リストラ 第8話

連載シリーズ 【 リストラ 第8話 】 第 8 話 / (全 16 話)

N取締役に呼ばれたあとは、大した情報は私には入りませんでした。社員間での噂は四六時中聞こえてくるのですが、何の根拠もない噂ばかりでした。

人事の発表の前日でした。

私はM部長に呼ばれました。

※M部長については第1話を参照してください。

「相澤はどこかの部署に異動とかの話はあったのか?」

「はい、何やら朝礼で発表になった、新事業部への異動という様な話を言われました。もっとも、勿論、内示というような正式なものではなく、I常務に言われただけですが・・・」

他の部長職で私がI常務から、その話をされたことを言うのは、言われた時に一緒にいたS部長以外ではM部長が始めてでした。

「そうか・・・。よかったな。」

M部長はなぜか、ホッとした様な微笑を浮かべました。もっともM部長は「よかったな」と言いましたが、仮にその様な人事になっても良いのか悪いのか、その時点では判断できませんでした。

「M部長にはなにか人事jの話はありましたか?」

「ああ、一応な・・・」

ちょっと、歯切れが悪い様に感じましたが、私の中ではM部長が技役員への昇格の伏線として、術部門を統括するような部署への人事だとばかり思いました。部署の異動は通常は4月1日に行われるのですが、昇格人事については6月の株主総会後と決まっていたのでこの段階ではありません。

ただ、その歯切れの悪さが気にはなりました。だから、あえてM部長に対して、どの様な人事があったかを聞くようなことはしませんでした。

「この部署の他のメンバーも異動はあるんですか?」

M部長の人事について、聞きにくかったので他の話に振り替えようとしました。

「いや、ほとんどない。1名、設計部に異動があるがな・・・」

「そうですか・・・。ちょっと、意外ですね。もっとも、この部署は特殊な技術部門ですから、他からはなかなか来れないし、ここのメンバーを他に異動させると欠員補充が大変ですからね。」

「あはは・・・。そうだな。じゃあ、その1名の変わりに相澤が戻ってくるか?」

「私は構わないんですが。ここの水は結構、あっていますから・・・」

「でも、他に行くことが決まってるんだろ。」

「正式なお達しではないですから・・・」

と、本題から逸れた、他愛もない話で終りました。

しかし、この時になんでM部長に呼ばれたのかはあまり深く考えていませんでした。

翌日、人事発令がありました。

私は社長室に呼ばれ、人事部長から辞令を貰いました。

『商品技術開発室』

I常務の言っていた、新しい事業部です。

しかし、この時点では他の誰が同じ部署になるのか、また、他の誰にどんな人事があるかは解りませんでした。

次回はいよいよS部長やM部長の移動の内容です。

ダラダラになってるけど・・・

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リストラ 第7話

連載シリーズ 【 リストラ 第7話 】 第 7 話 / (全 16 話)

リストラ ~第1話~

リストラ ~第2話~

リストラ ~第3話~

リストラ ~第4話~(番外編「独り言」)

リストラ ~第5話~

リストラ ~第6話~

 

私はN取締役に呼ばれました。

N取締役は生え抜きです。生え抜きどころか、中学校を卒業してH建設に入社し、創業者の家に居候しながら、仕事を続け、たたき上げの技術者でした。

N取締役は時折、古臭い話をします。その殆どが現代の住宅市場では時代遅れの話でした。故に、社員はN取締役の話が苦手でした。

しかし、私はN取締役の話を聞くことはあまり苦痛には感じませんでした。

N取締役の話には、住宅業界の私の知らない30年が詰まっていました。細かい精神論はあること、パソコンに対して批判的であることを除けば、寧ろ、住宅業界や、社員教育という部分に於いては為になるのではないかと私は感じていました。

「おい、相澤、I常務が色々、人事をいじろうとしているみたいだが、相澤はどこまで知っているんだ?」

「それは私自身のことですか?それとも社内全体のことですか?」

と言う、言い方をした自分がN取締役が社内全体の人事について聞いていることを察していることが解っているにも関わらず、こういう言い方をした自分の防衛本能に少し嫌気を感じました。そして、自分がその様に感じる時には相手はそれをしっかりと解っているということでした。

「それは愚問だな。社内全体のことを知っていれば自身のことも知っているだろう。自身のことを完璧に知っているということは、相応の話を知っているということだろう。」

「すいません。N部長の方が私よりも多くの情報をお持ちだと存じますが・・・。何せ、私は中間管理職ですから・・・」

※私はN取締役が役員になる前からN部長と言っていたので、『N部長』と最後まで言っていました。

その際に、この言い訳は苦しいか・・・と感じてはいました。

「相澤、その、物の言い様は相澤らしくないな。R社長、I常務から直接呼ばれて、話をしただろう。」

「たしかに・・・。私は新規立ち上げの部署に異動になることを聞きました。しかし、全体の人事については伺っていません。しかし、何故、N部長は私に聞くんですか?R社長なり、I常務と、事前のご相談をされているのではないのですか?」

「う~ん。相澤らしいというか・・・。人は一人では何も出来ないといことが解らないのか?」

私はN取締役の言っていることが、その時には全く解りませんでした。後に解る様になるのですが、今考えれば、それを理解できる様にならなかった方が良かったと思います。

「すいません。N部長の仰りたいことを理解できないのですが・・・」


「解らなければ、それでいいが・・・。ところで、相澤の人事の件は誰から聞いたんだ?」

「I常務です。R社長が退任されるので、I常務が次期社長ということでしょうかね?S部長もI常務が、直接、しかも、今の時期に人事を事前に言うのはオカシイと言っていましたが・・・」

「やはり、I常務が言ったのか・・・。相澤は、それでいいのか?」

『やはり』と言うことは、何かをN取締役が知っていることは間違いないと思いました。しかし、私はあまり、人事に興味をもっていなかったので、そもそも、如何様でも良いと思いました。

「良いも何も・・・。私はサラリーマンです。与えられた場所で最大限の努力をすることが仕事です。また、そこまでしか私には権限がありませんから・・・。」

N取締役は私に何か言おうとしましたが、しばらく何かを考えていました。人が言葉を選んでいると実感した瞬間でした。そして・・・

「たしかに、そうだな。一つ、頼みがあるんだが・・・。」

「何でしょうか?」

「R社長、I常務から、個別に呼ばれることが多くなるだろう。それについて、相澤が間違っていると思ったことがあったら、俺に教えてくれ。相澤の力になるから・・・。」

不思議に思いました。

『なんで、個別に呼ばれるんだろう・・・』

とも思いましたが、それに対して、間違ってると思うことがあるなら・・・。

「ありがとうございます。その際にはN部長にご相談させて頂きます。」

としか、言い様がありませんでし。

ただ、この時に、大きな人事改革があることは容易に想像できました。

しかも、役員が中間管理職の私にまで、情報収集をしなければならない程、混沌としながら、密やかに、手綱を競き合っていること、触感する実感がありました。

人事の発表まで、あと4日でした。

また、なにやら中途半端だけど・・・

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リストラ ~第6話~

連載シリーズ 【 リストラ ~第6話~ 】 第 6 話 / (全 16 話)

私は役員会議室に呼ばれました。待っていたのはI常務でした。

「少しは、営業企画の仕事には慣れてきたかね。」

「おかげさまで、なんとか、着いていける様にはなりました。」

「うんうん、それは良かった。S部長から見て、相澤君はどうかね。」

「はい、相澤に来てもらってから、随分と楽になりました。ニコニコ

「そうか・・・。そこで、二人には大変申し訳ないことを頼みたいんだが・・・」

S部長が一呼吸置いてから、聞きました。

「改まって、なんでしょうか?」

「二人には4月から別の部署に行って貰おうと考えている。特に、相澤君は営業企画に来て、半年だから、やっと慣れてきて、すぐの異動だから大変申し訳ない。」

咄嗟に、朝礼のことを思い出しました。

「はぁ、私は構いません。サラリーマンですから行けと言われればどこにでも・・・」

「うむ、すまない。追って正式な辞令は出すから・・・」

私とS部長は役員会議室を出ました。

エレベーターにS部長と乗り・・・

「S部長はご存知だったんですか?」

「何をだ?」

「何を・・・って。異動の件ですよ!」

「いや、初耳だ。しかし、I常務が人事を勝手に決められると思えないんだがな・・・」

「そういえば、R社長は知っているんですかね?」

「さぁな・・・。しかし、R社長が社長を辞めるということでI常務の力が増すんだろうなぁ・・・」

「そうですねぇ・・・」

私は、S部長と私は新規に立ち上げる新商品や新技術を開発する部に異動になると確信していました。

しかし、I常務への権力集中はこんなものではありませんでした。

また、ここから1週間の間で○○が異動になるなどの噂がまことしやかに社内を走り回りました。

今日はちょっと短いですが、明日も仕事なので・・・

中途半端だけど・・・

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リストラ ~第5話~

連載シリーズ 【 リストラ ~第5話~ 】 第 5 話 / (全 16 話)

アメリカ合衆国の失業率が9.7%に達しているというニュースが出ていました。それに比べれば日本は『まだまし』と思う方が多いかもしれません。しかし、これは、何を持ってして失業というかが日本とアメリカでは違うからです。日本の場合は就職活動を断念してしまった人を失業者とは言いませんし、何より大きいのが中小企業安定助成金制度でこの制度を利用している対象労働者が約300万人います。日本の失業率が5.7%で360万人の失業者がいるのですが、実際には10.4%の人が失業している計算になり、すなわちアメリカ合衆国よりも失業率が高いことになります。

さて、M部長のリストラの続きです。

私は、S部長との忘年会の後の飲みで、どうやら、M部長の意向によって技術部門から異動になったことを知るのですが、そのころのM部長のいた技術部門は私が居なくなったこと以外はあまり変わった様子はありませんでした。

忘年会の後も淡々と時間が流れていくのですが、私が異動になった翌年の年の2月~3月は久々に会社が活気付いていました。バブル崩壊後、久々に売上げが大幅に伸びていたのです。まだまだ、景気回復が本格化する前ではあったのですが、前年、前々年に比べれば明らかに売上げが伸びてきていました。

そこに来て3月の終わりごろに全社員集合の緊急朝礼を行わんれました。

私たちは、

「売上げが相当、伸びてるらしいからな!期末の特別賞与が出るって話だぞ!」

というような浮かれた噂が飛び交いました。

その時に私も、強ち本当になるかも・・・と思っていました。

しかし、朝礼での話はびっくりしました。

まずは、R社長の話です。

「これまで、皆さん、良くやってくれました。今年は久々に増収増益なりました。先代の社長から社長を任され、先代には『なんとか会社を守ってくれ』と言われて、必死に守ってきました。しかし、これで私の仕事も一段落したと思います。私はご存知の通り、先代の社長に呼ばれてきた余所者ですから、ここらで社長を辞して、本来のH建設の人に跡をついでもらいます。私が社長でいるのは今年の6月までですが、気を抜かずに頑張ってください。」

ちょっと、ビックリしましたが、その時は何よりも

『だれに禅譲するんだろう?』

という疑問が先立ちました。

そして、今度はH元会長(故人)の養子であるH取締役総務人事部長がR社長に替わって話し始めました。

「今年は、ここ10年間の中でもかなり、立派な成績を上げることができました。しかし、勝って兜の緒を締めろとも言います。そこで、H建設は今後の発展の為に独自の商品や技術を開発する部署を新たに創設したいと考えています。現在、部署名と人選を行っています。」

と、H取締役が言ったことは覚えていますが、R社長の引退宣言の方のショックが大きくて、何も感想はありませんでした。

後に二人のこの言葉が私の人生を大きく変えていくことは、その時は全く気が付きませんでした。最も気が付いたから、どうなるものでもなかったのですが・・・。

朝礼が終って自分の席に戻って、あることを思い出しました。

R社長がM部長に言った

「来年、もしくは再来年の役員人事では君を新役員に推薦するよ」

※第2話参照

です。

『R社長が引退したら、M部長を役員に推薦することできなくなっちゃうよな・・・。ということは、なんらかの形で役員には残るのかな・・・』

などと、考えていました。

ボケ~っと、お茶を飲みながら、そんなことを考えていると、S部長から

「相澤、一緒に役員会議室に行くぞ」

と言われました。特に呼ばれる理由も無かったとは思ったんですが、無論、断ることはできず、そのまま、S部長と一緒に役員会議室に入りました。

この頃は役員会議室に入るのは、掃除当番以外で入ったことが、まだ4,5回だったので相当に緊張しました。

次回に続きます。

ダラダラ書いているけど・・・

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リストラ ~第4話~(番外編「独り言」)

連載シリーズ 【 リストラ ~第4話~(番外編「独り言」) 】 第 4 話 / (全 16 話)

私は元々、建築学を学び、社会に出ても、しばらくは建築の技術屋であり設計者でした。そして、その後、不動産屋になった次第で私の拙い経済学の知識では間違っていることもあるかもしれません。(間違いだらけかもしれません。)

今回は本題から思いっきり逸れる話を書きます。ですから、M部長のリストラの話だけを読みたいと思っている方は今回は飛ばして読んで頂いても話は解るようにしておきます。

この話を書いていますが、私はリストラ(人員整理)は必要悪だと思っています。企業は、人を雇用した以上、雇用した責任があるのは当然のことです。ですから、社会保険や厚生年金に加入していないことは固より、雇用保険に入っていない企業というのは許しがたい存在です。

雇用保険というのは、雇用されている労働者にとっては微かなセーフティーネットです。

(私の知っている会社で解雇をするにあたって、会社責任ではなく自主退社を社員に迫った会社がいくつかあります。これがどういうことなのか?解雇される社員のことをどう考えているのか?極めて腹立たしい話ですが、この様な会社が社会には腐るほど存在します。)

例えば、解雇された場合において、その解雇した会社に8年間勤め、30歳で月収30万円の人であれば約19万円の失業保険を3ヶ月間支給されます。

この辺のことを詳しく知りたい方はハローワークに尋ねるか、こちらのサイトを見てください。

・・・失業保険給付日数一覧表

良く考えてみると、30万円の月収を貰っていた人が19万円ですから、その生活は相当にきついはずです。ここで、そもそも収入が19万円に満たない人から見れば、

『働かないで19万円も貰えるんだから充分だろ!』

と思われる方がいると思います。

しかし、その人に扶養家族がいたり、家賃を払っていたり、ローンがあったりすれば月々の出費は給与の30万から行われていたはずです。ですから、それが19万になってしまえば、必然的に家計は大赤字になってしまう訳です。そして、3ヶ月以内に新しい仕事先が見つからなければそれは0円になります。その精神的不安は言葉では言い表せません。これに対して、

『こういう時代で解雇されることだってあるんだから、予め貯金をしておくことが大切。』

と考える方も多いと思います。一つの考え方でそれを否定することはありません。しかし、全員がこの考え方を持てば消費活動が減退し、ますます、景気は悪化し、雇用情勢も更に悪化していきます。失業保険が雇用保険料で支払えなくなれば、必然的に税金を使うことになります。ところが財源を確保しようにも雇用者が減っている訳ですし、消費活動が減退している訳ですから、法人税も所得税も消費税も増税しようにも出来なくなるという悪循環に陥ることになる訳です。

この様な悪循環を極論だと思われる方も多いと思いますが、これに近い状態が実際に歴史上にはありました。

第31代アメリカ大統領ハーバード・フーヴァーの自由放任政策です。彼は極めて古典的な経済学の信者でした。しかし、ますます、景気が悪化するのを見て、保護貿易政策を取ったり、フーヴァーモラトリアムという債務支払猶予処置(借金の返済期限の延期)を取ったりしました。

しかし、悪循環に陥った景気を回復するにはいずれも後手々々の政策であり、手遅れでした。

これを救ったとされるのがフランクリン・ルーズベルト大統領のニューディール政策とされていますが、その効果の程は解りませんが、同じく、その時期に不況に喘いでいたドイツでも、アドルフ・ヒトラーによるアウトバーン・建設などで一気に景気回復はしていました。

※ニューディール政策:農業政策による、農作物の価格安定による消費の拡大と公共工事拡大により、企業の適正利益を回復させる政策。

しかし、この様な財政出動はそもそもが『伝家の宝刀』だったのではないでしょうか?日本ではそれが常習化していて、『今更それを使うことすら、儘ならない』というのが今の日本の現状だと思います。

フランクリン・ルーズベルトがやった政策により、当時のアメリカ合衆国は社会主義革命が起こらずに済みました。ところが、日本は極めて社会主義革命に近いことが選挙によって起こったと私は思っています。

企業がリストラをすることは仕方がありません。会社に全員分の賃金を支払う能力が無くなったのですから、全社員を路頭に迷わさない為に、一部を切り捨てるのは仕方がないことかもしれません。問題はその雇用の受け口をどうやって作るかです。今の企業は、とりあえず給与の高い高齢者から人員整理を行ったり、解雇しやすい派遣労働者から人員整理をします。至極、当然の事だと思います。

これで当然で仕方がないことで済ましてしまうことは『姥捨山』の話と同じになってしまいます。姥捨山の物語では親を山に捨てた若者が良心の呵責に耐えられなくなるのですが、企業にそんなものはないので、そのまま放置ということになります。

しかし、解雇された人間は姥捨山に捨てられた老人の様に死んでしまう(話によっては良心の呵責に耐え切れなくなった息子が翌日に迎えに来るのですが)様に死んでしまうことはありません。

つまり、どの様にして、その人達を新しく雇用するかという事を考えることが資本主義なのではないかと考えています。解雇をした企業が再雇用する為には景気回復が必要です。悪循環に陥ってしまうと解雇をした企業は現状では外国の景気回復に頼る以外の自力回復は不可能です。

新しい産業の創出こそが、新しい雇用を産むことだと考えています。

新しい産業の創出には産みの苦しみが付いて回ります。その苦しみに耐えられるのは解雇という苦しみを味わった人の力も必要なのではないかと思います。

今の日本は既存産業におけるニューディール政策はできません。新しい産業の創出に官民一体となって、力を注ぐことが大事だと考えています。

新しい産業とは何も今までに無かった産業を創出することである必要性はありません。今までと同じものを作る産業でも、より効率的に、より高品質が保たれるのであればそれも新産業であるはずです。

次回はM部長のリストラ話の続きを書きます。

今日は寝ちゃうけど・・・

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リストラ ~第3話~

連載シリーズ 【 リストラ ~第3話~ 】 第 3 話 / (全 16 話)

会社組織だけではないのでしょうが、組織の中で正論を唱えても、正しい事はなかなかできません。

かつて、私が勤めていたH建設の役員会議の席である役員(K取締役)が言いました。

「相澤の言っている事は正論だとは思うが理想論でしかない。」

「今、私の言っていることを『正論』とおっしゃいましたか?」

「そうだ。正論だと言った。」

「では、K取締役も私の言っていることは『正しい』とは認識してくださってるんでしょうか?」

「そんなことは一言も言っていない。」

「では、聞きますが、正論とはどういう意味ですか?」

「・・・。とにかくだ、今回の相澤の意見は却下する。」

これは私が新しい工法を提案した時の話ですが、結局、その案は却下されてしまいました。

その案が採用されるのにはその後、5年の月日が掛かりました。K取締役がある問題で退任されたことによって、私の意見に反対する人がいなくなったからです。


と、この様に書くと、私の意見をK取締役が意図的に反対している様に感じるのですが、実際にはそうではなく、K取締役は本来あるべき住宅の情緒を大切にしたかったのです。しかし、私は生産の効率性と構造の安定を求めたことによる意見の対立だったので、単に論点が噛みあわなかったのですが、最大の問題は私が

『自分の意見は完璧だ』

と信じていたことにありました。今、考えれば、その案そのものは正しかった事は間違いないのですが、事前に根回しをしないで、役員会に臨み、役員会の席で役員と対立してしまったことにあります。

よく、会社の上司や、年輩の人を見て、

『なんで、ロクに働いてない、あんなのに高い給料払っているんだよ。』

みたいな事をいう若い人がいます。私もそうだった様に思います。

しかし、それを言う若い人はその上司や年輩の方が若い時にどんな風に仕事をしていたかを知らないはずです。そして、それを言った自分が将来、どうなっているかを断言できないはずです。

つまり、自分より先輩の方には自分の意見を言った後でも前でも必ず、先輩の意見に耳を傾けて、馬鹿にしないで真面目に一考するべきです。

上司を煽てて、なんとか了解を取ることが根回しではありません。

上司の言っていることをよく咀嚼して、自分の意見と協調させていくことが根回しなんだと考えています。

リストラの続きです。


私は技術部門から営業企画部に異動になりました。

しかし、営業企画部はそもそも、営業部門の中ではエリートコースですから、他人の評価は左遷ではなく栄転という評価でした。しかし、当時の私は技術畑一本で、住宅の生産性の向上や品質の向上をやっていきていて、不動産や営業のことは全くわかりませんでした。


どれくらい、解っていなかったかと言うと、異動になって、営業企画部の仕事について1週間程研修を受けることになりました。私の研修をすることになったのはO課長です。O課長はH建設きってのキャリアウーマンでした。


「相澤君は計算が得意だから大丈夫だと思うんだけど、この団地の収支計画を作ってみてくれる?」


「わかりました。」


研修ですから、既にO課長が収支計画を作っているものを試しに作るだけです。ほどなくして出来上がりました。


「あれ、少し計算があわないわね。何がおかしいのかしら・・・」


私の収支計算の方が少し、原価が高く出ていました。


「あの~。O課長の収支計算は消費税が一部、抜けているからだと思います。」


「え?私、間違ってた?」


「土地に消費税が掛かっていません。」


「相澤君・・・。土地って、非課税なのよ・・・汗


「えっ!そうなんですか・・・ガーン


「あはは・・・。相澤君でも知らないことあるんだね!」


と、こんな感じでした。


営業企画部のS部長もやはり、もともとは技術系の課長でしたが、I常務によって営業企画部の部長に抜擢されました。私はもともと、S部長ともよく話す仲ではあったのですが、M部長の配下にいた私を欲しがるとはとても考えられなかったので疑問には思っていました。


異動になって3ヶ月が経って忘年会がありました。


忘年会の後に、二次会、三次会と行われ、大分人数が少なくなった頃にS部長が


「相澤、もう一軒付き合わないか?」


と言い出しました。

特に断る理由もなかったのですが、もう、終電も終った頃で、ほとんどのお店も開いてなく、結局、屋台のおでん屋に座りました。


とりあえず、かなり飲んではいたのですが熱燗を注文し、出てきた熱燗を私がS部長にお酌しようとすると、


「ああ、まずは俺に注がせろ」


「ありがとうございます。」


S部長は私に注ぐと自分は手酌で注いでしまいました。


「まずはお疲れ。」


「お疲れ様です。」


「どうだ、営業企画部は?少しは慣れたか?」

「はい、O課長にも良くしてもらっていて、大分、慣れてきました。」


「そうか、O課長も相澤は飲み込みが速いし、良くやってると言っていた。」


「いえいえ、いつもご迷惑掛けてると思っています。」


「ところで、相澤はなんでうちの部署に来たか知ってるか?」


「はぁ・・・」


私がシドロモドロしていると・・・

「M部長にはなんと言われたんだ?」


「えっとですね・・・・S部長断ってのお願いと聞きましたが・・・」


「そうか、M部長らしいなぁ・・・」

「えっ、違うんですか?」


「いや、相澤がうちの部署に来ることになった時には俺も嬉しかったさ。I常務も喜んでたよ。しかし、M部長が相澤を手放すなんて思わなかったからな・・・。あのな、M部長から俺に相澤を貰ってくれと言ってきたんだよ。」


「そ・・・そうなんですか・・・しょぼん


「相澤,勘違いするなよ、M部長はお前のことをいらなかったわけじゃない。お前の将来を考えてのことだったんだよ。」


その時、私はまだよく意味が解りませんでした。相当、酔っていたからかもしれませんが・・・。




次回に続きます。


さて、明日からまた忙しいけど・・・





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リストラ ~第2話~

連載シリーズ 【 リストラ ~第2話~ 】 第 2 話 / (全 16 話)

最近、あるゼネコンのS課長とこんな会話がありました。

「Sさん、課長昇進、おめでとう。」

「いえいえ、お恥ずかしながら。まぁ、ここまでは年功序列でなれますから・・・」

「Sさんは課長になられて、何課を任されるんですか?」

「いえ、何課もないですよ。営業2課は変わらないです。部下はいません。営業2課に後輩はいますけどね。だから、昇進しても人事的には何も変わらないです。」

「じゃあ、営業2課には営業2課長だった、NさんとSさんの二人の課長がいるんですか?」


「いえいえ、Nは今回の人事で部長になりました。だから、営業2課長はN部長です。」

この会話で違和感を感じない方はいないと思います。


課長というの『課のトップ』で部長というのは『部のトップ』のはずです。

しかし、役職を上げても実際には部下もいない課長がいっぱいいるのが企業です。時々、主査とか上級主査というような役職がある企業がありますが、役職で課長だと『課のトップ』の様に対外的に思われてしまうので、よく解らない役職を作っているのかもしれません。


企業が大きくなる過程で例えば創業者1人が成功して、2期目で2人、3期目で3人、4期目で5人・・・と毎年1.5倍ずつの社員を雇用していっている間は会社組織の人口ピラミッドがちゃんと成立しているので、人事的にも上手くいくかもしれません。


しかし、企業がある一定規模以上になれば、壁にぶつかります。また、会社の経営状況が悪化すれば、雇用を拡大することは難しくなります。その時点で会社組織のピラミッドが崩壊しはじめます。特にバブル崩壊後にその様な会社は多かったと思います。平成初期に入社した社員はその後、殆ど雇用がされない為に10年間、部下どころか後輩すらいない。そして、少しずつ雇用を開始したものの、部下よりも上司の数の方が多いという人は沢山いたはずです。

当然ですが、企業もそんな簡単には人員整理はできないのでその状況を変えることができません。余った人材は大企業で子会社がある様な会社は子会社に行かせることも可能です。銀行だったら、融資先の企業に出向させて、出向先の会社の社員にすることもあります。そして、官僚だったら天下りという道を準備します。そうやって代謝を図るしかないのでしょう。

ところが中小企業や新興企業はそういう訳にはいきません。子会社も出向先も天下り先もないので、苦しくてやっていけなくなると給料の高い、高年層の余った人材からカットすることになります。

さらに酷いのが生産調整を行う際の現場労働さ者の人員削減です。その為の調整弁が派遣労働者だったのはここに書くまでもないことかもしれません。よく、言われることで


「正社員と同じ労働をしているのに派遣社員だけ、解雇されるのはおかしい・・・」


おかしいようですが、将来、会社の管理職、行く先は経営を担ってもらおうと考えている社員(もちろん、その中の一部しかなれませんが)を契約社員と同様に解雇する訳が無い理屈はわかりきっていることです。


しかし、この社会構造もしくは会社組織構造は破綻の序章なんです。すでに組織のピラミッドが崩壊し、生産人口よりも管理人口が多くなればその企業が企業活動を維持できるわけがありません。それを回避する為に何を企業はしなければいけないかをよく考えるべきでしょう。

H建設の話に戻ります。

M部長はR社長に呼ばれました。

「来年、もしくは再来年の役員人事では君を新役員に推薦するよ」

私は別件でM部長と一緒に呼ばれていました。その社長の言葉を聴いたときに私は少し疑問に思いました。

『なんで今年の役員人事で役員にしないんだろう・・・?』

その頃の私は社内の派閥のことをよく解っていませんでした。その後、数年してその時のことを理解できました。

その内に創業者であるH会長が病気で倒れました。そのまま、会長職を辞職されました。

そして、ある日、H元会長が亡くなったという話が飛び込んできました。

H元会長は創業者ですから、当然の様に社葬が行われました。しかし、そのことが人事に大きな影響を与えることに私はまだ気が付いていませんでした。

翌年の役員人事では大きな改革が行われました。

まず、A専務が会社を去ることなりました。理由はよく解らないまま、A専務は朝礼で

「これからは自分のやりたかったことをやろうと思います。」

という発言でした。

私はR社長からA専務に社長職が禅譲されるものだと思っていたのでビックリしましたが・・・

A専務はH元会長の実子ではありません。H元会長は創業者ですから、大株主でもありました。H元会長が亡くなったことで、その株主の権利は必然的に奥さんと養女に相続されました。(H元会長には実子はなく、養女がいました。)

つまり、実子でないA専務をH元会長の奥さんが追い出してしまったわけです。

また、それに伴って3人ほどの役員が退任しました。

R社長派と思われる3人の役員が退任、そして、R社長の友人である、H元会長の死去によってR社長は完全に孤立してしまったわけです。

その年の9月中旬に私はM部長に呼ばれました。

話の内容は・・・異動でした。

その会社に於いて、技術部門間の異動は大変珍しかったのですし、技術部門から営業部門への異動は部長クラスでしかありませんでした。

ところが私は営業部門への異動でした。

「相澤、10月から営業企画部に行ってくれないか?」

しばらく、黙っていた私に・・・

「相澤がいらないと言ってる訳じゃないんだ、営業企画部のS部長たっての頼みでな・・・」

「で、M部長はそれに応諾されたのですか?」

「いや、本人に確認してからと言ってある。」

「それで、『行ってくれないか』ということは、やはり、M部長は私がこの部にはいらないと・・・」

「いや、相澤をいらないなんて言っていないだろ。いろんな事を若いうちに経験をだな・・・」

如何にも歯切れが悪い言い方でした。

「私はサラリーマンです。サラリーマンは行けと会社から命令されれば、それに従うのがサラリーマンだと思っています。だから、これが命令であれば私は行きます。」

「では、命令だ」

あっさりとしたもんでした。

私は10月から営業企画部に異動になりました。

営業企画部のS部長はA専務に非常に可愛がられている部長でした。

その異動の意味を知るのにそんな長い時間は掛かりませんでした。

次回に続きます。

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リストラ ~第1話~

連載シリーズ 【 リストラ ~第1話~ 】 第 1 話 / (全 16 話)

昨日は前々職時代の上司と飲んでいて、かなり出来上がって帰ってきて、さっさと寝てしまいブログが更新できませんでした。

その前々職(H建設)の上司(M部長)というのは、最近、リストラの対象になった方です。

私はH建設に大学を卒業後14年勤めました。

辞めることをその時の上司に言いました。その時の部長というのはF部長です。

「相澤はなぜ、辞めようと思うんだ?」

「はい、うちの会社はお客さんの方を向いて仕事を出来なくなってるからです。」

「じゃあ、どこを見て、みんな仕事をしているんだ?」

「上です。」

「上?」

「つまり、お客さんを見ないで上司や社長を見て仕事をしているんですよ」

「うむ、たしかにそういう輩もいるのは解る。しかし、俺は違うぞ!」

『あんたの事を言ってるんだよむかっ

と言いたかったのですが「俺は違うぞ」と言った言葉の時点で多少の自覚はあるんだなと思いました。

M部長は、私がその会社に入った時に既に技術系の一部門を担う部長でした。一時は役員に昇格するという話もあったのですが、ちょっと、とっつき難いところのある人で、一部の営業系役員から嫌われていて、結局、部長のままでした。

簡単に言えば派閥争いに負けた訳です。

上場こそしてはいましたが、そんなに大きな会社だったわけではないのですが、その会社の中には派閥がありました。もっとも、最近、負けた政党の様に

「自分は○○派」

と公言する人はいませんでした。

また、創業者が社長だった時代には、みんな創業一族が社長を継ぐと思っていたので、派閥もさほど重要性がありませんでしたが、二代目の社長が外部から招聘された人(創業者の友人)がなった途端にその傾向は顕著になりました。

その会社が創業者が社長だった時代には、派閥はあるものの社員はみんな、お客さんの方を向いていました。

『良い家に笑って住んでもらう』

これだけを思って家を作り、売っている会社でした。

ちょっと値段は高かったかもしれませんが、お客さんはみんな喜んでくれる家を作っていて、それなりに評判も良かったかと思います。また、マジメな会社でバブルの時にも住宅以外には手を出さず、バブル崩壊後も売上げは下がったものの赤字になったのは、1度だけでした。

しかし、創業者であったH社長も、その時すでに70代後半でもあり、景気回復を待たずに、社長を引退し会長職に付きました。

次期社長と思われていた人が何人かいました。

筆頭はA専務でした。

A専務はH社長の息子です。ただし、正妻の息子ではありませんでした。所謂、妾の子ですが、社内では良識派で社員思いで、また経営判断がしっかりした優秀な専務でした。

二番手がR副社長です。

R副社長はH社長の友人で、ある大手百貨店の役員を経て、H建設の顧問に就任後、副社長として、後継者を育てる役割を担っていました。

三番手がI常務でした。

I常務は若くして営業部長になった方です。もともと、大手のゼネコンなどに親類がいることで、法人受注などの大きな仕事を若くしてやってきた人でもあり、営業系の人間からは厚い人望がありました。

私が一緒に飲んでいた、M部長はA専務とR副社長には、気に入られていました。また、H社長からの信頼も相当厚かったのですが営業系の人達からは嫌われていました。R副社長は外部から招聘された人であったので、あまり、社内に大きな派閥を持っていませんでした。M部長はR副社長の腹心と言って言いぐらいに可愛がられていました。

次期社長はR副社長が就任することになります。

M部長の役員昇格は間近と思われていました。

長くなりそうなので、何回かに分けて書きます。

また、中途半端だけど・・・

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