【開発】大規模小売店舗立地法1
さて、今回は大規模小売店舗立地法です。
大規模小売店舗立地法(以下、「大店立地法」と言います。)という法律をご存知でしょうか?
この法律、建築の専門の方も不動産の方も、あまり詳しい方がいません。しかし、私の様に商業施設の開発をやっていると、この法律を避けて通ることができません。
では、大店立地法の概要と歴史を書いておきます。
【概要】
大店立地法の管轄は原則として都道府県にあります。経済産業省が定めている法律ですが、各都道府県が規制する内容を制定することができます。
基本的には売り場面積が1000㎡を超える、物販店舗を新規に作る場合に必要な許可制度です。
では、売り場面積が1000㎡を超えると、どんな規制が掛かるかと言うと・・・
・ 駐車場台数や駐輪場台数の確保(売り場面積と駅からの距離などで台数が変化します。)
・ 渋滞対策
・ 騒音対策
・ ゴミなどの搬出対策
などなどの規制がありますが、一番、やっかいなのは駐車場の確保です。
極端な話をすれば、都心のど真ん中の商業地であって、とても自動車で来る人なんかいないだろうと、思われる場所でも、この法律は有効です。
また、経済産業省管轄の為、一級建築士試験や宅地建物取引主任試験などにも、ほとんど出てきません。その為、この法律に詳しい方というのが、あまりいない訳です。
また、この法律のやっかいなのは、申請から許可までに最低でも8ヶ月ぐらいかかります。以前は、基本設計が完了した時点で、大店立地法の申請をします。そして、実施設計を行って、確認申請が完了するまでに、大店立地法の許可を取得するという方法でした。
大店立地法は、住民との交渉などもあり、ちょくちょくプラン内容が変わったりします。以前はその度に確認申請に軽微の変更を掛けたりしていました。
しかし、建築基準法改正に伴って、プランが変わると、確認申請が最初から出しなおしになったり、構造計算のやり直しなど、面倒な手続きになります。そこで、大店立地法の許可がおりてから確認申請を出すことになるので、大店立地法申請から確認取得までに1年以上を要するようになります。このタイムロスがこの法律のやっかいなところです。
【歴史】
では、そもそも、なんでこんな法律があるかというと・・・
よく勘違いされるのが、イオンやイトーヨーカドーの様な、大型店が出店すると、その地域の商店街などが空洞化してしまい、地域経済が破綻するために定められた法律。と思っている方が多い様です。地方の役所などで、若い大店立地法の担当の方と話しても、地域経済保護の為に定められた法律だと思っている方もいます。
たしかに、現在のこの法律は『まちづくり三法』の一つでシャッター商店街阻止の為の法律になっているのは事実ですし、1950年代後半に大型のスーパーマーケットの進出で地域商店街の大型店舗出店反対運動に連動したのは事実です。
しかし、最大の目的は、アメリカなどの大型スーパーの日本上陸を防ぐための国内産業の保護が目的だったといわれています。
また、大店立地法に近い法律で百貨店法という法律がありました。それの拡大版が大店立地法になったとも言われていて、最初は1974年に施行されています。その後、幾度の改定を経て、現在の法律になっています。
さて、過去にも、この法律を逃れる為に色々な手法が見られたのですが、現在の法律を逃れる為に、出来た商業施設の話を次回から、書いていきます。
ちょっと、小難しい話だったけど・・・
【開発】L字溝 第10話 最終回
前回から、この話題がだいぶ空いてしまいましたが、今回が最終回になります。
前回以前の話はこちらからどうぞ。
【開発】L字溝 第1話
【開発】L字溝 第2話
【開発】L字溝 第3話
【開発】L字溝 第4話
【開発】L字溝 第5話
【開発】L字溝 第6話
【開発】L字溝 第7話
【開発】L字溝 第8話
【開発】L字溝 第9話
さて、私は隣地の買収などできるわけが無いこともわかっていて、また、お店のオープンまでに間に合わせないといけないという、厳しい状況に追い込まれていました。
そこで、いろいろ考えて、前回の話の通り、電柱が必要で電柱は道路上に立てることができるのなら・・・
ということで擁壁をL字溝で押し通すことにしました。
さて、すぐに役所に行くと、隣地となにも交渉してないと思われるので、1週間空けてから、再びS区役所の道路課に行くことにしました。
S区役所のすぐそばの喫茶店で設計のM氏と現場監督のY氏と待ち合わせました。
緑字・・・M氏 赤字・・・Y氏
「相澤さん、いくらなんでも高さが1mの擁壁ですよ・・・。それをL字溝だって言うわけですよね。無理だと思いますよ・・・」
「僕も無理だと思います。」
「正直言えば、言おうとしていることが強引だということは解ってるけど、隣地が買収できなかった以上、何もしなければ、隣地の土はこちらの道路に流れてくる。我々も困るが、隣地も困る。これを放置することはS区としても難しい話だ。しかし、道路上に何かを置くということをS区としても認めるわけにはいかない。そこで、道路上に置いて良い物という大義名分をS区に与えてあげれば、S区も認めるのではないかと・・・」
「まぁ・・・他に代案もないので・・・とりあえず・・・」
「あっ、途中で口を挟むなよ。」
さて、S区の道路課に突入です。
「すいませ~ん。」
「あっ、また君たちか・・・。隣地との交渉は上手くいった?」
「いえ・・・それがまったくダメでして・・・」
「そりゃ、困ったな。」
「そこで、ご相談があるんですが・・・」
「なんだ?」
「今回の擁壁をL字溝ということで認めてもらえませんか?」
「はっ?きみ・・・L字溝ってどんなものか知ってる?」
「一般的なものは知っているつもりです。」
「一応、解らないといけないから教えてあげとこうか?こういうもんだよ!」
と写真を見せられました。一応、途中から読んでいる方の為に写真を載せると・・・
これがL字溝です。
「はい。存じております。しかし、S区としてはL字溝は道路幅員内にあることは認めますよね?」
「そりゃ、『L・字・溝』ならばね」
「では、お伺いします。L字溝の定義を教えて下さい。」
「あのなぁ・・・L字溝っていうのは道路上の雨水を排水溝に流す為のものだ。断面がL字になっているものだぞ」
「今回の我々の擁壁も下に排水溝は設けてますし、断面も一応、L字です。」
「大きさが全然違うだろ!」
「では、L字溝というのは、建築基準法で大きさが定められているわけですか?」
※JIS規格ではもちろん定められています。しかし、JIS規格の製品を使うことを建築基準法では定めていないはずです。
「それは屁理屈だろ!」
「もちろん、屁理屈なのは解っています。しかし、他に何か案がありますかね?もし、あればお知恵を拝借したいのですが・・・」
「ちょっと、待ってろ!」
と、担当官は上司と思われる人としばらく話していました。
待つこと15分ほどして・・・
「今回だけだぞ!!!!!!」
「あのぉ・・・。S区が承認したという書面をいただけませんか?」
「無理だよ!図々しいにも程があると思わないか!?」
「ですよね。わかりました。」
さすがにS区の立場を考えるとそれは無理だということはわかりました。
というわけで、作ったL字溝ならぬ擁壁は・・・
こちらです。
クリックすると拡大します。
写真右側の、ライトが埋め込まれている塀が私が『L字溝』と言ったものです。この塀の下にグレーチングが写っているのを見れば解るとおり、雨水の処理能力もちゃんとあります。(ゲリラ豪雨であふれたけど・・・)
奥のバイクを見れば解るとおり、高さも結構あります。ちなみに一番に奥に写っている階段もついでにL字溝ということにしてもらいました。断面が全然L字じゃないけど・・・。
その後、私はS区の道路課から
「もう、うちの敷居はまたがないでくれ!」
と、出入り禁止にされてしまいました。
長々と書いて、くだらないオチだったけど・・・
【開発】L字溝 第9話
今日は群馬県で竜巻が発生するなどして大変だったようですが、うちの事務所からは夕方に虹が出ていました。
ちょっと解りにくいですが、右の白いビルのすぐ左側です。
さて、L字溝の続きです。
前回の話の通り道路課に行くことになりました。
当時のS区の道路課は建築指導課の隣にありました。隣と言っても壁があるわけではなく(役所なので部署が違えば見えない分厚い壁はあるのでしょうが・・・)、建築指導課と道路課の担当者は背中合わせで仕事をしています。話は聞こえていたと思うのですが・・・一応、同じ内容を道路課にもお話をさせて頂きました。
「というわけで、道路内にこの擁壁を作らさせていただく訳にはいかないでしょうか?」
「いいと思う?」
「原則的にはダメだということは、重々承知しておりますが、隣地の方も敷地内に擁壁を作ることを認めていただけないわけで、八方塞なんです。」
「隣地の人に様壁を作らさせてもらおうとするから、ダメなんだよ」
「へ?と言いますと・・・」
「簡単だよ。隣地を全部、おたくで買収しちゃえば、いいんだよ!」
『それが役所の言う言葉か!!!!!!』
と言いたいのを押さえて・・・・
「では、隣地の方に早速、交渉してきます。が、S区の道路課に買収して来いと言われたと言っていいでしょうか?」
「喧嘩売ってる?」
『どっちがじゃ!』
と言いたいのをぐっと押さえて・・・
「では、我々の意思で購入したいと言ってきます。」
「まぁ、がんばって・・・」
というわけで、この日はS区から撤退することになりました。現場事務所に戻って、再び、設計担当M氏と現場監督Y氏で打合せすることになりました。
緑字・・・M氏 赤字・・・Y氏
「相澤さん、本当に隣地の方に売ってくれと言うんですか?」
「いやいや、仮に認めてくれたとしても工期が間に合いませんよ。」
「う~ん・・・。さっきまでそちらの土地に擁壁を建てさせてくれと言っておいて、今度は土地ごと売ってくれか・・・こりゃ、普通の地上げよりも遥かに難しいぞ。地上げなら採算が合えばできるが、まさか擁壁の為に地上げするなんて経済的に不可能だ・・・」
「じゃあ、どうするんですか?」
「とりあえず、役所にはしばらくたってから行って、売ってもらえなかったことにしよう。」
「しかし、それだけでは擁壁を作って良い許可はもらえないですよ。」
「わかってるよ!」
「なんで、擁壁を道路内に作っちゃいけないんですかね?」
「Yさん、今更なに言ってるんですか!道路幅員が確保できないからですよ!」
「じゃあ、電柱も邪魔ですよね!」
「電柱は必要だからですよ!」
「ん?必要だから・・・。ひらめいた」
「なにがですか!?」
「この擁壁はL字溝ということにしよう!」
「相澤さん、ふざけてます?」
「いたって、大真面目だよ!来週、道路課に行くぞ」
さて、次回は早めに書くので・・・
【開発】L字溝 第8話
前回、『擁壁』が一部、『様壁』になっていました。ご指摘くださった方、有難うございました。
さて、昨日、一昨日と水槽のレイアウト変更をしていて更新がほとんど、できませんでした。今日は三連休最終日ということで時事ネタも殆どありません。というわけで、L字溝の続編です。
さて、二進も三進も行かない状態になってしまった我々は廃道できるかを二項道路に隣接している近隣の方に聞くことにしました。無駄だろうなぁ・・・と思いながら・・・
まず、一番、南側の方です。この方はもともと、今回の工事が始まるときの近隣挨拶の時から仲良くなっていました。案の定、O.Kしてくれました。
南から二軒目ですが、ここは80歳は超えていると思われるお婆さんが一人で住んでいます。人と接するのを嫌がるお婆さんでした。それでも、なんとか会っていただく事はできて、話したら・・・
「ここは私の持ち物じゃなくて、兄の物なのよ・・・」
「え?ではお兄さんはどちらにお住まいですか?」
「北海道の・・・・」
「ホ・・・ホッカイドウですか・・・。ちなみにお兄さんはおいくつですか・・・?」
「大正3年だから・・・」
一応、電話番号だけ聞いて撤退しました。普通なら、すぐに電話を掛けるのですが、相手は90歳の老人です。事情を電話で話してご理解いただけるとはとても思えません。三軒目の了解が貰えてから対策を考えようということになりました。
というわけで、三軒目に行くことになりました。
二軒目の件で実際の所有者じゃない方が住んでいるといけないので、今度は謄本で確認してから行きました。謄本をみると、つい三ヶ月ぐらい前に相続登記がされています。近隣挨拶の時に40歳ぐらいの方が対応してくれていたのですが、この方が亡くなったのかな・・・?と思いつつ、たずねてみると、同じ方でした。
「あ~、三ヶ月前に親父が死んだんだよ。ず~っと、病院にいてね。」
『なるほど・・・』
「でも廃道の件は困るな。」
「そこをなんとかお願いできないでしょうか?」
場合によってはハンコ代も覚悟はしていたのですが・・・
「親父が死んでさぁ・・・。この建物、建て直すんだよ・・・。それで、そちら側の道路にも出られるようにしようと思ってさ。今、設計中なんだよ」
『最悪・・・』
こちら側の道路を切り下げて、この方の土地と道路に高低差が出来ていることをこの方は忘れています。現場は二項道路を含め、工事しているので周囲を囲っていて外から見れません。しかし、道路を切り下げることは近隣にも説明していますし、役所にも届けてはいます。しかし、ここで高低差があることなどを説明すれば、二項道路側の利用を諦めるよりも、自分の敷地内に階段を作って、二項道路側に降りれる様にすると言い出しかねません。この擁壁は照明を入れる計画もあるし、建物の外観と合わせて計画しているので余計なことを言って、擁壁が作れなくなると困ります。
というわけで、我々は話だけ聞いて撤退しました。
「これで、相手側の土地に擁壁を作ることも不可能だな」
「なんでですか?」
「だって、新築して、こちら側の二項道路を利用しようと思っている人がいるわけだろ。仮に、作らしてもらっても相手の土地に作って、擁壁を相手に提供すれば相手は勝手に壊すぞ。もし、相手の土地に擁壁を作らしてもらって、擁壁の所有権をうちのままにしようとすれば相手は壊せないから作ることそのものを拒否するだろ。」
「でも、じゃあ、このまま計画をすすめても相手は擁壁を壊そうとしませんか?」
「二項道路と言っても私道でうちの土地だ。そこにうちが作ったものを相手は壊す権利はない。ましてや、相手はちゃんと公道に面しているわけだから・・・。だから、相手が工事を始める前に擁壁を作る必要があるな。」
「でも、こちら側の土地には、このままでは擁壁は作れないですよね?」
「よし!S区役所に行って、道路内に擁壁を作っていいかを聞きに行こう。」
「認めるわけないでしょ!それより、このまま、黙って作っても役所は気がつかないのでは・・・?」
「道路幅員の為にセットバックしているだろ。こういう時、役所は絶対に当初の計画どおりにセットバックをしているかを確認する。だから、今回は100%バレるよ。もし、黙って、作ってバレたら収拾がつかないぞ。」
「しかし、役所が認めますかね?」
「ダメもとだが、この計画で建築指導課は許可を出したんだ。相手もこのミスに気がつかなかったんだから、多少は協力してくれるだろ。」
というわけでS区役所の建築指導課に我々は行きました。
建築指導課の人に相談すると・・・
「道路課行って!」
と、言われてしまいました。
役人は縦割りだけど・・・
【開発】半値八掛け・・・四割引!
つい昨日から今日に掛けてあった話です。
ある方が渋谷区のある場所の土地を欲しいと言ってきました。
そこは更地なのですが、その人の目的は投資用の商業店舗を作ることです。
「相澤さん・・・売主さんに繋がるかな?」
「もちろん、繋がりますが・・・」
「300万/坪ぐらいで売ってもらえないかなぁ・・・」
「いや~、今の所有者が買った金額・・・750万/坪ですよ。聞いてはみますが・・・。それに平成19年の初めにその土地にあった建物を解体してたときには、今の所有者のところに1200万/坪以上で買いたいという方が殺到してましたよ。」
「まぁ、聞いてくれよ・・・」
で・・・聞いてみると・・・
「う~ん、今は諸事情あって、売れないんだけど・・・。でも価格はO.Kだよ。」
ということでした。
ということは平成19年の初めから見て、2年半の間にその土地は25%の価格になってしまったということです。もっとも路線価も40%ぐらいにはなっているのですが、渋谷、神宮前、表参道、南青山と言った不動産プチバブルの主役となった土地は今は悲惨な状況になっています。
転売目的で持っている会社は軒並み大変なことになってるなと思いました。
もっともほとんどが倒産したか、瀕死の状態ではありますが・・・。
オフィスや商業は賃料のアップダウンが景気の波をもろに受けますし、空室率のリスクなども住宅に比べると、ものすごく大きいです。そこに、期待利回りが上がってくると、土地の値段は急降下します。特に高賃料の場所程、影響を受けやすいものです。
というわけで、この土地も仕事に繋がりませんでした・・・
【開発】L字溝 第7話
さて、前回、何が問題なのかははっきりしたので今回は解決策を練ることにしました。
青字・・・私
赤字・・・Y監督
緑字・・・設計担当M氏
「じゃあ、建物を壁の厚さ分だけ、ずらすか!」
「いや、もう、概ね出来上がってるのにどうやってずらすんですか!?」
「Y監督、ずらせません?」
「相澤さん、出来ないこと解っていて、聞いてるでしょ・・・」
「あっ、じゃあ、2階の道路斜線で引っかかる部分だけカットしちゃいましょうか!ちょっと、工期は掛かるけどそれならできますよね?」
「まぁ、出来ないことはないけど確認の変更が必要になりますよね。」
つまりこんな感じのことを話してるわけです。
Y監督と設計担当のM氏は上図のようなことを話しているわけです。
擁壁を作ると、様壁は道路上に作れないので擁壁の道路側の面から新たに道路幅員を4m取って、敷地を道路に提供します。この場合、建蔽率と容積率が厳しいとアウトなのですが計算上はギリギリ足りていました。しかし、道路がずれたことにより、建物の上の部分が道路斜線にぶつかってしまいます。
そこで赤い部分をカットしようという考えです。当然ですが、確認申請を出した時と建築基準法の要件を満たす内容が変わっているので変更届が必要です。ただ、この時は、まだ姉歯問題による建築基準法改正前だったので、確認申請の変更そのものは大した問題ではありませんでした。
「いや、ダメだな。決定的な問題があるぞ。」
「ん?なんですか?」
「この計画の場合、擁壁は道路じゃ無くなるわけだよな。」
「そうですね。」
「しかも、この擁壁の建っている場所はうちの土地だよな。」
「もちろん、そうですね。」
「ということは、隣地の方々は道路と敷地の間にうちの土地が入っちゃうから、接道してないことになるよな。」
「そういうことになりますね。」
「ってことはだ!隣地から一度、廃道の許可をもらって、道路を新設するというようなことになるぞ。」
「・・・」
「あのなぁ、隣地の人達がそんな簡単に廃道させてくれると思うか?私道とはいえ、二方向に面している。ましてや、こちら側に商業ビルが建てば、それに面することで自分の敷地だって店舗にできると考えれば廃道しない方が価値が高いと考えるのは素人でも解るだろ。」
※廃道・・・建築基準法上の道路となっている私道を廃道をする場合、その道路に隣接する全ての所有者の建物が別の道路に面していて、当該道路を廃道しても問題がなく、また、その当該道路が隣接する建物の二方向避難等の法的要件に抵触してないことを前提に、隣接する敷地の全ての権利者(所有者、借地権者など)から了解をもらえた場合、廃道ができる。
一般的にはそんな簡単にはできず、了解をしてもらう為に金銭解決をする場合が多い。また、この時に支払うお金のことを判子代や印鑑代などと言う。
「じゃあ、擁壁 の土地を隣地所有者に提供しちゃうというのは・・・・」
「あのなぁ・・・坪いくらの土地だかわかってるのか?それだけでうちの会社は1000万以上の損失が出るんだぞ。それにだ、もし提供したら擁壁ごと提供するわけだよな。擁壁の所有権の問題とかが複雑になる。うちの物が隣地の上に建っていれば借地料の問題がでるし、擁壁ごとあげちゃうと、擁壁の管理の問題が発生する上に、擁壁を壊して、こちら側の私道側にアプローチを作るってことも可能になるぞ。」
「なるほど・・・。じゃあ、この案はダメですか?」
「まぁ、相手が3人だからなぁ、廃道の件を聞いてみないとわからないけど・・・」
と、いうわけで隣地所有者に廃道していいかを聞いてみることになりました。
聞いてビックリ衝撃的な事実が発覚することになります。
【開発案件】角地
今日も不動産・建設・住宅業界はネタに乏しい1日ですので、ちょっと過去の話を・・・
平成17年ごろの東京のマンションや収益不動産向けの開発用地で入札物件じゃないものは、本当に早い者勝ちという時代でした。悠長に構えていると、満額ですぐに他の人が手をあげてしまうという状況でした。
本来なら・・・
どんなプランが入るのか?
そのプランは法的にクリアできているのか?
収支はどうなるのか?
土地に瑕疵はないのか?(土壌汚染や境界確定など)
近隣トラブルはないか?
などなどを十分に検討した上で購入に向かって動き出さなければならないのですが、その価格が高い場合にはゆっくり検討して、差値をして・・・ということになるのですが、値段が割安な場合は上記のプロセスが如何に早く検討できるかが勝負になってくるケースが多々ありました。
『好景気だったなぁ・・・』
と感傷に浸ると話がずれていくので本題です。
その平成17年の話です。
その頃の私は大量の物件資料を捌き、その中で目ぼしいものを見に現場に行って帰ってきて、良かったものは即座にボリュームプランを依頼したり、設計事務所の手が空いてない場合は自分でプランを作ったりと、そんな毎日でした。
その日は、ちょうど、梅雨があけて、暑い日だったので今日みたいな日でした。朝から物件を5~6ヶ所、建設中の現場の視察を3ヶ所こなして、汗だくで会社に戻ってきたのは19時に近い時間でした。
すると、当時、自分の部署の責任者だったF部長が私に・・・
※F部長について詳しくはこちら
「お~い、相澤、良い土地の情報があるんだよ~」
このF部長がこういう言い方をした時はろくなことはありません。でも上司ですから・・・
「え・・・どんな土地ですか?」
「この物件概要を見てくれよ。隣にほぼ同じ大きさの土地があって、新築の賃マンが建ったんだけど、竣工1ヶ月経ってないのに満室なんだ。この土地の値段なら、収支はバッチリ合うんだ!」
※賃マン・・・賃貸マンションのこと
私は面倒なのでろくに物件概要を見ないで・・・
「良かったじゃないですか!」
「だろ!もう購入申込してさぁ。そうしたら、相手から来週にでも契約しましょうって返事が来てさぁ!やっぱ、時間勝負だよな!」
「え?土壌は調べたんですか?」
「一応、うちでも調べるけど、所有者はうちの取引先のN社でそこの土壌調査レポートがあって、しかもF2までやってあるから大丈夫だろ。」
※F2・・・実際にその土地をボーリングして土のサンプルを取って汚染がないかを確認すること。ちなみにF1は過去にその土地やその周辺の利用状況から、土壌汚染の有無の可能性を調べること。F1よりもF2の方が当然だが精度は高い。
『じゃあ、なんでN社が自分のところでやらないんだろう・・・』
とは思ったものの・・・
「あっ、そうなんですか・・・」
「まぁ、N社はうちの大事なお客さんでもあるからな!出回る前に物件情報をくれたんだけど、早い返事ができて良かった。」
「でも、N社だと、今から何か問題が見つかっても撤回できないですね・・・」
「なんでそんなネガティブなこと言うんだよ。まぁ、概要をちゃんと見てくれよ。」
と言われたので自分の仕事を置いて、とりあえずそちらの物件概要を見ました。たしかに隣地にN社が既に作った賃貸マンションがあります。そのレントロールも付いています。F部長の言うとおり満室稼動です。
※レントロール・・・その物件の賃貸状況の詳細が書いてある資料
また、この場所は都市計画上の用途は近隣商業地域ですが、商店街からはちょっと距離があり、どちらかというとマンション用地です。
都市計画
近隣商業地域
建蔽率 60%
容積率 300%
日影・高度制限は無し
防火地域
次に敷地測量図を見て唖然としました。敷地測量図はこんな感じです。
(サムネイルになっています。クリックすると拡大します。)
オレンジ色の部分は隣地でN社がマンションを建てたところで、水色が今回の対象地です。
「F部長!この土地には隣のマンションと同じものは建たないですよ」
「なんでだよ!同じ大きさで、しかも角地だぞ!角地緩和だってあるだろ!」
『角地緩和はしってるのか・・・』
と思いつつ・・・
「いや、角地があだになっているんですよ。」
「なんで・・・?」
たしかにF部長の言うように、角地緩和というものがあります。角地の場合、建蔽率が10%緩和されます。さらにこの土地が防火地域であるので、耐火建築物を作れば建蔽率はさらに10%緩和されます。
しかし、この水色の土地の場合、西側の4m道路の道路斜線がまともに当ります。道路斜線には『回り込み』というルールがあって、この土地の場合、8m道路の2倍の16mまで(上図の赤の点線)はその4m道路も8mと考えて良いとルールにはなっていますが8mの道路斜線は掛かります。また、16mより離れたところは、4m道路として考えなければなりません。
オレンジの土地の場合は北側の前面道路だけを考えればよく、道路と敷地の境界ギリギリに建物を建築したと想定すると、道路幅員8m×道路斜線の傾斜率1.5=12mとなり、12mの高さの部分から建物が北側に後退しだすことになります。
この、条件は水色の部分にも言えますが、水色の土地の場合、赤の点線の部分までは4m道路からも同じように道路と敷地の境界線上の高さ12mのラインから、建物が後退しはじめ、赤の点線より南側は4m×1.5=6mの高さから後退しはじめます。
実際には道路から建物を離します。オレンジの土地の建物は道路から2mほど離しているので7階までは垂直に建っていて、8階部分だけがちょっと後退していました。ちなみにオレンジの土地の東西は80cmほどしか開いていません。
水色の土地の場合は同じように8階まで作ろうとすると、4m道路側も道路から2m離さないといけません。仮にそれをしても赤い点線より南側に関して言えば、道路から建物までを4m以上離さないといけません。
つまり、同じ高さの建物を建てたとしても1フロア辺りの面積は消化できません。そこで、9階部分にさらに後退して上を載せるのですが9階部分を載せても9階に2部屋しかとれず、隣地と同じように容積が消化できないということです。
ちなみに天空率を使っても道路の幅員は広がらないのでこの場合はあまり効果がありません。
※もっとも・・・西側も道路に面しているので、西向きに部屋を作れるというメリットはあります。
このことをF部長に説明すると・・・
「どうしよう・・・」
「知りません!」
結局、取引先ということもあり、面子もあって撤回もできずにそのままの購入条件でこの土地を買うことになりました。
しかし、その頃は地価上昇局面だったのでそのミスが十分に帳消しになるような値段でこのマンションは売却できたので事なきを得ました。
開発用地の購入を検討する場合はちゃんと計画を建てないと怖いことになります。特に高容積率のエリアで道路が2方向以上に面している場合などは要注意です。
ボリュームだけ頼まれると困るけど・・・
【開発】L字溝 第6話
さて、何が問題なのか解らないまま、とりあえず現場事務所に行くと、設計担当のM氏が
「百聞は一見なので、とりあえず現場に行きましょう。」
と言うので早速、現場に行きました。現場に着いて、問題の私道と隣地の境界を見ると・・・
※私道側から隣地を見た絵です。
(サムネイルになっています。クリックすると拡大します。)
赤線は設計GLで点線はもともと私道があった部分で今回の工事で鋤取っています。(鋤取り=切土)実際に現場では点線も赤線も見えません。
※設計GL・・・設計上の基準点となる高さのこと。今回は道路斜線をギリギリで交わす為に、道路高さと設計GLを同じ高さにしています。
上図のグレーの部分は隣地のブロック塀、茶色の部分は土です。
現場に行くと、もともと傾斜していた、私道を鋤取った為に私道と隣地の間にあったブロック塀の下の土が見えてます。このままでは、ブロック塀のこちら側の支えが無いので塀がこちら側に倒れてしまいます。
「これは、まずいなぁ・・・。塀を作り直すか、このブロック塀と抱き合わせる格好でこちら側に塀を作らないとまずいね。」
「いや、それがどっちもできないんですよ・・・。」
「なんで・・・」
「隣地の建物はこのブロック塀に接する様に塀が建っています。つまり、新設しようとすると、基礎が作れません。」
「じゃあ、こちら側の敷地に抱き合わせで擁壁を作るか・・・」
「いや、それもできないんですよ。こちら側の敷地は建築基準法上の道路です。今回、この私道は2項道路で4mに満たなかった道路幅員を今回、建てた建物側に道路を10cm拡張しています。もし、擁壁を建て様とすると、道路内に擁壁を作ることになります。道路幅員は擁壁の道路側の面(ツラ)から測定するので、擁壁の厚さ分、道路幅員が足らなくなってしまします。」
(っつうか、落ち着いて話してる場合か!?)
「・・・」
この時点で、この問題の大きさに気がつきました。
次回は問題解決の為の打合せです。
しばらく、更新してなかったけど・・・
【開発】L字溝 第5話
※ 前回、メッセージで解答を下さった方、有難うございました。さすがに設計関係の方しか解答はありませんでしたが、正解はありませんでした。っていうか、正解を導く為の状況説明が足りなかったと反省しています。
さて、前話の様な内容で無事に確認申請も合格したのですが・・・。このエリアは商業化が進んでいるエリアと言っても元々は住宅街です。ですから、小さいとはいえ、店舗を作ることに周辺の反対がありました。実施設計はすでに設計事務所(設計担当はM氏です。)に任せていましたので、私の仕事は近隣対策とリーシングに移行していました。
もう、細かい計画のことは頭から抜けていたのです・・・。
近隣の方にもようやく、ご理解を頂き、近隣の方とは仲良くなっていました。
リーシングも一棟で借りてくれる物販を見つけることができました。外資系の物販店で内装の打合せに、その会社の本国から明け方に電話が掛かってきてやり取りをするのに、少し、うんざりしていましたが、それも終って、後は竣工を待つばかりでした。
竣工まであと3週間。建物も殆どできて、既にテナントのB工事に入っていました。A工事の範囲はあとは外構と外部階段の塗装を残すぐらいになっていた頃・・・
※ A工事・・・施主負担の工事。
※ B工事・・・テナント負担でテナントの為に施主が工事してあげること。
注 C工事・・・テナント負担でテナント自信が工事すること。
現場監督のYさんから電話が掛かってきました。この現場は大手ゼネコンのO建設に発注していましたが、実際に工事をしていたのは下請けのF建設で、YさんはF建設のベテラン監督です。
「相澤さんですか?隣地との境界の仕上げはどうすればいいですかね?」
「は?細かいことはM氏に聞いてください。」
「いや・・・Mさん、ここにいるんですけど・・・」
なんとなく、困った様子が電話の向こうから伝わってきます。
「M氏に替わってもらえますか?」
すぐに設計のM氏が電話に出ました。
「相澤さん、すいません・・・。大きな見落としがありました。」
「どうしたんですか?」
「隣地と私道の部分の仕上げを忘れてました。」
その時、私はM氏が、私道と隣地の仕上げを忘れていて、ゼネコンがその部分を見積に入れてないものなのだと、まったくの勘違いをしていました。
「ん?それで、いくら追加が発生するんですか?」
この物件は当初の予算よりも多少の余裕があったので、あっさりとこの言葉が出ました。
「いや、予算は見てるんですが・・・」
「じゃあ、何を忘れてたんですか?」
「仕上げの厚みを・・・、あ、これから相澤さんの所に伺って説明します。」
「いや、私がそっちに行きますよ。別件もあるので・・・」
テナントとの打合せがあったので実際にその物件に行く用事がありました。
私は電車の中で図面(製本)を広げて、敷地と隣地の間の部分を確認してみました。
ちゃんと、擁壁の図面が入っています。厚みも細かく指示してあります。展開図を見てもおかしな点はありませんでした。(今、考えればこの時点で気がつかなかったことが恥ずかしいです。もっともこの時点ですでに手遅れだったのですが・・・)
私道(2項道路)と隣地の計画はこうでした。
平面(サムネイルになっています。クリックすると拡大します。)
立面(サムネイルになっています。クリックすると拡大します。)
※「一級建築士の割に毎回々々、随分とチープな絵を描くねぇ」というご批判もありますが、なにしろ、パワーポイントで描いていますのでご容赦ください。
「はい!そこの貴方、CADを使え!とか無茶を言わないように!」
電車の中でこの絵を見ていても私はまだ気がついていませんでした。
ここまで来ると、何がミスなのか気がついた方もいるかもしれません。
私も、この絵を眺めた30分後には気がつきました。
現場を見て・・・
次回は、ようやく何をミスったかに入ります。
やたらと長い話だけど・・・
【開発】L字溝 第4話
前回、無理矢理、L字溝ネタを書こうとして、前置きが長くなって本題があまり進まなかったので今回はいきなり本題にはいります。
今回の敷地は道路が狭いことと、道路から見て土地が高いことにあります。
そこで、下の絵の様な計画を立てました。
(サムネイルになっているのでクリックしてください。)
まず、商業ビルなので、なるべく天井高が欲しいので、建蔽率を消化できる最大まで建物を道路から後退させます。これは東側の2項道路に対しても同様です。
※2項道路は建築基準法で認められている道路です。従って、それが私道であっても道路斜線は掛かります。
建物の高さが7mあれば概ね満足できる高さなので道路から80cm後退しました。
前回に書いた式を当てはめると
(道路幅員4m+セットバック80cm×2)×1.25=7m
となるわけです。
しかし、これでは土地の方が道路より高いので、建物は土地に少し、埋まっていることになります。そこで、土地(上図の薄い黄色の部分)を切土して、道路と同じ高さにします。
※1 切土・・・土地を削ること。
※2 傾斜になっている土地を削ったり、もしくは盛土をすると宅地造成規制法の対象になる場合があります。切土で2m以上、盛土で1m以上の崖が出来ると抵触します。今回は1mなのでセーフです。
また、建物を建てる部分の土地だけを切土すると東側の2項道路の方が高くなってしまいますから東側の2項道路から利用することができません。建物の中に2項道路から降りる階段を作ることも考えましたが、2項道路そのものが傾斜しているので、それもできません。
そこで、2項道路(上図の薄い水色部分)も切土してしまうことにしました。
さて、これが建築の概要です。実はここまでの概要は現場や敷地測量図を見ただけで、頭の中で計画を立てています。
しかし、この計画に決定的なミスがありました・・・。しかし、この計画内容で確認申請もちゃんと取れています。つまり、S区の建築指導課の建築主事もミスには気がつかなかったのです。
この時点でこの計画のミスに気がついた方はメッセージで答えてください。
(コメントだと、ネタバレをしなくてはいけなくなるので!それと関係者の方はくれぐれもネタバレをしないでください。)
まだまだ、続くけど・・・