リストラ 第7話
私はN取締役に呼ばれました。
N取締役は生え抜きです。生え抜きどころか、中学校を卒業してH建設に入社し、創業者の家に居候しながら、仕事を続け、たたき上げの技術者でした。
N取締役は時折、古臭い話をします。その殆どが現代の住宅市場では時代遅れの話でした。故に、社員はN取締役の話が苦手でした。
しかし、私はN取締役の話を聞くことはあまり苦痛には感じませんでした。
N取締役の話には、住宅業界の私の知らない30年が詰まっていました。細かい精神論はあること、パソコンに対して批判的であることを除けば、寧ろ、住宅業界や、社員教育という部分に於いては為になるのではないかと私は感じていました。
「おい、相澤、I常務が色々、人事をいじろうとしているみたいだが、相澤はどこまで知っているんだ?」
「それは私自身のことですか?それとも社内全体のことですか?」
と言う、言い方をした自分がN取締役が社内全体の人事について聞いていることを察していることが解っているにも関わらず、こういう言い方をした自分の防衛本能に少し嫌気を感じました。そして、自分がその様に感じる時には相手はそれをしっかりと解っているということでした。
「それは愚問だな。社内全体のことを知っていれば自身のことも知っているだろう。自身のことを完璧に知っているということは、相応の話を知っているということだろう。」
「すいません。N部長の方が私よりも多くの情報をお持ちだと存じますが・・・。何せ、私は中間管理職ですから・・・」
※私はN取締役が役員になる前からN部長と言っていたので、『N部長』と最後まで言っていました。
その際に、この言い訳は苦しいか・・・と感じてはいました。
「相澤、その、物の言い様は相澤らしくないな。R社長、I常務から直接呼ばれて、話をしただろう。」
「たしかに・・・。私は新規立ち上げの部署に異動になることを聞きました。しかし、全体の人事については伺っていません。しかし、何故、N部長は私に聞くんですか?R社長なり、I常務と、事前のご相談をされているのではないのですか?」
「う~ん。相澤らしいというか・・・。人は一人では何も出来ないといことが解らないのか?」
私はN取締役の言っていることが、その時には全く解りませんでした。後に解る様になるのですが、今考えれば、それを理解できる様にならなかった方が良かったと思います。
「すいません。N部長の仰りたいことを理解できないのですが・・・」
「解らなければ、それでいいが・・・。ところで、相澤の人事の件は誰から聞いたんだ?」
「I常務です。R社長が退任されるので、I常務が次期社長ということでしょうかね?S部長もI常務が、直接、しかも、今の時期に人事を事前に言うのはオカシイと言っていましたが・・・」
「やはり、I常務が言ったのか・・・。相澤は、それでいいのか?」
『やはり』と言うことは、何かをN取締役が知っていることは間違いないと思いました。しかし、私はあまり、人事に興味をもっていなかったので、そもそも、如何様でも良いと思いました。
「良いも何も・・・。私はサラリーマンです。与えられた場所で最大限の努力をすることが仕事です。また、そこまでしか私には権限がありませんから・・・。」
N取締役は私に何か言おうとしましたが、しばらく何かを考えていました。人が言葉を選んでいると実感した瞬間でした。そして・・・
「たしかに、そうだな。一つ、頼みがあるんだが・・・。」
「何でしょうか?」
「R社長、I常務から、個別に呼ばれることが多くなるだろう。それについて、相澤が間違っていると思ったことがあったら、俺に教えてくれ。相澤の力になるから・・・。」
不思議に思いました。
『なんで、個別に呼ばれるんだろう・・・』
とも思いましたが、それに対して、間違ってると思うことがあるなら・・・。
「ありがとうございます。その際にはN部長にご相談させて頂きます。」
としか、言い様がありませんでし。
ただ、この時に、大きな人事改革があることは容易に想像できました。
しかも、役員が中間管理職の私にまで、情報収集をしなければならない程、混沌としながら、密やかに、手綱を競き合っていること、触感する実感がありました。
人事の発表まで、あと4日でした。
また、なにやら中途半端だけど・・・
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