不動産売却の時期 消費税増税後の住宅需要

連載シリーズ 【 不動産売却の時期 消費税増税後の住宅需要 】 第 3 話 / (全 4 話)

 平成9年の3月末には平成8年度4回目のボーナスが出ました。この年、4回目のボーナスが出るときに当時、私が勤めていた会社の副社長(当時71歳)がボーナス支給に当って、全社員の前で

「去年は消費税増税前の駆込み需要で予想以上の売上をあげたが、今年はその反動が必ずあるだろう。生産部門は一層のコストダウンに努め、消費税増税分以上に価格を下げる努力をして、営業部門は、それを如何に顧客にアピールするかを考えなければならない。以前の消費税導入(※)は、バブル景気に向かう中で影響は軽微だったが、今回は違う。」

 と言いました。(※「以前の消費税導入」:1989年4月1日に日本で始めて3%の消費税が導入されたこと)

 しかし、社員は前年のあまりに好調な売れ行きや、以前の消費税導入の時にあまり影響が無かったことから、楽観する雰囲気が漂っており、その副社長の言葉をちゃんと受け止めていなかったと記憶しています。

 しかし、副社長の言ったことは、見事に的中することとなります。

 平成9年度上期(4月~9月)分の事業用地は、ほぼ平成8年度下期以前に入手したものが多く、前回書いたように用地取得部門は、事業用地を必死になって買っていましたから、当面の事業用地は確保されていました。

 建設会社というのは、作り続けないと存続できません。工場等がないので生産調整が簡単だと思っている人が多いのですが、建設会社には専属の職人がいます。職人は社員ではありませんが、仕事の発注を辞めると職人は食べていくことができなくなります。これは現場の職人だけではなく、仕入れている材木屋や畳業者や襖業者などの大手ではない建材業者にも同じ事が言えます。

 だから、事業用地がある以上、作るしかないということもありました。

 その証拠に平成9年の住宅着工戸数は134.1万戸と前年の163万戸から17.7%も減ったのですが、分譲住宅(分譲マンションと戸建て分譲)の着工戸数は35万戸と僅かに0.1万戸(前年比0.4%)の減で済みました。しかし、これは着工戸数であり、販売戸数ではありません。

 作っても全く、売れなかったという記憶があります。在庫だけが増えていき、結局、建築コストを下げるどころか、赤字覚悟で値下げをして販売をするのですが、需要の先食いをしてしまっていること、消費者の購入意欲の減退から、価格を下げても売れなくなりました。

 平成9年の下期になると楽観視していた役員や社員も状況を把握しだし、事業用地の購入を絞り始めました。価格が特別に安い土地だけを購入するようになっていきます。

 私はこの頃、まだ社会にデビューして数年目でしたが、商品開発部門にいました。マーケティングデータや統計データの解析をしていたので、この頃のことを良く覚えていますが、私と同世代の同じ業界の人でも、何故、分譲マンションや戸建て分譲が売れなくなったかをしっかりと認識している人は極僅かです。

 当時、この消費税増税による影響の反動で分譲マンションや戸建て分譲の売上が大きく下がったということをちゃんと認識していた当時の管理職社員や役員の方は、既に50代後半~70歳代ぐらいのはずです。

 この業界の人でも消費税増税の反動を認識している人の半数以上が現役を退いているということになります。

 今回の消費税増税も大きな反動が出ることは必至です。

 実際に消費税増税の駆込み需要も起こっていますが、さらに金利が上昇局面に入っていることもあり、金利が安いうちに住宅を買おうという需要も重なっています。

 政府はその反動を抑えるために住宅取得時の減税などを考えているようですが、需要の先食いをしてしまうと、需要そのものが少なくなるので需給バランスが崩れます。

 これはエコポイント終了のときの家電でも同じ現象があったのは記憶に新しいところです。

 エコポイント終了にともない、家電の売れ行きは一気に悪くなりました。家電量販店は必至の値引き競争をして、実際にはエコポイント期間よりも安く家電を買えたのですが、各家電量販店の売上は一気に悪くなりました。当然、無理な値引きもしたので利益も減ります。さらに家電各メーカーにも仕入れ値を押える要請をしますから、家電メーカーも利益が出なくなります。

 家電量販店が仕入れ値を押えたのと同じように、土地価格の下落が起こります。

 今の土地価格が維持、微増は、あと1年と予想されます。

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