リストラ ~第13話~

連載シリーズ 【 リストラ ~第13話~ 】 第 13 話 / (全 16 話)

人事発表からしばらくすると、私は、耐震リフォーム部のことや、新規事業部のことを気に掛けている余裕はなくなっていました。

今まで自分がやったことの無い世界の仕事をすることになったからです。

第12話にも書きましたが、それまでH建設は特許を取ったりすることは有りませんでした。というか、商標登録すら取ったことがありませんでした。

そこで、私に与えられた仕事は、まずはパテント関係の整理でした。

その時のH建設には法務部などはありません。もちろん、特許部もありません。それに特許も商標登録も取ったことのない会社ですから、それについて聞ける人は誰もいませんでした。パテントに関する独学が始まりました。

おかげで、私は今でも特許の申請や開発した技術や商法が特許に抵触するかなどが、ある程度解ります。もっとも、それが役に立つのは次の会社に行ってからになりますが・・・。

今までにH建設で開発された商品や技術の特許、実用新案で登録できるものを登録し、また、商標登録で申請した方が良いものがあれば、それも行うということでした。

また、それをやっているうちにあることに気がつきました。

自分がそのパテントを申請できるかを調べているうちに、すでにH建設が他社の知的財産権に抵触しているものがあることに気がつきました。実際にはH建設の方が開発したのは早いのですが、他社が特許を取っているなどというものもありました。この部署が立ち上がってから1年間は特許庁のホームページを見ることと弁理士事務所の往復という日々でした。

商品技術開発室に配属になって2ヶ月目のことでした。

平成11年6月の株主総会で役員が発表になりました。

大方の予想通りですが・・・

R社長→代表権の無い会長

I常務→代表取締役社長

ということになりました。

社内ではこれを前にして面白い(いや、多くの社員から見れば不愉快な)現象が起こっていました。

今までI常務に可愛がれていた社員に対して、やたらと仲良くしようとする管理職クラスの人が目立ちました。I常務はもともと、営業畑一本の人です。

建設会社はそうですが営業と技術系は往々にして仲が悪いものです。H建設は創業者が技術者であったことから、技術系の社員の方が重用されることの方が多かったので、技術系の社員は営業系の社員に対して、上から物を言う事が多い傾向にありました。

ところが、I常務が社長になるであろう憶測がながれたころから、やたらと営業系の部長職に挨拶に行く、技術系の管理職クラスの社員が増えました。

中にはロクに仕事もできないのに、I常務が社長になるであろうことを予測して、I常務直属の部署に異動を希望する輩もいました。


私は同期と昼食をしている時に言いました。

「あのF課長みたいなのなんて言うか知ってるか?」


「ああ、I常務に媚を売ってる課長ね。なんか例えがあるのか?」


「『廊下トンビ』って言うだよ」


「なんだそりゃ?」


「あいつ、用事も無いのにI常務のところに行くだろ。トンビは同じ場所行ったり来たりしているだろ。それに似ているからだよ。」


「なるほど・・・」


※厳密には廊下トンビの意味は微妙に違います。

廊下鳶

(1)(2)の意から〕特に用もないのに廊下をうろうろしたり、他の部屋をのぞいたりすること。また、その人。

(2)妓楼(ぎろう)で、遊客が相方の遊女が来ないので待ちかねて廊下を歩きまわること。

大辞林第二版より


このF課長、後に私が辞表を出した時の直属の部長です。(1
参照)


そして、社長は会長に就任する直前の全社員を集めた朝礼で

「私は創業者に依頼されてこの会社に来ました。創業者の意向をついで、この会社を今日まで、守ってきたつもりです。しかし、これからは少し景気もよくなるでしょうし、H建設の生え抜きの皆さんの力を併せて頑張っていってください。」

これがR社長が社長として社員に送った最後の言葉でした。

ふっ・・・と頭の中をよぎったことがありました。

そう言えば、R社長はM部長に・・・

『「来年、もしくは再来年の役員人事では君を新役員に推薦するよ」と2年前に言っていたけど、今回の役員人事でもM部長は取締役にならなかったなぁ・・・』

ということでした。

不思議には思ったもののそれ以上のことはあまり考えていませんでした。

その理由を聞くのはちょうど1年後のことでした。

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