【経緯】外伝7【立退き】
さて、昨日の話の続きです。
私はRさんとUさんの関係を聞かなくてはなりません。いくら、Uさんが連帯保証人でも、Uさんが家賃を払っていて、この部屋に住んでいるので、そこの関係だけはちゃんと確認しなければなりません。
聞くのイヤだなぁ・・・と思いつつも仕事だし・・・止むを得ず切り出しました。
「あの・・・Rさんと正式にはどんな関係はなんでしょうか・・・?」
「あ~ん?奥さんみたいなもんだって言っただろ。」
「いえ、『みたい』ではなく、『正式』にはどんな関係なんでしょうか?」
「あんたには関係ないんじゃい」
(って、「じゃい」ってどこの方言なんじゃい)
と、どうでも良いことを思いつつ・・・
「いえ、さすがにご家族や血縁でもない方にいろいろなお話をする訳にもいかない訳でして・・・」
と言うと、意外に素直に答えてくれました。
「俺はRの雇用主じゃい」
(あれ?Rさんってそう言えば職業が書いてなかったな・・・)
「あの、どういう、お仕事なんでしょうか?」
「聞きたいんかい?じゃあ、教えてやろう。Rはな、ジャパユキなんじゃい。」
「『じゃ・ぱ・ゆ・き』・・・」(懐かしい、響き・・・)
(はい、そこの貴方、『ジャパユキ』と聞いて解る方!アラフォー+αですよ)
ジャパユキが解らない方はこちらを参照してください。→『ジャパゆきさん』Wikipedia
(って・・・ぜんぜん、奥さんじゃないじゃん!)
でも関係が解れば良いだけです。だって、こちらは、これからもRさんに幸せにここに住んで頂く事が目的ではありません。立ち退いて貰うのが目的です。まぁ、一応、雇用関係ということもあるみたいですが、UさんがRさんを見捨てるとも考えにくい雇用関係だろうと思いました。だって、UさんにとってRさんは大事な稼ぎ手と思われたからです。それと、Uさんみたいな方は話が早いんです。この時は解っていなかったんですが経験を重ねるうちに住んでいる場所に愛着が無い方というのは金銭的に解決がしやすいんです。Rさんは長いこと住んでいるので愛着はあるかもしれませんがUさんがここに愛着があるとは考えにくい状況です。
しかも、Uさんは私が切り出さなくてもちゃんと解っていました。
「で、いくらくれるんじゃい」
「えっ」
「だから、立退き料、いくらくれるんじゃい」
この頃の私はまだ立ち退き初心者です。もじもじ、していると・・・
「条件は2つじゃい。Rの次の住む場所を探すことと家賃の10倍じゃい。」
(らっきーーーーー)
家賃の10倍の立退き料って高いと思うか安いと思うかはそれぞれだと思います。プロの方からすれば普通と思われるでしょうし、素人の方からすれば、高い!と思うとおもいます。もっとも月額家賃にもよりますが、今回は十分予算内でした。読者の方には立退き料の考え方が解らないと思われますのでここで立ち退き料の考え方をちょっと書いておきます。
・ 引越し代:家賃の1ヶ月分
10万円の部屋の引越し代は概ね10万円と考えます。もちろん実際にはその人の荷物の量によります。
・ 次の住まいの初期費用:家賃の6か月分
現在の住まいの家賃が10万円なのに次の住まいの家賃が30万円ということはその人の収入が突然増えるわけもないので、概ね同じぐらいの家賃と考えます。そうすると、敷金2ヶ月礼金2ヶ月(関東の場合は礼金があります。関西だと敷引きです。もちろん、物件によってはこれがゼロで済む場合もありますし、4ヶ月以上掛かる場合もありますが住居系の場合にはこれぐらいで考えておきます。)仲介手数料1ヶ月。それに火災保険だの鍵交換費用などで1ヶ月ぐらい(実際には5万ぐらいでしょうが面倒くさいので1ヶ月としちゃいます。)
・ 迷惑料:1ヶ月~
実際に、引っ越すと知り合いに住所変更のお知らせをしたり、金融機関や免許証の住所変更など、面倒な手続きがあります。その他にも最近では次の住まいでプロバイダーとの再契約やケーブルテレビの加入など人によってはやらなくてはいけないことが沢山あります。もちろん、精神的な保証という意味合いもあります。
と考えれば概ね8ヶ月ぐらいは掛かります。
しかし、住居系の賃借人は賃貸人から「老朽化の為、立て直しますから、退居してください」と言われると、借家法をよく解っていないことがあり、慌てて次の部屋を探して、出ていってくれる方もいます。私の経験から言うと3割ぐらいの方は立退き料を支払わないで済みます。また、7割以上の人が上記の内訳以内で退居してくれます。
問題は残りの3割の人です。
この人たちはかなりゴネます。不動産屋や法律関係にちょっと詳しい知り合いがいたりして入れ知恵をされると、その入れ知恵をされたところから、さらに多目に請求してきます。不動産屋や法律関係に詳しい人の場合はあまり法外なことは言ってこないことが多いです。
実際にはこちらは、全員に退居してもらわなければならないですから、なんとしても出てもらわなければなりません。実際には上記の様な理屈が通じない相手もたくさんいます。その場合は大変になります。
時々、立退きを実際にやったことの無い不動産鑑定士や弁護士が杓子定規にバカな立退き費用を算出したりしますが、私は(やれるもんなら、それでやってみろ)と思います。
さて話を戻すとRさんの場合は金銭的には十分に予算内だったわけです。(しかもSさんの立退き料ゼロだったし・・・)詳しくはこちらから
問題はRさんの次の住まい。職業(本当のことを言えるわけもない)、本当に就労ビザを持っているのか?(あとで解りますが持っていません)、フィリピン人、連帯保証人がUさん(血縁じゃない上に普通の人じゃない)
部屋を探すのは相当、大変でした。
私がなかなか部屋を探せないでいると上司が・・・
「入管行って、チクッてこい!」
この上司、意気込みで土地を買えちゃう上司(詳しくはこちら
)なんで言うことは極めて短絡的です。
・ Uさんが仮に一緒に逮捕されても、仲間になにをされるか解らない。
・ こちらが立退きを目的として居住者を入国管理局に引渡したことがマスコミにでも取り上げられたらただじゃすまない。(一応、上場会社でしたし・・・)
さすがに上司には、このことを言って理解してもらいました。
その後、3ヶ月ぐらい掛かって、なんとか部屋を見つけることができました。
このマンションは他にも立退きで苦労することはあるのですが、ネタとして話せることはこんな感じです。
ちなみにこのマンションはすでに解体されてありません。本当は再開発しようとしたのですが、更地の段階でどうしても売ってくれという不動産デベロッパーが出てきたので売却してしまいました。そのデベロッパーは既に休眠状態ですが・・・。
このテーマでのこのマンションはこれぐらいで終わりにします。
【経緯】外伝6【立退き】
今日は以前書いた、あまり話が通じないRさんの話です。
賃貸管理をしていると、色々な人や事件に遭遇します。(後日、少しずつ書いていきます。)
Rさんに至っては前のオーナーが契約したんですけど、私の本心は
「よく、この内容で契約したよな・・・」
と言うような方でした。
まずは毎度同じの契約書及び添付書類による賃借人の属性チェックです。
名前:Rさん
性別:女性
年齢:30代
同居人:無し
連帯保証人:Uさん
家賃の遅延履歴:無し
本物件他の居住者からのクレーム履歴:無し
と、ここまで読んでいる方は問題無い様に感じると思います。
しかし、私はすでに『あたた・・・っ』と思っていました。
Rさんの契約書に添付されている身分証明書はパスポートのコピー!
(国籍・・・フィリピン人じゃん!)
別にフィリピン人だから悪いというわけではありません。しかし、ここに住んで既に12年が経過しています。ビジネスでちゃんと日本に来ている方で12年も日本にいれば一般的には日本語がちゃんとしゃべれるはずです。
(日本人の方と結婚されたのかしら・・・)
と思いつつ、Rさんの部屋にも
『近所まできましたので~。』
作戦で行くと、あっさり・・・ドアが開きました。ちょっと、セクスィな格好をしていましたが、仕事モードなのでそんなことは気にせず、名刺を渡して、一気に用件を言うと、Rさんは部屋に戻っていって携帯電話を持ってきて、どこかに電話を始めました。何を言っているかは解らないのですが、時々、日本語らしき言葉も・・・どうも
「すぐにきて~」
と言っている様です。しばし、待っているとRさんはその携帯を私に渡しました。電話の相手が誰だかも解らない私は耳に当てるだけで、こちらから話すことはできませんが、私が電話を持っていることを教える意味で
「もしもし・・・・」
というと。結構、太いというかドスのきいた声で
「何の用事じゃいっだいたい、お前は誰じゃい」
(いや、じゃいじゃいって言われても、あんたこそ誰じゃい)
と言いたい気持ちを抑えて・・・勇気が無いだけですが・・・
「Rさんのお住まいのマンションの新オーナーになった会社のものです。所有者変更のご挨拶と契約書の賃貸人の部分を変更したいと思いまして、やってきました。」
と精一杯丁寧に言ったつもりでした。
「ほんまかいあんたが新オーナーの会社の社員って証明できるんか」
(って、いいから、あんたは誰なんじゃい)
と言いたいところを必死に抑えて・・・
「はい、とりあえず、今、Rさんに名刺を渡したのですが・・・」
「Rに換わってくれ」
と言われたので携帯をRさんに・・・なにやら、ひそひそ話して・・・携帯は私にまた戻ってきました。
「おう、どうやら本当みたいだな。Rじゃ話にならんから、俺が会ってやる。」
さすがに誰だか解らない人が会うと言われても・・・勇気を振り絞って
「あの・・・どちら様でしょうか・・・」
「Uだよ、U」
(あっ、たしか連帯保証人の方・・・)
会う日を約束したのですが、私はもう一つ確認しなければならないことがあります。
Uさんの身分証明書(運転免許証)のコピーは契約の時に添付されていたのですがコピーが粗い為、顔写真は確認できません。本当に会う人がUさんなのかを確認しなければなりません。
「すいませんが、本当にUさんかを確認しなければならないんで、お手数ですが身分証明書、あっ、免許証を持ってきていただけませんか?」
「ねーよ」
(無いって、契約の時には・・・)
「免許取消し中だよ」
(取消しの場合は○○中とは言わないだろ)
と心の中で突っ込みつつ・・・
「他に何か身分証明書はありませんか?例えばパスポートとか・・・」
「おう、住民票なら取ってくぞ」
(住民票取るのに身分証明書がいるだろ)
と言いたかったのですが持ってくるというので
「それで結構です。」
3日後にRさんの部屋で会うことになりました。
そして、Rさん、Uさんと会う日になりました。ちょっと、Uさんの声に萎縮していた私ですが・・・。勇気を振り絞って、会いに行きました。心の中では
(Rさんはきっと、Uさんの奥さんなんだろう)
と、思いつつ・・・。
さて、Rさんのお部屋に入るとUさんは既に待っていました。
(げっ、声のまんまの風貌・・・)
私が萎縮しているのを相手に悟られてもまずいかと思いつつ、杓子定規に名刺を出して簡単な挨拶をして、UさんにRさんとの関係を聞きました。
「失礼ですがRさんはUさんの奥さんでしょうか?」
「おう、だいたい、そんなもんじゃい」
(やっぱり、そうだったんだ。私の勘も立派じゃい)
と思いつつ次の作業に・・・
「すいませんが、住民票を見せていただいて宜しいですか?」
「おう、これじゃい」
役所の封筒に入っているままの住民票を手渡されたので早速、開けて確認すると、間違いなくUさんです。目を住民票の下の方にずらすと
妻○○(漢字)
長女○○(漢字)
長男○○(漢字)
(Uさん、今、Rさんが奥さんだって言ったじゃないですか・・・)
もう一回、関係を聞かなくてはならなくなりました。
もう、RさんとUさんの関係に気が付いている方もいらっしゃると思いますが・・・
この話は次回に続きます。
【経緯】外伝5【立退き】
私はここに、収益不動産の話どころか、立退きの話を書いていますが、実際には『住宅』の専門家です。しかも、住宅に関する技術系の人間です。自称ですが、ちゃんと一級建築士も持っています。(宅建他、不動産系の資格もいくつか持っていますが・・・)
私は、声を大にして言いたいんです。
私は住宅に関する技術の専門家だ!
と・・・
今日の仕事の依頼は
「相続に関する、遺産分割協議書と相続による不動産登記」
です。すでに万屋状態です。
さて、昨日の話の続きです。
なかなか会おうとしてくれない、Sさんの部屋に通うこと10回目ぐらいの時でした。
そろそろ、戦法を変えないといけないかな・・・
と、思いつつも、今日はYさんとお話しをした帰りなので、そのままSさんの部屋に立ち寄りました。呼鈴を押そうとした瞬間・・・・またもや、数人の男性です。
「この部屋の方ですか?」
と、聞かれました。さすがに2回目ともなると雰囲気で察しました。
「いえ、このマンションを所有している会社の者ですが、警察の方ですか?」
と聞き返すと、やっぱりそうでした。ドラマ通り手帳を見せられて・・・
「この部屋の方に少々、用事がありまして・・・」
(私もなんですけど・・・)と言おうとすると、
警察官の手に持っているのは家宅捜査令状です。
警察官は俺達の邪魔するなよ・・・と言わんばかりの態度です。
家宅捜査令状!
って、何したの?Sさん・・・・
というわけで、警察官は無理矢理Sさんをドア越しに呼びだし、ドアを開けさせました。私は側で見ているだけですが、黙ってみている訳にはいきません。何って言っても、このマンションのオーナーです。私だって、会社に報告しなければならない義務があります。
というわけで、警察官の最後尾から一緒に突入!
と、絶句な光景でした。
部屋には無数のパソコン。
モニターには永遠と流れる意味不明の文字・・・。
床はケーブルだらけです。
窓には真っ黒の紙が完璧に隙間なく貼られています。
警察官はSさんに何かを話していて、Sさんは観念したかの様にうなだれています。ほどなく、Sさんは警察に連れて行かれました。
そして、警察官は私に・・・
「ここにあるものは全て証拠品になりますので一切、触らないで下さい。」
『はい』で帰るわけには行きません。少なくとも、どうして、こうなったのかを会社に報告する義務がある私は、この部屋が何に使われていたのか、Sさんが何をしていたのかを聞きました。
ワンクリック詐欺の基地Sさんはその主犯
ということでした。
数日後にSさんの部屋にある殆どのものは警察が押収していきました。
私は、何もせずにSさんの立退きに成功しました。
さて、次回は言葉の通じないRさんです。
【経緯】外伝4【立退き】
不動産関係の仕事をしていると、いろいろな不動産の話があります。
たしかに以前、
『お寺を買いませんか?』
という、話がありました。しかも・・・
『宗教法人セットでしかも、檀家さん付き』
という話でした。(檀家さんの評価額なんて出せないし・・・)
他にも『医療法人付き病院』や『営業権付きホテル』などはよくあります。
当時、収益不動産を扱っていた私は『病院』や『ホテル』は検討しました。しかし、さすがに、このお寺から、どんな収益が生まれるかを思いつかなかった私はその話を断りました。まぁ、普通に違法行為ですから、そんなことを考える訳もないのですが、こういうことに頭が回る人って時々、すごいなぁと思ってしまいます。もちろん、バカだなぁとも思うのですが・・・。
『ラブホテル』というところがちょっと笑えました。
さて、昨日の話の続きです。
警察署に連れて行かれた私は、本当に建造物不法侵入をしていたわけではありません。当然ですが、そのマンションは私が所属している会社が持っているものですから・・・。そのことを警察に確認してもらって、警察には理解してもらえました。
私が逮捕された理由は想像していた通り、Yさんが鍵を開けられたことで心配になり警察に通報したということでした。
逮捕までされた私は、タダで帰るほどお人よしではありません。私のことを逮捕した警察官に私が
『新オーナーで賃貸借契約書の作成と新賃料振込先の変更に来たら、なかなか連絡がとれなくて、心配になって鍵を開けた』
ということを、私と一緒に行ってYさんに説明してくれと言いました。
さすがに自分の仕事(立退き)に警察が協力してくれるわけないかなぁ・・・と思ったら、誤認逮捕に警察官も悪いと思ったのか、それともYさんに報告する義務があったのか快く承諾してくれました。
こうやって、私は無事にYさんと面識を持つことが出来ました。
・ 電話に出なかったのは知らない電話番号には出ない。
・ ドアホンに出なかった理由はセールスだと思ったから。
・ 郵便受けは見てなかった。
ということでした。
Yさんも悪かったと思ったのか、その後は私とは色々話してくれるようになりました。元々、身寄りのいない、ご老人です。寂しかったこともあるとは思いますが、その後はYさんの方から話してくれるようになりました。
ただ、寂しかったこともあるのでしょうか、Yさんのご都合の良い時間を聞くと、朝9時と言われます。
私の用件は玄関先で済むようなことなのですが、必ず、上がっていけと言われます。そして、
『果物は食べるか?お昼ごはんは食べるか?』
と聞かれます。こちらはYさんの機嫌を損ねるわけにも行かないのでなかなか断れず、いつもYさんの家を出るのは夕方です。上司にその旨を相談すると一言・・・・
『頑張れ!別に説得できれば何時までお茶しててもいいからな。』
『あっ、残業代は無理だけど!』
(残業代はつかないんかい!!!!)
以上でした。
そして、最終的な結論としては
・ Yさんの次のお住まいを私が責任を持って探す。
・ 次のお住まいの敷金と礼金などの初期費用をこちらが負担する。
・ 引越し代をこちらが負担する。
・ いらない物を置いていっても構わない。
という条件で立ち退いてくれることになりました。
Yさんも余程、私のことが気に入ってくれたのか
『相澤さんのお仕事の邪魔にならないように、住む場所が決まったらすぐに出て行くからね。』
と言ってくれました。
しかし、問題は次の住まいです。
実はこのマンションの家賃は、周辺相場に比べるとかなり安かったんです。ですから、同じぐらいの条件の物件を見つけることができません。
それと、Yさんは身寄りがありません。つまり、連帯保証人がいません。連帯保証人のいない、80歳過ぎの老人を受け入れてくれる物件がほとんど無いという問題にぶつかります。
なんとか、同じ条件の物件を見つけ、結局は私の勤める会社が保証人になるということで決着しましたが、そこまで行き着くのに半年ぐらいの時間を要しました。
Yさんによる教訓
・家賃が周辺相場より安い場合は代替物件が見つけにくいので交渉が難しい。
・老人を受け入れてくれる賃貸住宅は少ない。
・老人は話が長い。(結構、楽しかったけど・・・)
さて、次は「忙しい!」を理由に会ってくれない方に突入です。
契約書等によると賃借人は
名前:Sさん
年齢:30歳台
性別:男性
連帯保証人:保証会社
職業:IT企業らしき会社
同居者無し
家賃支払の遅延履歴等は一切無し
本物件居住者からのクレーム等も一切無し
まずは、務めている会社をネットで調べますが出てきません。「小さい会社なのかなぁ・・・」と思いつつも、書類上は怪しい点はありません。
Sさんは電話は何度掛けてもアポイントは取れないので、直接行って、
・電気がついている。
・水道メーターや電気メーターのまわり具合
などを確認して、中に人がいることを確認した上で
『近所まで来ました~』
という古典的な方法で挑戦です。同居者もいないということなので夕方以降に行くことにしました。
しかし、この部屋は不思議でした。
電気のメーターは激しくまわっていますが、外は暗くなっている時間なのに外から見てもこの部屋は電気がついているという様子がありません。というか、昼間でも暗幕?みたないもので部屋の中が全く見えません。
『なんだろう・・・』
と思いながらしばらく、通うのですが、呼鈴には絶対に出てくれませんでした。SさんはYさんに会ったときなど週に2回ぐらいずつは尋ねました。
通い始めて、かれこれ4週間・・・そろそろ、別の手を考えないと・・・と思っていた矢先、とんでもないことが起こりました。
このとんでもない出来事は明日に続きます。
【経緯】外伝3~いきなり逮捕される~【立退き】
今日は私の会社の社員Fが自分のマンションの契約をする予定日でした。
しかし、結局、契約には至りませんでした。
部屋はすごく良い部屋で社員Fも気に入っていたのですが・・・
契約の手続きの仕方と契約書の内容に大問題があって、一応、それを訂正するように貸主と交渉したのですが貸主がそれを理解できず結局、破談となってしまいました。
賃貸住宅をやっている不動産会社のみなさん、東京ルールは守りましょう。
http://www.toshiseibi.metro.tokyo.jp/juutaku_seisaku/tintai/310-0-jyuutaku.htm
詳細については後日書きます。
さて、今日は買えてしまったマンションの立退きの話です。
皆さんは立退きというとどんなイメージをお持ちでしょうか?
きっと、こわ~いお兄さんがやってきて、怒鳴りまくるとか、
いっぱい、嫌がらせをして、そこに住めないようにするとか、そんなイメージを持っている方が多いと思います。
しかし、実際にそんな立退きをするのはバブルの時代の話で、
(その頃だってそんな立退きをする人が沢山いたわけではありません)
今はもっと紳士的に行います。
簡単に言えば『条件交渉!』これにつきます。
さて、まず買ったマンションの住人の属性をチェックすることになりました。
住人の属性のチェックとは、
簡単に言えばどんな人が住んでいるのかを調べるということです。
私はすでに、そのマンションのオーナーである会社のその物件担当ですからオーナーと概ね同じ権限を持ってます。契約書を全部見ること、その際に提出されている住民票や身分証明書のコピー、連帯保証人の身分証明書なども見ることができます。
この物件は27の賃借人がいました。
うちわけは法人3、一般で借りている方で単身者(契約時に一人で住むと言って借りた方)が18、家族で住んでいる方が6という内容でした。法人は出版関係、自動車関連、不動産関係といった感じです。個人の方の中に、ぱっと見て、これは・・・と思う方は2名いましたが、後は契約書及びその添付書類だけではわかりませんでした。
まず、立退き交渉の基本はそこを利用している(住んでいる)人と面識を持つことです。この面識の持ち方が一番、重要なんです。ここで、相手に好印象を与えることができるかどうかで交渉が上手くいくかどかが決まります。これは、立退き交渉だけではなく、すべての交渉においての基本です。
というわけで、その面識を持つための作業に入ります。
一番簡単な面識を持つ方法は、その物件の所有者が変わったという理由で
・ 家賃の振込先の変更のお知らせ
・ 賃貸借契約の作り直し
・ 新オーナーの挨拶
という理由で借主に会いに行くことです。
まずは、所有者が変わった旨のご挨拶のお手紙を出します。そこに、家賃の振込先の変更の旨を書いておきます。そして、前オーナーと連名でお手紙を出すことが重要です。前オーナーとしっかり話ができていれば、賃借人は安心します。
※実際には賃貸借契約の作り直しなどは必要はありません。また、オーナーに変わったことの承諾を賃借人に取らなければならない法的な理由もありません。前オーナーからオーナー変更のお知らせを出してもらえればそれで法的には完了です。
さて、お手紙を出したら、挨拶スタートです。当然ですが、いきなり行って、
「こんにちは~、新オーナーです。」
で、会ってくれる方は1割から2割で非常に効率が悪いので事前に電話して、アポイントを取っておきます。アポイントを取ろうとして、なかなか、会おうとしてくれない人は危険です。この段階では私は単なる新オーナーで押し売り(セールス)ではありません。
契約書や家賃の振込先変更の説明と言っているのに会いたがらないというのは、『来てもらっては困る。』なにかがあると考えて良いでしょう。この『危険な賃借人』から、交渉に入ります。なぜなら、こういう方は会うのも交渉するのも時間が掛かるので最後まで残ってしまうからです。
私の目的は再開発ですから、全員に出て行ってもらわなければならないので、どんなに他の方を早く立ち退いてもらっても、1人に居座られたらおしまいです。ですから、危険な人から交渉するわけです。
もっとも、このマンションで会いたがらない人は4人しかいませんでした。私は立退き交渉はこの時が初めてですから、それが多いのか少ないのかは解らなかったのですが、後にこれは約1割で少ない方だということが解ります。
その内、1名の方は会いたがらない理由が明確でした。
それは不動産関係の方で、契約書の新作成などが不要であることをちゃんと理解しているからでした。しかし、こういう方は話が早いです。我々のこの物件の購入した意図を正直に話して、後は立退き料の話ですが、相場をちゃんと知っていますから、大幅に値切ることもできませんが、無茶なことも言ってきません。
問題はあとの3名です。
1名は電話を何回しても出ません。
1名はなぜか、いつ電話してもいるんですが、忙しいからと言って会ってくれません。
そして、もう1名は・・・電話には出ますが、言葉が通じません。
相手が何を言っているかも、私が殆ど理解できません。
(私は義務教育レベルの英語と日本語が理解できるだけです。)
契約書にはカタカナで名前が書いてありました。しかし、この方は必ずしも会いたがらないわけではなく、言葉が通じなくてアポイントが取れないだけなので、後回しにします。
まずはこの電話にぜんぜん、出てくれない人から交渉開始です。
と、自分の中で勝手に決定しても電話には出てくれないのでアポイントは取れません。
さて契約書をチェックすると名前はYさん、年齢は・・・っと
80歳を超えています!
仕事は無し・・・
一人暮らし・・・
なんとなく不安になりながらも、とりあえずアポイントが取れないので現地に向かいます。メールボックスを確認すると、特に郵便類が溜まっている様子はありません。ということはメールボックスは誰かが確認している可能性が高いと思い、今度はお部屋まで行って、呼鈴を鳴らすも全く反応はありません。
(居ないのかな?)
と思いつつもドアに耳をあててみると、テレビの音声と思われるものが聞こえます。しかし、呼鈴を鳴らしても出ないので、その日は帰ることにしました。
さて、翌日です。
私は諦めるわけにもいかないので、この日もやってきました。
呼鈴の反応は相変わらずありません。しかし、この日もテレビの音声は聞こえます。この事態は当然、想像ができたので、手紙をもってきました。
『新オーナーで挨拶に来ましたが、電話も呼鈴も応答がありません。しかし、テレビの音声が聞こえるので中にいらっしゃると思うのですが、もし、倒れていて動けないなどのことがあったら心配ですから明日は合鍵で開錠します。』
という内容です。
手紙を玄関についている郵便受けに入れて、この日は帰りました。
さて、翌日・・・
相変わらず電話は出ません。
呼鈴を鳴らすも反応は無し・・・。
テレビの音声は聞こえます。
ここで、自分の中では本当に手紙に書いた事態が心配になってきました。
一応、ドア越しに
「鍵を開けますよ~~~~」
と何度か言って、合鍵で鍵を開けました。
(チェーンが掛かってる!!!中には誰か居るってことじゃないか!!!)
もう、頭の中ではYさんがテレビの前で倒れている姿しかありません。
私は必死に少しだけ開いている玄関から、
「Yさん、Yさん」
と叫びました。
開錠してから、10分ぐらいがたったでしょうか・・・
まだ、玄関越しに名前を呼んでいると、誰かが私の肩を叩きました。
振り返ると、ちょっとルーズな背広を着た男性が2名。私が何も言う前にそのうちの一人が
「建造物不法侵入の現行犯で逮捕します。」
「えっ・・・」
一生懸命に事態を説明したのですが
「詳しい話は警察署で聞きますから・・・」
の一点張り。
私はそのまま、パトカーに乗せられて警察署に連れて行かれました。
立退き1件目でいきなり逮捕された立退き屋さんとなってしまいました。
続く・・・
【経緯】外伝2【立退き】
さて、前回の続きです。
そのマンションの購入申込をしてしまったのですが、
買わないで済むチャンスが直前にありました。
ここまでの間に売主と私は何度か打合せを行っていました。
その物件の境界確認は売主が完了して、実測を行った上での売買ということでした。
※これを実測売買と言います。実測を行わないで登記簿の面積で行う売買のことを公簿売買と言います。
この境界確定が行われてない状態で不動産を買ってしまうと大きなトラブルが発生します。
例えば、境界付近に塀があったとします。
その塀は自分の物のつもりだったのが、実際に境界を確定したら
『相手の土地と自分の土地の間にまたがっていた。』
自分としてはそこに綺麗なオフィスビルを作りたいからその塀を作り直したいけど、所有権が明確にならなくなっているので作り直せない・・・
そして、境界が確定しないので土地の面積も確定しないから建物を作るのにも困るし、次の売却の時も買い手が付かない。
という事態が発生します。
そして、この様なことは信じがたい話ですが良くあることなんです。
本題に戻りますが、契約前日になって、隣地の一箇所の境界が確定していませんでした。
理由は隣地の所有者と連絡が取れないという問題です。
隣地は借地で所有者がその場にいなくて連絡が取れなかったのです。
私はN氏に『境界が確定しないと、当然、社内の承諾は取れない』ということを伝えます。
N氏はもう、必死です。
契約前日の夜11時を過ぎた段階で私はこの契約を断念しようということをN氏に伝えたのですがN氏は諦めません。
「契約までに境界を確定すれば問題ないわけですよね!。私が今から隣地所有者のところに行って押印してもらってきます!。」
(この仕事は売主の仕事でN氏の仕事ではありません。)
私は絶対に無理だと思いながらもN氏からの連絡を待ちます。
ついに午前0時をまわって、契約当日に突入。
午前2時ぐらいに携帯が鳴りました。N氏からです。
「隣地所有者のところに来ているんですが呼鈴鳴らしても出てきません。」
私は一言・・・
「当たり前だろ・・・。」
さて、朝になって、その旨を上司に報告しました。
契約日になって境界が確定していないで契約が流れる・・・
怒られるだろうなぁ・・・と思いながら報告しました。
すると上司は・・・
「N氏の意気込みを買った!
契約後にN氏と協力して境界を確定しろ!」
と言い出しました。
(おいおい、5億からの取引なのに意気込みでいいのか・・・)
と思いつつも、上司が良いというので当時の私もよく解っていなかったのであえて反論もしませんでした。
今考えれば、上司も上司で、境界確定の重要性が解ってなかっただけの話です。しかし、その物件はこうやって無事に買えることとなってしまいました。
さて、次回からは購入後の立退きの話を書きます。
【経緯】外伝1【立退き】
さて、経緯1で書いた、私が戸建の仕事から離れて
行っていた仕事の話のことをちょっと書きます。
私は戸建の設計などの仕事をしていたのは書いた通りなんですが、その会社の中ではPCのスキルが高かったこともあり
(そのハウスメーカーの当時のPCスキルは相当低かったんですが・・・)
収益不動産の事業部から、外部に委託していた収支計画を社内で作れるように、収支計画を解析して、ソフト化して欲しいということで設計部門から収益不動産部門にレンタル移籍しました。
しかし、当初の約束ではその収支計画を社内で作れる様にすれば私は設計部門に戻るはずだったのに・・・
まぁ、サラリーマンっていうのはそんなもんです。
私が戻るどころか、更に他の部署から人を呼び、
中途採用でどんどん人を増やしていきました。
それだけ、収益不動産事業は世の中で流行っていきました。
さて、その収支計画のソフトを2ヶ月程度で完成した私は
今度は、不動産開発の仕事をやることになりました。
もともと、ハウスメーカーということもあり、開発リスクを背負うことにあまり抵抗はなかったらしく、収益不動産事業とは言っても殆どが、再開発ビジネスとなります。
しかし、私はもともと、設計の仕事をしていましたから、
私は不動産会社に知り合いはいませんし、土地の買収のしかたは専門外でした。
他の担当者は不動産会社や金融機関から入った情報で
めぼしい物件を毎日見に行ってました。
私はやることがないので収支計画のソフトのメンテナンスやら物件情報管理をアクセスで作ったりと、一人会社の席にいました。
そんな日々が部署を移籍してから5ヶ月ぐらい続いた、まだ、残暑が厳しい9月のある日に総務部から電話がありました。
「代表電話に○○不動産(大手仲介会社)のNさんという方から収益不動産のご案内ということで電話が入っていますが、こちらの部署にお電話を繋いでよろしいでしょうか?」
私は暇をもてあましていたこともあり、また私しか部署に人がいなかったので
「どうぞ・・・」と言って、そのN氏の電話を受けることにしました。
いかにも仲介会社の若手社員と言った感じで元気のいい声で
「御社は戸建事業以外に収益事業もやられているんですね!今日の日経新聞を見ました!!大変、面白い物件があるんですよ!是非、ご紹介したいんですが、一度、御社に伺ってもよろしいでしょうか?」
私は断る理由もないので
「いいですよ。」と言うと
N氏は「じゃあ、相澤さんのお時間のよい時に伺いたいのですが!」
と言うので、もの凄く暇だった私は「今、暇ですよ!」と冗談で言ったつもりでした。
しかし、あとで解るのですが、その当時は元気だけがとりえのN氏は
「じゃあ、今、すぐに行きます!」と言って電話を切りました。
その会社と当時の私の会社は電車に乗ってる時間が22分、双方の歩く時間が10分は掛かります。
それなのに本当に40分でN氏はやってきました。
一般的な自分達の自己紹介をして私は戸建の設計が専門であること、N氏はこの業界に入ってまだ5ヶ月であることなども話しました。
そしてN氏は東京都中央区にある築20年ぐらいの賃貸マンションの物件を紹介してきたのです。
ぱっと見た目もいかにも管理が届いていないボロいマンションで
利回りもそんなに良くなく、私は(この物件のなにが面白いんだろう?)と思いました。
しかし、N氏は私の顔色を見て、その物件の計画を話し出しました。
このマンションを壊して再開発すれば、よい収益物件になります!
たしかに、オフィスでも新しいマンションにしても収益物件として良い物件になりそうな立地です。
そのマンションはその時点でほぼ90%ぐらいの入居者がいました。
ところが、私とN氏は当時は立退きを行うということがどれだけ大変なことなのか、解っていませんでした。
まだ業界に入って間もないN氏、暇をもてあましている私はあとでどれだけ大変なことになるかも解らずにそのマンションを立ち退きをして再開発する計画を進めます。
そして、不運にもその計画が私の勤める会社の中で承認されてしまいました。
そして90%稼動のマンションの購入申込をしてしまいました・・・。
立退き屋、地上げ屋の仲間入りをする瞬間でした。
続く・・・