きにチャレンジしようとして会社の許可が出なかったところとして記憶に残っています。
その場所はタイトルの『ラシントンパレス』というホテルでした。
※同じく新宿にある『ワシントンパレス』とは全く関係有りません。
新宿駅東口を出て、新宿通り(アルタや伊勢丹のある通り)を新宿を背に歩いて行って、丸の内線の新宿3丁目駅を過ぎた右側にありました。私のところに物件情報が入って見に行くと、残っているテナントは1つだけ。しかも、小さな飲食チェーン店です。事前に売りに出ていた価格とで収支を組めばバッチリ合います。むしろ、安いぐらいでした。
そのテナントは『餃子の王将』です。
この手のチェーン店展開しているテナントというのは、通常の場合、金銭解決できるのが一般的です。なにしろ、相手も完全な営利団体ですから、相応の対価を用意すれば話に乗ってきます。
しかし、よくよく考えてみると、あと『餃子の王将』を立ち退きすれば、解体して更地で売却できるはずです。更地にすれば相当の高値で売却できるのに、なぜ自分で立退きしないんだろう・・・。
そこで私は当時、付き合いのあった、立退きで有名なゼネコンのI氏に相談に行きました。
「あはは、相澤さんもチャレンジしようとしてるわけね。」
「えええ、『も』ということはIさんもですか?」
「いやいや、相澤さんがチャレンジするならうちは手を出さないけど、一筋縄ではいかないよ。」
「でも、『餃子の王将』だけですよね。」
「今の所有者だって、なかなか(立退きが)上手いんだよ。」
「それは、知ってます。だから、相談に来たんですよ。」
「簡単な話さ。今の所有者じゃ、出せなかったってことさ。」
「え?資金繰り的にタイムリミットで手放すとかじゃないんですか?」
「そんな、(今の所有者は)会社じゃないだろ。」
「じゃあ、Iさんとこでやっても大変だと思いますか?」
「いや、うちなら出来るよ。そうだ、うちがやって、更地にしてやるから、そうしたら、今の価格に○○億円乗せて、相澤さんが買ってくれよ・・・」
「えええ・・・・。高いっすよ・・・。」
という訳でその話を会社に報告すると、
「スルガのIさんが大変だって言ってるんだろ。辞めとけば・・・」
の言葉で却下となりました。そうです。立退きで有名なゼネコンとはスルガコーポレーションだったんです。
その後、ラシントンパレスは本当にスルガコーポレーションが購入して、餃子の王将も退去して、同社の手で更地となり、建築のお知らせ看板が出ていました。
スルガコーポレーションが暴力団関係会社と組んで立退き等をやり、関係者が逮捕されるニュースが出たのは、その直後のことでした。スルガコーポレーションの立退き手法は知ってはいたのですが・・・。
※この件について知りたい方は『スルガコーポレーション 光誉実業』でGoogleで検索してください。
古い話だけど・・・
宮下公園の命名権と地上げの苦い思い出
宮下公園をご存知でしょうか?
※みやしたこうえん:渋谷区神宮前にある公園です。杉並区宮前にも同じ漢字の公園がありますが、この公園は『みやしもこうえん』と読みます。
渋谷から明治通りを原宿方向に歩くと山手線沿いにある細長い公園です。命名件売却で知っている方もいるかもしれません。
東京にお住まいじゃない方にはなじみの薄い公園だと思うし、東京に住んでいても宮下公園そのものに行ったことのある方は少ないと思います。ただ、渋谷ではちょっとしたシンボルでもあるので、渋谷から神宮前方向に買い物に行ったりするとその脇を通ったりするので知っている方も多いと思います。1980年代ぐらいまでは渋谷のちょっとしたデートスポットだったりしたのですが、最近ではそういう雰囲気の場所ではありません。
何故かと言うと・・・ホームレスの方の家?が建ち並んでいるからです。ブルーシートで覆われた簡易なものから、かなり立派なものまであります。
それが、最近になって渋谷区が宮下公園の命名件を売ったということで有名になりましたが、その公園の命名件料が公園整備に当てられるそうです。
しかし、まさか『ナイキ公園』なんて名前になるのでしょうか・・・。
この公園ですが私にはちょっとだけ悲しい話があります。
これは宮下公園のそばに住んでいて、今でもすぐ近くに住んでいる方から聞いた話です。
(地上げをしていて、仲良くなった地元の方から聞きました。)
この公園はそもそもは東京都の都市計画で1930年に出来た公園です。この頃の渋谷はというと・・・まさに忠犬ハチ公の時代ですから、完全な住宅街だったはずです。宮下公園の周辺も例外なく住宅街だったそうです。
当時は宮下公園の脇を渋谷川(今では地下を通っていて渋谷の南口のところから、また地上に顔をだす川です。)が流れ、その公園と渋谷川に小さな店舗併用住宅が並ぶ静かな町だったそうです。
しかし、太平洋戦争末期になると、当時、山手線が重要な軍事物資を運ぶ鉄道だったそうです。鉄道の周りに住宅があると、光が漏れて夜に空襲の対象になり、また空襲に会うと火事になって鉄道が使えなくなるということから、宮下公園の周りにあった、家は強制的に明治通りの反対側に移動させられたそうです。しかし、引き屋が動かしたというから驚きです。
※引き屋・・・家を土台から持ち上げて動かす商売の人
当初はみんな、嫌がったそうですが、結局、戦時下で逆らうこともできず家ごと疎開したみたいな格好になったそうです。しかし、それでも線路付近は空襲され、家ごと疎開したことで助かった方が多かったということです。
しかし、その宮下公園から運んだ最後の家も、一昨年、壊されてしまいました。
住んでいた方が老人ホームに入ることになり、売却してしまいました。
それを買って壊した張本人です。
ちょっと、罪悪感を感じた地上げでした・・・。
老人ホームにいる方が幸せと本人が言っているので・・・
【地上げ】~境界確認~後編
昨日は設計事務所との打合せでした。
この不景気に超大プロジェクトの計画を設計事務所と打合せしてきました。
58坪の店舗兼住宅・・・・・・・・・・・・
というわけで、前回の続きです。
さて、程なく、Aさんは帰ってきました。
書類を一式もって来ました。
Bの土地の謄本類も一式揃っています。
Aさんの土地との境界以外の方の印鑑も既に押されています。ちゃんと印鑑証明もついていました。
「ん?・・・なんでAさんの弟さんの印鑑証明が添付されてないんですかね?」
「だって、弟は印鑑登録してないもん・・・」
(はっ?弟さん・・・何歳でしたっけ・・・・)
と、言いたいのを抑えて・・・
「へ~、そうなんですか」
『・・・・・』
(ひらめいた!)
「あ、Aの土地の謄本ありますか」
「あるわけないじゃない・・・」
(さすがに今回は準備悪いなぁとは思わず・・・)
「じゃあ、ちょっとパソコンで取りますね。」
「・・・いやらしいわねぇ・・・・」
(って、別にあんたの謄本見てもいやらしくないだろ!)
と、声を大にして言いたいのを抑えて・・・
「Aの土地はAさん、お一人の名義になってますね!」
「当然じゃない!」
「じゃあ、弟さんに代理委任状渡しました?」
「弟がハンコウ押したのを知ったのだって昨日なのに、委任状なんか渡すわけないじゃない!」
『勝った』
心の中で雄叫び!
「じゃあ、この家屋調査士に電話させてもらっていいですか?」
「いいけど、無駄じゃないの?」
(じゃあ、頼むな!)
と・・・怒鳴りたいのを抑えて、家屋調査士のY氏に電話しました。
「おたく、Aさんの土地とBの土地の筆界確認した家屋調査士のYさんですか?」
「ええ、うちがやらさせて貰いましたが・・・。なにか?」
「AとBの土地の境界確認は無効じゃないですか?Aの土地の所有者はAさんであって、Aさんの弟にはなんの権利もないですよ。」
「ええ、ただAの土地の謄本見たら、Aさんは海外にお住まいなので親類の方に代理でハンコウを貰いました。」
「あのさぁ・・・Yさんもプロでしょ?海外に住んでるから、代わりって通用するんですか?代わりなら代理委任状が必要でしょ。」
「・・・・。いや、じゃあ、Aさんの弟さんが私にまるで権利者のごとく、押印したということはAさんの弟さんの詐欺行為ですよね。」
『釣れた!』
心の中でガッツポーズ!
「じゃあさぁ・・・この弟さんからハンコウ貰ったって言ってるけど、印鑑証明どうした?他の境界にはご丁寧に印鑑証明が全部揃ってるけど、ここだけ何故か印鑑証明がないですね?」
「あ、Aさんの弟さんが実印持ってないって言ってたんですよ」
「本当にAさんの弟が押印したって証拠出して下さいよ。」
「・・・・」
『チェックメイト』
心の中で静かに一言!
「Yさんの立場も解らないでもない。しかし、焦りすぎたかな・・・。でも、心配しなくていいよ。あなたの依頼主が怒らない様にしてあげるよ。ただ、二つ、頼みがあるんだけど・・・。Yさんが請け負った、Bの土地の所有者から、今、この土地売買の話が進んでいる金額を教えてもらってよ。それと、Bの土地の所有者の電話番号を今すぐに教えて。」
すぐに、家屋調査士から電話が掛かってきました。値段もご丁寧に調べてくれました。
私はすぐに、Bの土地の所有者に電話しました。
「Bの土地の件なんですけどね。話が二つあるんですよ。まず、AとBの土地の境界確認については無効です。Aの土地の所有者は押印してません。それと、AとBの境界確認が出来てない状態で○○○○万円でBの土地を買いたいと言っている方がいるんですけどどうですか?」
※この金額は当然ですが先に進んでいた話に上乗せしています。
Bの土地の所有者はさすがに突然の電話で驚いたのでしょう。
「どちらから、この土地の売買の話を聞いたんですか?」
「家屋調査士のYさんとは旧知の仲でして、たまたま、話を聞いたんですよ。」
Bの土地の所有者は結構、話の解る方でした。AとBの境界の確認が取れていないことをちょっと説明したらわかってくれました。
こちらもAとBの境界が確認できてなければ現況有姿で売れないということは必死に境界確認をしていることから想定済みです。
また、Bの土地の所有者には、この家屋調査士Y氏のおかげでもっと高い金額で売れたと思わせることでY氏の面子も保ちました。Bの土地の所有者もちょっとでも高く売りたかったのでしょう。喜んで乗ってくれました。
しかし、その先に話が進んでいた方との契約が3日後だったというのは、後から知った話でした。本当にギリギリセーフでした。
みなさんも、実印を気軽に押さない様に注意してください。
実印を持ってなくても・・・
【地上げ】~境界確認~前編
日本社会に於いて、印鑑は大変重要な役割を果たします。実印と印鑑証明・・・これさえ揃えばということが多々あります。
今回はそんな印鑑に纏わる話です。
去年の暮れに私にAさんがやってきました。Aさんは都内のある地主さん(おばさん)です。
(その時、Aさんは悠々自適に海外で暮らしていました。今もですけど・・・)
「相澤さん、ちょっと聞いてよ!」
「どうしました?」
(この人、ヒステリックだから関わりたくないんだよなぁ・・・)
「ほら、私が以前から欲しがっていた、Bの土地あったでしょ!」
「あ~、2通り沿いの駐車場の土地ですか?」
「そうそう、あの土地、売りに出たのよ!」
「良かったじゃないですか?」
(どう見ても、怒っているので、この発言は火に油を注いでいます。)
と、私は現地も見て解っているのですが、皆さんには解りにくいと思うのでまたまた絵を描いてみました。
Aさんが欲しがっていたと地はBの土地です。2の道路に20mぐらい面しています。奥行きは6mほどで2の道路(『2通り』と呼びます。)から直接入るような月極の駐車場でした。AさんはAの土地の所有者です。1の道路はAさん名義の私道で幅員は4m、2通りは幅員22mの公道です。この場所の用途地域は商業(容積率500%)です。
Aさんの土地は1の道路にしか接道してないですから、容積率は240%です。しかし、Bの土地が手に入れば、2通りに面する事になるので容積率は500%となります。面積当りの資産価値は一気に倍以上になるから欲しいに決まってます。
また、Bの土地は奥行きが6m程度しかありませんから、大したものが建ちません。しかし、Aさんは自分の土地と合わせれば、100坪を超えます。これならば色々なものが検討できますから、Aさんは他の購入検討者よりもBの土地の評価は高く考えられるので、価格勝負になればAさんが圧倒的に有利です。
※ここで一般の方に道路幅員と容積率の関係を簡単に説明します。
道路幅員が12m未満の場合、その場所の用途が住居系の場合は
道路幅員×0.4×100=容積率
同じく商業系の場合は
道路幅員×0.6×100=容積率
になります。ただし、都市計画で定められる容積率を超えることはできません。
「それが良くないのよ!Bの土地が売りに出たと聞いたのは昨日、日本に帰ってきてからなのよ!」
「しかし、日本に帰ってきてすぐによく、Bの土地が売りに出てるという話を聞きましたね?どなたから聞いたんですか?」
(少し、落ち着かせるために、やんわりと、話を逸らします。)
「それが、私の弟からなのよ!」
(Aさんの弟さんはAの土地から、程近いAさん所有のマンションに住んでいます。)
「弟さんは、Bの土地が売りに出ているとよく、知っていましたね。」
「それがねBの土地の所有者が売却するに当って、境界を確定したかったみたいなの。私の気持ちも知らないで、その書類に弟が勝手にハンコウを押しちゃったのよ。それで弟がその書類の複写を私に持ってきたわけ!それで、その家屋調査士に電話をしたら、売りに出てると解ったわけ!」
「じゃあ、買えばいいじゃないですか!」
(買えないから、私のところに来た事はもうわかってるんですが・・・)
「私だってそう思ったわよ。それで家屋調査士に誰に電話をすれば良いか聞いたら、仲介業者を教えてくれたの。それで電話したら、『もう他の方と話が進んでいて・・・』と言って私には売れないって言うのよ!」
「はぁ・・・」
(それで、どうしろと・・・)
「なんとかならない!」
(私じゃなく、売主にでも相談してくれ・・・)
と言いたいところを抑えて・・・
「とりあえず、筆界確認書の複写を見せていただけますか?」
「じゃあ、家に取りに行ってくるわ!」
(準備悪いなぁ・・・)
もっともAさんの家はここから、徒歩15分です。
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今日はこれから打合せに行かなくてはならないのでこの話は明日に続きます。
中途半端だけど・・・
【地上げ】~接道~
『立退き屋』だとか『地上げ屋』と聞いて、良いイメージを持つ人はいないと思います。私もまったく、良いイメージがしません。会ってみると、やはり、あまり良いイメージの人はいません。私は自分では普通のイメージの人だと思っています。が、社員からは
「オールバックにしないでください!怖いからというより、一緒に歩いてると自分も仲間だと思われるのが嫌だから!」
と言われます。
設計の仕事をしているときにも同じ身なりだったんですけど、やっていることと身なりが重なるとあまり良いイメージにはならないのでしょう。ちなみに、立退きの話の時にも書きましたが、地主さんを脅したり、不法占拠をして地上げをする人もいないことはないですが、今どき、そんな地上げをする人って、かなり古い人です。
もちろん、私はそんな地上げの仕方はしません。格好悪いですし・・・。すぐに逮捕されちゃうし・・・。
さて、色々な地上げをしてきましたが、今回は後始末の話です。しかも、私が地上げに失敗した数少ない話です。
ちょうど、3年ほど前の話です。梅雨の季節でやはり、雨の降る日でした。
私の知り合いの分譲住宅業会社に勤めるM氏から電話がありました。
「もしもし・・・あのさぁ、前から買おうと思っていた、○○町の土地!やっと買えたよ!」
「良かったじゃないっすか」
(ん?自慢話かな?)と思いつつ、社交辞令でそう言うと・・・
「それが困ったことになったんだよ。」
さて、私はこのM氏とは前から知り合いで、今回のこの物件のことは前から聞いていました。
話が解りにくいので、まずは下の絵を見てください。
事前に見せてもらっていた、公図を簡単に絵にすると、下の絵の様になります。
※公図・・・土地の境界や建物の位置を示すものです。一団の土地の様に見えても実際には何区画にも分かれている土地だったりするのですが、それが公図を見れば解ります。ちなみにこの区画の単位は『筆』です。
M氏はAの土地を買いました。面積は250坪ぐらいの土地です。
目的は宅地を分割して分譲住宅を作って売る予定で購入しています。
Aの土地はBとCの土地の所有者でもあるJさんです。
BにはJさんの子供夫婦が住んでいますが土地はJさんのものです。CにはJさんが住んでいます。Aの土地はJさんとJさんの子供夫婦が庭として使っていました。M氏はBとCの土地も売却して欲しかったのですが、それはどうしてもJさんが嫌だということで買えませんでした。
D~Hはそれぞれ、Dさん~Hさんが持っていました。
1~4はアスファルト敷きの道路状になっています。
1と4は幅員が8m、2と3は幅員が6mでした。
この絵だけだとなんの問題もないかと思われます。
「どうしたんですか?」
「接道してないんだよ・・・」
「はぁ?そんなこと、ちゃんと重説に書いてあったでしょ。」
「俺、Jさんから直接買ってるんだよ。仲介はさんでないから、重説ないんだよ」
M氏はこの業界で30年近くはやってるベテランです。たしかにM氏はいい土地を見つけて、直接、所有者に交渉してきます。だから、安く買えるというのがM氏の持論でした。
「ということは、2の土地は一見、道路に見えるけど道路じゃないんですか?二項道路でもないんですか?」
※二項道路・・・幅員4、未満の道路でも建築基準法施行前からある道路で行政から認められている道路のこと。建築基準法42条2項に定められる。この場合、すでに6mあるので私が「二項道路」というのは間違いで、「私道」と聞くのが正解である。
「そうなんだよ。3の土地も2の土地もHさんのものだったんだよ。」
たしかに業者が個人から、買うのに重説なんか作りません。
(それにしても隣接地の謄本上げて、役所に行って道路状況を調べるの当たり前だろ!)
と、言いたいところを抑えて・・・
「じゃあ、Hさんに2の土地を売ってもらう様に交渉してきたら?」
「それがさぁ、Hさんの土地にはアパートが建っていて、謄本に出ているHさんの所に行ってもHさんいないんだよ。それで、困って相澤に電話したわけだ。」
「じゃあ、とりあえず謄本送ってください。」
FAXされてきた謄本を見ると・・・たしかに2はHさんの土地でした。○○町の役所の道路課に行ってみると、たしかに2の土地は道路でもなんでもありません。ちなみに3の謄本を取り寄せると、やはりHさんの土地で役所では道路にはなっていませんでした。
Mさんが既にやったことですが2の土地の謄本に書かれてあるHさんの住所△△町に行ってみました。
普通に家が建っています。表札はHさんとは全く関係のない名前です。
とりあえず、無駄と思いながらも、その家を尋ねると
「ここは借家なんだよね。でも、貸主はHという名前じゃないよ。」
(じゃあ、誰だ・・・)
事務所にもどってパソコンで、△△町のHさんの土地の謄本を取ってみてやっと解りました。
Hさんは平成元年に亡くなっていました。そして、HさんからHさんの子供?と思われる人に登記され、Kさんに売却されています。あの手この手で調べて、Hさんは相続人がご子息しかいないことまでは解りました。
○○町の土地はHさんの名義のまま、相続による名義変更が行われていなかっただけなんです。
そこで、△△町のHさんの相続人の登記されている住所を見ると・・・・
『ハンガリー国ブダベスト市』
諦めました。
私はM氏にその旨を伝えました。
「どうしよう・・・」
「その、住所に手紙でも書いてみてはどうですかね?」
「日本語でいいかなぁ・・・」
「日本人だから、たぶん大丈夫じゃないですか?」
(どうせ、ハンガーリ語なんか書けないだろ!)
M氏はHさんのご子息に手紙を出しました。
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M氏は今でも返事を待っているそうです。
Mさんに返事が来なくても・・・