窓先空地
うちの会社は、不動産の仕事もしていますが、設計事務所でもあります。
今年は、売上の半分、仕事の6~7割が設計系の仕事でした。
さて、タイトルの件です。
「窓先空地」という言葉をご存知でしょうか?
東京や神奈川で、マンションの設計や開発をやった方なら知っていると思います。
これは、東京都安全条例と横浜市建築条例に定められている共同住宅の計画の際に発生するルールです。
実は、この窓先空地のために、容積率が消化できないということが多々あります。
では、東京都の場合のルールを紹介します。
住戸の床面積の合計 窓先空地の幅員
100㎡以下 1.5m
100㎡を超え300㎡以下 2m
300㎡を超え500㎡以下 3m
500㎡を超え1000㎡以下 4m
耐火建築の場合は、床面積を2倍で計算する。
となっています。
例えば・・・
・ 耐火建築のマンション
・ 各住戸が70㎡
・ 各階に7戸
・ 全て南向きに面している
・ 5階建て
・ 道路は北側にある
という条件のマンションを計画すると・・・
70㎡×7戸×5層=2450㎡
となります。
つまり、南側に4m幅の空地を作らなければならなくなります。
これが、商業地などで、日影規制が無いような場所ならば、高層にして容積率を消化してしまえば良いのですが、これが住居系地域などで日影規制があったりすると、日影規制を避けるために北側はなるべく空けないとならないし、窓先空地のために南側も空けなければならないという事態が発生します。
当然に、マンションという住宅ですから、各住戸はなるべく南向きに配置したいですから、窓先空地は南側に発生しやすくなります。
南接道の敷地であれば、窓先空地は必要なくなりますが、これが東西もしくは北接道の土地の場合は、窓先空地が発生します。
上の条件になると二種中高層住居専用地域などで、容積率が300%あったとしても、日影と窓先空地で、容積率が150%ぐらいしか消化できないなどということは、多々あります。
東京都や横浜市でマンションを計画するときには、この窓先空地を考慮しなければなりません。
不動産業界には、よく「一種○○万円」という言い方があります。これは容積率100%辺りに換算した時の土地の坪単価を表す言葉です。
例えば、容積率300%で270万円/坪の場所があれば「一種90万円」ということになるのですが、上記の様に都市計画上の指定容積率が300%であっても、実際には150%しか容積が消化できないと、この「一種○○万円」という言葉は意味をなしません。
不動産業者は、よくこのことを度外視して、近所の土地が「一種○○万円」だから、この土地も「一種○○万円」で売れるなどと言う安直な評価をしたりします。
ところが、敷地の形状によって、大きく日影規制を受けたり、接道方向によっては窓先空地が取り難い形状だったりして、近所の土地は容積が消化できたのに、当該地は全く容積が消化できなかったりすると、近所の土地の評価が全く意味が無い場合がよくあります。
その事を忘れて(知らなくて)、土地を買った転売業者が、土地を転売できなくて困っているなんてケースもよく見かけます。
三○のリハ●スなんかの土地評価書なんかも、直近の近隣の土地の取引実績に道路状況や土地形状等を簡単に係数で評価することで、土地の価格を売主に提案したりしています。
大手でも、この有様です。
大きな土地を持っている方が、不動産屋に行き、いくらで売れるかを聞いたら
「4億で売れる。」
それを聞いて、大手の業者だしと安心していたら、実際には、2億にもならなかった、なんて話も実際にあった話です。
大地主さんの場合は、不動産業者の評価書をもって、建築士に聞いてみるのも良いかもしれません。(もっとも、建築士は不動産評価書を読めない人も沢山います。)
この様にローカルルールが多々あるので、その地域の条例等はよく調べてみないといけません。
次回のテーマ「開発」は、福岡市の「三室採光」について書きます。
政令指定都市・中核市・特例市
金正日氏のニュースが大半を占める中、橋下氏の大阪市長就任のニュースも傍らでやっています。
さて、その大阪市長が掲げる大阪都構想ですが、これは東京23区を目指すみたいな話です。東京23区は、「特別区」といい、政令指定都市とも違います。
23区を全部併せると、ほぼ政令指定都市と同じ権限があります。
結構、面倒なのが、例えば「開発許可」をどこに申請するか?などということが、解りにくかったりします。また、「国道」に面している土地で、歩道の切り下げの相談をどこに行けばよいか?などです。
狭い地域で仕事をしていると、そういう事に慣れてくるので、あまり気にしなくなるのですが、広い範囲で仕事をする場合は、「特別区」「政令指定都市」「中核市」「特例市」の違いを体系的に覚えていないと、無駄足が多くなるので注意が必要です。
過去に・・・
愛知県一宮市で分譲住宅の計画を行いました。土地の広さは、1000坪弱(3100㎡)ぐらいでした。当然に位置指定道路を通して、20戸程度の戸建を建てる計画をたてました。
※ 市街化区域の場合では1000㎡以上の土地で建築に伴う土地の区画形質変更を行おうとすると開発許可が必要となります。例えば、その土地に道路を作ることなどが該当します。
東京23区や政令指定都市の場合は開発許可が区や市に権限委譲されていることは知っていたのですが、それ以外は、都道府県がその権限を持っていると思っていました。
まず、現場を見たあとに、愛知県庁建築指導課へ行きました。
そこで建築指導課から・・・
「あ、一宮市の開発許可は一宮市でやってるんですよ!」
とぼとぼと、一宮市役所へ行くことになりました。
これは一宮市が「特例市」だからなんです。
では、ここに政令指定都市、中核市、特例市の違いは・・・
基本的には人口です。実際には細かい要件があるのですが、それは省略します。
政令指定都市 50万人以上
中核都市 30万人以上
特例市 20万人以上
ただし、藤沢市の様に40万人以上の人口を要しながら、中核市になっていなかったり、50万人以上の人口を要していながら政令指定都市どころか、中核市にもなっていない八王子市もあります。
当然に、それぞれが都道府県から権限委譲されているのですが、我々、建築、不動産業界の人間が関わる部分だけをピックアップすると・・・
特例市
・開発行為の許可(市街化区域・市街化調整区域内に限る)
・都市計画施設、市街地開発事業、市街地再開発事業、各々の区域内の建築の許可
・土地区画整理組合の設立許可
・土地区画整理事業区域内の建築許可
・宅地造成の許可
・住宅地区改良事業区域内の建築許可
・バリアフリー法にかかる、建築の認定
中核都市
特例市の権限プラス
・屋外広告物の条例の設定
政令指定都市
中核都市の権限プラス
・国道・都道府県道の管理
・市街地開発事業における都市計画の決定
その他にも、大規模小売店舗立地法などは通常は都道府県の管轄ですが、政令指定都市の場合はその市が行います。(岡山市が政令指定都市になる直前に岡山県庁に行ったら、岡山市に行けと言われたことがありました・・・。)
と、この程度のことは覚えておくと便利です。
その他にも・・・ワンルームマンション建築規制や駐車場条例などなどは各市に定められていたり、建築基準法の緩和や規制が、各行政区域によって定められていたりもします。
ときどき、びっくりする様な緩和があったりするので注意が必要です。
大阪都構想とは、あんまり関係ない話ですが・・・
再開発コンサルティング案件 静岡県浜松市
静岡県浜松市に行ってきました。
新幹線のホームから、携帯のムービーで撮った画像で、あまりきれいではありませんが、後方に見えるビル街が駅前のターミナルです。
さて、実は、浜松に着いたのが16時半ぐらい・・・。打ち合わせは17時半からです。
というわけで、東京で14時過ぎまで仕事をして、新幹線でダッシュでやってきました。
まだ、仕掛り中の案件で、なぜ、ここに居るのかは、書けないのですが、浜松市某所の再開発に関するコンサルタントでやってきています。
もともと7月○日に来る予定だった。
↓
7月○日前日の時点で、こちらの都合で準備できないものがありキャンセルのお願いをした。
↓
「それでも、良いから来てくれ」
ということで、急遽、やってきました。
最近、なぜか、案件がバタバタと入ってきています。
正直、利益が出るのは、先の話ですが(出るとすれば・・・)、ちょっと忙しくなってきました。特に、不動産業界の景気が上向いたという実感はありません。
上向いてきたとすれば、実需向けのファミリーマンションぐらいでしょうか・・・。戸建て分譲は一服感を感じます。オフィス市場や商業店舗市場は、まだまだ厳しい時代です。
ですから、忙しいだけで、空回りするのではないかと、ちょっと心配です。
2010 不動産市場 予想
今日から仕事初めという方も多いと思います。
私は6日からという感じで今日はまだのんびりしています。一応、今年は何をしようか・・・などとまったりと考えています。
さて、今年、自分が何をするかを考えるに当って、市場がどんな風になるかを考えておかないと、行き当たりばったりになってしまいます。(まぁ、大体、行き当たりばったりなんですけど・・・)
というわけで、私の思う不動産と建築市場の予想を書いておこうと思います。
住宅市場
住宅市場は、今年は去年ほどではないですが大幅な回復は難しいと考えられます。
というのは、一部のエリア、特に東京都心部では価格が反転して上昇を始めると思います。しかし、これは短期的な現象の可能性もあります。東京都心部では、相当に品薄感が拡がっていますし、昨年からの『今が買い時』という感覚が拡がっているから、価格は上昇するとみています。
ところが、このテクニカルな動きに、ファンダメンタルが追随できるかは微妙な状況です。アジア市場が牽引する経済成長に乗れた企業などの業績は回復しても、住宅を買うのは、企業ではなく従業員です。給料の安定や雇用の安定が無ければ、テクニカルによる価格の上昇などはすぐに息切れしてしまいます。
住宅に関してもエコポイントなどの話がありますが、以前にも書いた通り、エコポイントを取得することで仕様が上がり、建物価格が上昇して、その分がエコポイントで安くなっても、市場の活性化にはつながりません。供給戸数(注文住宅などの含む)は昨年並みで、ただ、太陽光発電や燃料電池などが今までよりも増えるだけで終る可能性が高いと感じます。やはり、住宅市場の活性化は今までの様な減税、免税などの処置や金融保証などの制度の方が有効かと考えています。
それ以外の政令都市級エリアや東京郊外では昨年並みかまだ下落を続けると思います。
東京はまだまだ、人口が増えていますし、個人所得や雇用自体も地方都市に比べたらよい状況ですから、上記の様なテクニカルな動きも発生しますが、地方都市などでは、まだまだ下落が続くと思います。これは、そもそもH19年まで続いた、不動産ミニバブルの際に地価、不動産価格があまり上昇しなかったことにより、下げ渋っている感が強いです。しかし、需要価格は、まだまだ下にあることから価格は下落すると考えています。
政令指定級都市未満の都市は構造的な問題、特に労働者人口(購入層)の減少に歯止めが掛からないことからも今年に限らず、下落をしていくと考えています。
公示地価ベースで言えば、タイムラグもあることから、去年ほどは下がらないにしても、下落は続くと考えられます。
戸数に於いては、昨年がさすがに供給量を絞ったことから、完成在庫等も減ったことから増加すると考えています。しかし、分譲住宅(マンション、分譲戸建)は微増すると思いますが、注文住宅は伸び悩むと思います。また、賃貸住宅(特に投資用)は、今年も微減すると思います。投資用マンションは金融機関の個人向け貸付金額が3割ぐらい上がらないと市場の活性化は難しいですが、現在の不動産価格や供給過多の状況を考えると、その実現はほぼ不可能と言っていいでしょう。
住宅市場総括
供給戸数は前年度ベースでは増加するが、平成22年1~12月ベースでは100万戸にギリギリ到達できない。価格は東京都心エリア以外は微下落。
オフィス市場
オフィス市場ですが、こちらは住宅市場よりも酷いと考えています。
オフィスの空室率は依然として高いところで推移すると考えています。超一等地の新築大型オフィスの賃料が大幅に下げてなんとか空室を埋めたとしても、ある意味のストロー効果で中途半端なエリアの中古物件は相当に苦しいことになるはずです。また、供給量が明らかに多すぎることも問題です。
例えば、東京の丸の内、八重洲エリアは家賃の大幅下落の効果などで、グループ企業の集約などを考える企業が入居する可能性はあります。しかし、グループ企業が入っていた様な小さなビルは当然に空室になり、家賃を下げてなんとか入居させても、その入居者のいたビルが空になるという現象が発生します。その対象が日本橋○○町、八丁堀などの周辺エリアです。
東京エリア以外のオフィス市場はもっと酷いことになると思われます。
まずは、この市況下で地方都市の支店等は統廃合が進みますから、政令指定都市未満のオフィス市場は崩壊すると考えられます。実質空室率が30%を超える都市が乱立すると考えています。政令指定都市クラスでも名古屋や仙台はそもそも、乱開発が進んだために完全に供給過多です。大阪は関西圏の経済が沈んだままなので回復には時間がかかります。
唯一、現状維持か微回復の可能性があるのは福岡エリアでしょうか・・・。というのは、下落するところまで下落している上にこれ以上、下落する理由が見当たらないことと、九州新幹線などの逆ストロー効果で九州南部の経済が集約される可能性があるからです。その効果が少しずつ現れてくるのではないでしょうか?しかし、九州西部の過疎化は更に加速するということも考えられます。
オフィス市場統括
空室率高止まり、賃料はエリアを平均すれば下落は続く。
商業系市場
商業系の市場ですがこちらも好転する兆しは見えないと考えています。そもそも、商業系の市場は消費の回復が重要になるのですが、ファストファッションなどの一部の業態を除けば大幅に回復するとは考えにくいです。最近、ファーストフードのSubwayが80店舗ほど増やすというニュースが出ていましたが、いずれも居抜き店舗とのことが強調されていました。ということは、他店がいなくなった跡地ですから、全体数は変わらない上にSubwayに出てもらう為に賃料を下げるという現象が起こります。売り手市場の場合なら、居抜き店舗等は造作代が浮くので、高く貸せるのですが、買い手市場の場合は、貸主がスケルトンにしなくて済むという考え方になり、賃料がさらに下がります。
また、ネットショップやネットスーパーなどが定着してきていることも、商業系の市場を圧迫していくことになります。たしかに、一部の高級ファッションなどは実物を見たいと思うものもありますが、全体的に商業系の市場が減れば、その様な業態の不動産賃料も大幅に下落します。
また、飲食店業界も数がこれ以上に増えるということは需給バランスから考えれば難しく、単純に業態変更などが行われるだけです。また、外食産業はデフレスパイラルの影響をまともに受ける業態です。当然、価格競争をすれば、最初は規模の拡大で補おうとするはずですが、その内に既存店の収益悪化から、不採算店の閉鎖を余儀なくされるはずです。ファーストフードや牛丼などは不採算店の閉鎖や経営統合による店舗併合などの統廃合が今年後半から加速すると考えています。
ミクロ的な話で言えば、携帯電話の売上げが下がれば、携帯ショップも減るでしょうし、一休やじゃらんなどのネット旅行代理店の様なものが増えれば、店舗型旅行代理店も減っていくはずです。
エリア別に見ると、銀座・表参道は定期借家契約の満了による退居という現象が今年は起こります。平成16年ごろから行われた銀座や表参道の商業施設の開発で、賃料も大幅に上がり、またファンドを出口戦略にしていたことから、多くの物件で定期借家契約が締結されています。この崩壊は間違いなく起こるはずです。
大阪は前述の通り、景気低迷が引きずっていることもあり、商業地の統廃合が進まないと苦しいはずです。どこもかしこも、全部を回復させるのは、今の大阪では難しいと考えています。
逆に名古屋はチャンスがあるかもしれません。オフィス市場の過剰供給に比べれば、商業系市場の供給はさほどでもありませんし、また、もともと閉鎖的な習慣があった場所で、東京資本などが参入しづらいエリアでもありました。
商業系市場統括
極一部のエリアを除き、賃料は下落、新規の開発は難しい。定借物件からの解約が相次ぎ空室率も上昇する。
また、悲観的な記事を書いてしまいました。しかし、現実はもっと酷いことになる可能性を持っていると思います。これくらいの予想の中で、不動産市場の中で何を自分がしていくかを考えてみたいと思います。
読みにくい文章で長いけど・・・
【開発】大規模小売店舗立地法6
さて、今回は『【開発】大規模小売店舗立地法3』で書いた開発用地を大店立地法に抵触しないようにどのように開発したかの正解を検討していきます。
『【開発】大規模小売店舗立地法3』にも書いたように、この土地にまともに、容積率を完全に消化した物販店の商業施設を作ろうとすると、大店立地法に抵触してしまいます。そこで、大店立地法の抵触を回避するいくつかの方法があるのですが、それをそれぞれシュミレーションして、もっとも効率的な方法を選びます。
① 大店立地法に抵触しない面積に抑える。
簡単に言えば、容積率を消化しないで、
大店立地法に抵触しないようにしてしまうということです。
メリット
・ 建物が小さくなるのでその分、建築コストが抑えられる。
・ 貸しやすい、低層階の面積は大きくする訳ですから、当然に上層階が無くなったり、面積が小さくなったりしますから、空室リスクが軽減されます。
デメリット
・ トータルの床面積が減るので、最大収益は減ります。
この手法を使うケース
・ 最大容積の建物を建築した際に、大店立地法にわずかに抵触してしまうとき。
大店立地法は売り場面積が1000㎡以上のときに要件を満たさなければならなくなります。もし、容積率を完全に消化しようとした際に、極論になりますが1000.1㎡の建物ができるならば、0.1㎡は当然に捨ててしまった方が得です。
・ 土地の値段が安いとき。
やはり、極論ですが、土地の値段がゼロであれば、土地の価格は収益率に全く影響を与えません。
例えば、5000円/坪で貸せるエリアで
坪単価が20万円の100坪の土地
施工費が70万円の1000㎡(302.5坪)の建物を作ると、
家賃収入は5000円/坪×302.5坪×12ヶ月=1815万円/年
取得コスト(手数料、税金を考えない)は
20万円/坪×100坪+70万円/坪×302.5坪=23175万円
となり、表面利回りは
1815万円/年÷23175万円=7.83% となります。
もし、同じ土地に
施工費が70万円の900㎡(272.25坪)の建物を作ると
家賃収入は5000円/坪×272.25坪×12ヶ月=1633.5万円/年
取得コスト(手数料、税金を考えない)は
20万円/坪×100坪+70万円/坪×272.25坪=21057.5万円となり、
表面利回りは1633.5万円/年÷21057.5万円=7.75%となります。
実際に土地の値段が僅かでもあれば、建物が減って総家賃収入が減るほど、利回りは悪くなっていくのですが、土地の値段が取得コストに与える影響が小さければ多少、建物を小さくしても収益率そのもののダメージは少なくてすみます。
・景気の悪い時や、地方都市等でテナントリーシングに苦戦が予想される時
「こういう時は、収益率を目標として無理に土地を取得しない」
とか
「さっさと転売しちゃえ!」
と言わないでください。それだと話が続かなくなってしまいます。
用地取得後に景気が悪くなり、転売もできない。と考えてください。
この場合は、できるだけ経費を抑えたいのが本音です。できれば、何も建てずに駐車場にでもしておきたい。と言ったところでしょう。実際に、都心で更地になって、コインパーキングになっている場所が散見されますが、その中にはこのパターンの土地があるはずです。実際に私も駐車場にしてしばらく、放っておいたところがあります。(まぁ、『塩漬け』ってやつですね。)
もっとも、駐車場にする為には、駐車場としての需要が見込まれないと厳しいです。主要道路に面しているなどの一定要件が必要になってきます。
そこで、駐車場に不適な場所だったりする場合には簡易な建物を作って、短期の定期借家契約にします。もっともこれは、大店立地法に抵触しなくても使う手法です。
いずれにしても、採算性に乏しく、出来れば使いたくない手法ですが、こんなご時勢には、使わざる得ない手法かもしれません。
今回のケースで検討する必要性があるのは・・・
土地の値段が安いわけでもなく、また、当時は景気が悪かったわけではありません。ただ、『最大容積の建物を建築した際に、大店立地法にわずかに抵触してしまうとき。』だけは検討しなければなりませんでした。
第3話でも書いた通り、抵触する面積は240.8㎡です。実際には建物の全てを売り場にすることは、ありません。必ず、バックヤードやトイレ、それにレジカウンターなどの売り場にはカウントされない部分が出てきます。
その面積は一般的には25%~30%ですが、店舗が小さくなればなるほど、また、家賃が高くなればなるほど、売り場を効率的に使いたいと思う様になり、最大で専有面積の90%ぐらいが売り場面積になってしまうことが考えられます。つまり、
1000㎡÷90%=1111.1㎡
以内の建物を作れば、まず、大店立地法には抵触しないと考えられます。
そこで、大店立地法に抵触した場合の利益、2億7000万円を超えればこちらの方が得ということになります。
では検討してみます。
大店立地法には抵触しないので、駐車場は不要です。そこで1階の面積は建蔽率を消化します。
1階462㎡(139.75坪)
地下1階と2階の想定家賃は一緒なので面積を適当に割り振ります。実際には地下の建築コストの方が高いので地下の面積を減らす方向で検討するのが一般的です。
2階 462㎡(139.75坪)
地下1階 187.1㎡(56.95坪)
の建物が想定されます。
とすると、地下の部分が希望される建物よりも38.88坪少ないことになります。
38.88坪×4万円/12ヶ月=1866万円/年
の収入を失うので
▲1866万円/年÷5.7%=▲32726万円
つまり、売却時の価格は32726万円も下がってしまいます。
しかし、地下の面積が減った分のコストは浮きます。
100万円/坪の建築費で計算していますから、3888万円ほど建築費が浮くことになります。
としても▲28838万円の利益を失うことになり、最大収益3億8千万円に対して、約9200万円程度の収益しか出なくなってしまいます。
これでは、大店立地法に抵触した場合の期間リスク(詳しくは第5話を参照)を考慮したとしても、大店立地法を素直に申請した方が得ということになります。次回(第7話)では『②大店立地法に抵触しないテナントを誘致する。』について検討します。
【開発】大規模小売店舗立地法5
さて、前回は既存ビルに関する大店立地法に抵触する可能性のビルについて、書きましたが元の話に戻ります。
前々回(【開発】大規模小売店舗立地法3)で、大店立地法に抵触した場合とそれに抵触しなかった場合の得られる収益の差について、書いたわけなのですが、実は大店立地法には、もう一つ大きなリスクがあります。
平成19年の建築基準法改正と大きく連動する話です。
そもそも、大店立地法は申請してから許可が出るまでに、概ね8ヶ月から12ヶ月の日数が掛かります。
申請から開店許可までの流れを愛知県の事例で説明します。(私の知る限りでは、流れそのものはどこの自治体でもあまり変わりありません。)
とこんな感じなのです。
ここで、重要なのは、申請の前に事前相談や関係各署(警察署など)に相談したり、申請後の近隣説明などにより、よく駐車場の出入り口の位置やゴミ置き場の位置などのプランが変わることです。
前回の話の通り、本法は建築基準法とは連動しませんから、大店立地法の申請と、建築確認申請は同時に行うことも出来ますし、建築確認申請を先に出すこともできます。
建築確認申請から審査そして建築確認が出るまでの期間も相応に掛かりますから、平成19年6月より以前は大店立地法の申請と確認申請を平行して作業することがほとんどでした。
ところが、建築基準法改正により、『軽微な変更』に関する内容が大きく変わりました。
結果的には、プランをちょっと変更することで、構造計算等が変われば出しなおし・・・という様な感じになりました。また、以前は2ヶ月以内で出来た確認申請が、現在では基本的に3ヶ月~4ヶ月の期間が掛かります。
もし、大店立地法の申請過程でプランが変われば、常に設計変更を行い、確認申請の出しなおしを余儀なくされ、設計コストも掛かっていくことになります。
そこで、新築の場合は大店立地法の許可が出てから、建築確認を出すということになります。
と、考えると、この期間が大きな問題となります。
例えば、郊外に土地を賃借してやる場合や、もともと、農地として使われていた場所などで土地の値段が安い場所などは、申請期間中の税金や、土地を購入した場合の金利はあまりかかりません。しかし、本題の土地の場合、土地の値段だけで24億円です。もし、3%の金利で借りて、大点立地法申請に1年が掛かれば、7200万円の金利が掛かります。
前回の話の通り、上手くいって3億5千万円の利益で、大点立地法に掛かると賃料の高い専有部分の減少で8000万円円の収益減となり、前述の金利による収益減で7200万円となり、1億9800万円しか利益がなくなってしまいます。つまり、44%も利益が減ってしまうわけです。そもそも30億円近い投資をして、粗利益ベースでこれだけ、利益が減ることになれば、当然ですが、事業そのものの是非を考えなければならなくなってしまいます。
また、期間リスクは金利だけではありません。
景気です。不動産価格の長期的な変動というのは現在ではある程度は予測できます。
物価の変動(インフレ)が無いと考えれば、青天井に不動産価格が上昇していくことはありませんから、どこかで不動産価格は下落もしくは高値安定という状況が発生します。もちろん、デフレが発生すれば、不動産価格は下落をして、場合によっては安値安定という事態が発生します。
しかし、物件単位や数ヶ月単位の不動産の価格転換点を読みきることはなかなか難しいものです。
※ 色々なエコノミストがファンダメンタル的な要因から、不動産価格の中期的な展望を予測していますが、正解率は50%ぐらいだと思います。つまり、丁半博打みたいなものです。しかし、先物取引よりかは、不動産の価格変動は緩やかです。
つまり、誰も予測できないならば、そのアップトレンド期間内に開発を如何に完了するのかということが非常に重要になります。その為にも開発期間をより短くする必要性があるわけです。
そこでなんとしても、大点立地法に抵触しないようにしなければならないわけです。
では、次回は本当にどんな開発をしたかを書きます。
【開発】大規模小売店舗立地法4
大規模小売店舗立地法について、勘違いされている方が多いみたいので、ちょっと前回から話題が逸れますが、書いておこうと思ったことがあります。
つい最近、こんな会話がありました。
「K区で、すごーーーく、いいビルが手に入ることになったんですよ。」
余程、気に入っていたのでしょう。
「良かったですね!」
どんなビルかは想像できなかったのですが、適当に相槌を打っておきました。
「もともとは飲食ビルだったんですけど、周辺の相場賃料ぐらいは取りたいんですよね。ただ、飲食店ではそこまで賃料は伸びないですよね。だから物販系でいきたいんですよ。相澤さんのところで、テナントのあたりを付けて貰えませんか?」
「いいですよ。物件資料、できれば建築時の平面図なんかあると助かります。」
「では、メールしておきます。」
次の日にメールを見てみると・・・
延床面積は約1700㎡、専有部分は1300㎡ほどあります。
それを見て、私はすぐに電話しました。
「このビルを物販店に入れるんですよね?」
「はい、1棟貸しが希望ですが、何か問題でも?」
「いえ、ただ大店立地法に掛かる可能性がありますよ。」
「へ?だって、用途変更しますから問題ないのでは?」
「いえいえ、用途変更は関係ないですよ。」
と、この後、しばらく噛みあわない会話が続くので、大規模小売店舗立地法について下記の様な説明をしました。
大規模小売店舗立地法とは
① 新築、既存ビルに関わらず、売り場面積が1000㎡を超えた時点で申請し、許可が降りるまでは営業ができない。
※例えば、5階建てのビルで各階が240㎡だとして、1~4階までが床面積全てを売り場とする物販店で、5階がレストランだっとすると、この時点では、このビルの売り場面積は960㎡だから、大店立地法には抵触しない。しかし、5階のレストランが退居して、この階に本屋さんが入居しようとすると、このビル全体の売り場面積は1000㎡を超えるので、大点立地法に抵触することになる。
② 大店立地法はテナントではなく所有者が申請するものである。
※上記の例で言うと、本屋が入居するのだから、その本屋が申請するように感じるが、本屋は他のテナントの売り場面積は把握できない。申請者は所有者であり、罰則規定も所有者に適用される。ただし、テナントも営業停止になる。
③ 大店立地法の申請から許可までは8ヶ月かかる。許可が降りるまでは営業できない。
※上記の例で言えば、この本屋が営業できるのは8ヶ月後からとなる。当然だが賃貸借契約の際には、営業開始が8ヵ月後であることを伝えておかなければならない。営業を目的とした賃貸借契約にも関わらず、所有者に申請義務のある法律に於いて、8ヶ月間、営業ができないのであることを事前にテナントが理解していなければトラブルは必至である。
④ 建築基準法、消防法などには連動しない。
※建築基準法などは国土交通省管轄で管理官庁は市町村の建築主事となるが、大規模小売店舗立地法は経済産業省管轄の法律で許可権者は都道府県知事である。
売り場面積1000㎡以上の物販店を新築しようと思って、大規模小売店舗立地法の許可が降りて無くても、確認申請は申請できるし、確認済書もでる。また、確認済書が降りて無くても、大規模小売店舗立地法の申請もできるし、許可も出る。
ただ、確認済書が無ければ建物が建てられないだけで、大店立地法の許可が降りなければ営業ができないだけである。
用途変更をした場合でも同じである。
また、所有者には罰則規定があることを理解しておかなければなりません。
上記の例を逆手にとる方法はあるのですが・・・。
ここには書けませんので、もし、知りたい方がいれば、メッセージ(プチメ)等でご質問下さい。
※細かい条件等を見ないと正確には答えられない場合があります。
次回は第3話の続きを書きます。
【開発】大規模小売店舗立地法3
さて、大規模小売店舗立地法の続きです。
商業系のデベをやっていて、一番困るのがこの大店立地法と改正都市計画法であることは、前回までの内容でご理解頂けたと思います。
これから6回(予定)で実際の3つの事例を書いていこうと思います。
さて、今回の話は東京のある場所での商業開発に挑み、実際に行った大店立地法逃れを行った事例です。
物件概要
土地面積:約200坪
用途地域:一種住居地域
建蔽率:60%
容積率:300%
その他の規制:防火地域・第一種文教地区(東京都)
既存建物:違法建築(違法増築)の全室空室の共同住宅
場所は、山手線の内側で、土地の値段は当時で1200万円/坪です。
当時の賃料相場は1階で6万円/坪、地下1階と2階で4万円/坪、3階より上で3.2万円/坪です。
当時の周辺のCAPレートは5.7%ぐらいです。ですから、売却した時の利益を考えるとネット利回り6.3%ぐらいの利回りは欲しいところです。
※CAPレート・・・Capitalization Rateの略。簡単に言うと、収益物件として投資家が期待する利回りのこと。投資家が期待する利回りに達していればJ-REITなどのファンドへの売却が期待できる。例えばCAPレートが5%のエリアであって、純収益が5000万円の物件であれば10億円で売却できることになる。
※純収益・・・収益物件に於いて、収入が賃料収入や共益費であるならば、支出は管理費や固定資産税、都市計画税で、『収入-支出=純収益』となる。
※ネット利回り・・・『純収益÷(物件価格+諸経費)×100』となります。純収入が5000万円で10億円(諸経費込み)の物件価格であればネット5%ということになります。この場合の諸経費とは、不動産取得税、登録免許税、仲介手数料などです。
※純収入が5000万円でネット利回り7%にする為には不動産取得価格は諸経費込みで約71400万円です。この時、キャップレートが5.7%であれば、約87700万円で売却できる計算となります。つまり、利益が16300万円の利益が出るわけです。
今回の物件は周囲及びその通りには既に外資系のアパレルなどの高級ブランドが進出しているエリアです。
土地の形状は下の絵を見てください。
※クリックすると拡大します。
都市計画上は住宅地域ですが、周辺には外資系のアパレルショップが進出し、住宅は殆どありません。
道路幅員は狭いですが、土地は整形で、間口もそれなりにあります。また、都心の商業地の場合はゆったり歩ける方が商業地域として優れていることが多く、どんなに道路幅員が広いよりも、歩道がしっかりしていることの方が重要です。
しかし、今回の土地は道路幅員が4.7mしかありません。その為、都市計画上の容積率は300%ですが、法定容積率は188%です。
※法定容積率・・・道路幅員が12m未満の場合、住居系地域の場合は『道路幅員×0.4×100』、その他の地域に於いては『道路幅員×0.6×100』となります。
つまり、今回の土地では
土地が約200坪(約660㎡)なので
床面積が660㎡×1.88=1240.8㎡の建物が建てられます。
また、今回の物件の都市計画上の建蔽率は60%ですが、防火地域なので耐火建築物を作ることで70%まで使えます。今回の土地には
建築面積が660㎡×0.7=462㎡の建物が建てられます。
ここで問題になるのが大店立地法です。
大店立地法は売り場面積が1000㎡を超えると適用されます。
デベロッパー側の考えとしては、床面積全てを専有面積にしたいところです。もちろん、専有面積=売り場面積ではないのですが(バックヤードやトイレ・洗面所などがあるため)、テナントに1240㎡を貸しておいて、1000㎡しか売り場面積として使えません。とは極めて言いにくいところです。
この物件の場合、1240.8㎡の最大容積率を消化してしまうと、大店立地法に掛かります。その場合、駐車場を18台設けなければなりません。18台の駐車場を設けようとすると、平置きの場合は最低でも247㎡は必要です。しかも道路に面した部分に駐車場を持ってこなければなりません。今回の土地は間口が19mですから、18台を横並びで止めることは厳しくなります。(駐車場の1台の幅員は2.5m以上は必要です。)
機械式の駐車場を使う場合は敷地の中で待ちスペースを作らなくてはなりません。3台式の機械駐車を6機使えば足りますが、待ちスペースを考えると、やはり216㎡の駐車スペースが必要となります。
実際の土地の面積が660㎡で最大建築面積が462㎡ですから、198㎡の建物の建ってない部分があるのですが、実際に建物を作る為に隣地から約50cmぐらいは空けたいところです。
と考えると、この土地の場合、隣地と接する部分を50cm空けると
(19m+34.5m+34.5m)×50cm=44㎡が必要となります。つまり、駐車場として使えるのは154㎡しかありません。
とすると、必要駐車場を用意すると機械式を使ったとしても建築面積を62㎡減らさないといけません。
しかし、実はこれがもの凄く大きいことなんです。
減らした62㎡は空中階に振り分ければ良いのですが、1階と2階では賃料の差が2万円/坪あります。
つまり、1階の面積が62㎡(18.8坪)減ると、月の家賃が37.6万円、年間で451.2万円の収入減となります。また、最終的な売却価格としては、
451.2万円÷5.7%=7915万円(約8千万円)の減となります。
希望としては
1階 462㎡(139.75坪)
2階 462㎡(139.75坪)
地下1階 316.8㎡(95.83坪)
の建物を作れば、1780万円/月、年収21360万円となり、諸々の経費を除いても年辺りの純収入は19000万円ぐらいになります。
とすれば33億3千万円で売却できます。
では取得価格はというと・・・
土地 200坪×1200万円=24億円
諸経費 =2億円
建築コストが =3億8千万
となるので合計29億8千万円です。
つまり、期待通りに言って3億5千万円の利益です。
(開発リスクを背負って、この利益率で良いのか)
つまり、大店立地法をクリアしようとすると3億5千万円の利益が2億7千万円になってしまします。
そこで、なんとか、大店立地法に抵触しないようなことを考えるわけです。
では、次回はどんな開発を行ったかを書きます。
【開発】直通階段
おはようございます。
昨日は楽しい不動産投資を応援する会 会長
様のブログで紹介していただいたこともあり、大変多くの方に読者登録をしていただきました。
楽しい不動産投資を応援する会 会長
様、本当にありがとうございました。
さて、このところ賃料下落、空室率の話を多く書いてきたので、ちょっと対策を書きたいと思います。
商業ビルの場合、1階の賃料が高かったり、入居率が高かったりするのはご存知だと思います。これは・・・
・ 通行人が入店しやすい。
・ 視認性が高い。
というメリットがあるからです。
では、地下1階と2階の賃料はどちらが高いと思いますか?
これはケースバイケースなんですが、我々の世界では地下の方がテナントを付けやすいんです。
なぜなら、地下1階は大体に於いて、直通階段だからなんです。つまり、他のテナントとその階段を共有しなくて良いというメリットがあるからなんです。
※地下2階以下があるビルは別です。
もちろん、2階でも直通階段があって、3階以上の階と階段が共有になっていれば別ですが・・・。
つまり、2階にも商業系のテナントを入居させたいのであれば、必ず直通階段を作ることが大事なんです。
しかし、容積率の消化率を上げて、占有率を高めたい気持ちは解るのですが、それによる空室を考えれば絶対に2階には直通階段が必要です。
直通階段の無い2階は3階より上とあまり賃料の差がつけられません。
そして、大型のビルの場合は私が言わなくてもなっているので問題ないのですが
1フロアが100坪以下で、3~4層のビルの場合は、必ず、『各フロアがバラバラにも貸せる』、『1棟丸ごとでも貸せる』の双方に対応できるようにしておかなければなりません。
と、当たり前の様に思うかもしれませんが、殆どのビルがどちらかしか、出来ない様になっています。
つまり、フレキシブルな対応が出来るビルにしておかないといけません。デベロッパーや設計者のイメージでビルを作って、テナントを呼び込むことは難しいということを考えておかなければなりません。
もし、商業ビルの空室で困っている方がいましたら、上記の様なことを少し考えてみると明るさが出てくるかもしれません。
お困りの方がいましたら、ご相談下さい。
今日も暑いけど・・・
【開発】大規模小売店舗立地法2
前回の話で、大規模小売店舗立地法(以下、「大店立地法」といいます。)について、説明して、大店立地法の概要はご理解いただけたと思います。
大規模店を開発する場合に実際の開発の話の前にもう一つ、書いておかなければならないことがあったのでそちらを書きます。
前回もちらと書きましたが、『まちづくり三法』の一つである、改正都市計画法です。
実は我々の頭を悩ませたのは、大店立地法よりも、建築基準法改正と都市計画法の改正でした。前回も書いた通り、建築基準法の改正により、大店立地法を申請して許可を貰ってからでないと、確認申請がだしにくくなったという話を書きましたが、それ以上に、2006年に施行された改正都市計画法は対処のしようがなくなりました。
改正都市計画法
10000㎡を超える大型店舗の出店できる地域が
・商業地域
・近隣商業地域
・準工業地域
に限定されてしまったのです。
それまでは、上の3つの地域以外にも
・第二種住居地域
・準住居地域
・工業地域
での出店は可能でした。
この法律のややこしいのは、これだけでもダメージが大きいのに、各都道府県行政が準工業地域での出店も条例で規制していることです。
※全ての都道府県で規制しているかどうかはわかりませんが、少なくとも愛知県や長野県では実際に準工業地域での建築は認めてくれませんでした。
ではこれの何が問題かというと・・・
大店立地法は許可制度ですが、こちらは許可制度ではなく、10000㎡以上はダメということです。
都市計画法で定める都市計画地域というのは、そこに工業地帯を作りたいとか、そこに商業地域を作りたいとか、住居地域を作りたいという行政の思惑があります。
これは、公共施設を有効に配置したり、公害問題であったり、都市計画道路の計画であったりと、色々な問題が絡んでいます。また、地方行政が企業誘致(工場誘致)による税収の確保なども、そこにはあります。
しかし、往々にして起こることが、都市計画とは関係なく、物事が進むことがあります。
それはいくら、そこに工場を建設してほしくても、民間企業は物流コストや人件費などの問題などで工場用地として魅力がなくなれば、そこに工場を出さなくなります。また、既に準工業地域でもロードサイドに小売店や飲食店が建ち並ぶようになれば、地価そのものが工場に適さなくなる場合もあります。
では都市計画の用途地域そのものを変えてしまえば・・・と思うかもしれませんが
これがまた、物凄く大変なんです。
私は東京都下のある場所で工業専用地域から、準工業地域への変更を申請したことがあります。
申請した場所は準工業地域に隣接する場所で、隣接地にはスーパーマーケットや住宅で既に工場と呼べるものは一つもありません。当該地は数十年前に工場になり、現在は倉庫として存在します。
6m道路を挟んで、準工業地域と工業専用地域だったのですが、既に工業専用地域と言っても工場としての事業採算はどうやっても取れない場所です。
ですから、準工業地域に変更してもらって、別の事業を行う方が有効に活用できると考えたので、用途地域の変更を依頼しました。そこで言われたことは
「どんなに短期間でも10年は掛かるよ・・・」
でした。つまり、用途変更と言うのは経済事情にはまったくと言って良いほど、追随できないものなんです。しかし、街というのは一日一晩でできるものではないから、ちょくちょく計画を変更して良いものではないことは理解できます。
色々な手法を考えたのですが、こちらは何をやってもダメでした。
一番簡単な手法が、土地を二つに割って、10000㎡に届かない建物を2つ作ることです。しかし、改正都市計画法だけなら、それで済むのですが、条例で「一団の敷地に・・・」という縛りを儲けているところが多いんです。
つまり、隣接する二つの土地でショッピングモールの様に作るということが規制されてしまいます。
そこで、隣接してなければ良いだろうと考えて、間に開発道路(位置指定道路)を一本入れて、土地を分けます。唯一の方法がこれなんですが、その開発許可を通してくれるかが協議になります。もし、用地を取得してからその開発許可が通らないと、その土地は活用できなくなってしまうというリスクを抱えるわけです。
※用地を取得する前に相談すると、実際に開発申請をしてからの協議と言われます。
この法律により、商業地域や近隣商業地域という地価が高いところでしか大型店の出店を規制することになるのですが、それにより、それ以外の用途地域でのロードサイドで出来るのは10000㎡未満の小売店だけです。
これにより、大型の物販店は国内地方での展開を諦めることになってしまうわけです。
その結果、物販店は国内での産業拡大が見込めなくなり、市場を求めて海外に行くことになっていきます。
しかし、東京23区内などの都心部では、この改正都市計画法に抵触するほど、大きな土地はあまりありません。10000㎡以上の住宅地や工業地域を探す方が大変かもしれません。つまり、都心部に於いては、改正都市計画法よりも大店立地法との戦いになります。
※ちなみに昨年の宅地建物取引主任者試験で改正都市計画法の問題が出ていて、各掲示板サイトで話題になっていました。受験者の皆さんは、ちゃんと読んでおいた方がよいです。改正都市計画法についての過去問題は昨年しか事例がありません。ですから、過去問だけでなく、しっかり把握しておかないと問題が解けない可能性があります。
次回からはいよいよ大店立地法との戦いの成功例、失敗例の話を書いていきます。
次回から事例を書くから・・・